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    itsugogatsu

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    オル光♂になっていく予定のもの

    *2/21 
    *3/15 更新

     新顔の冒険者をエーテライトのそばで見かけた、という噂を小耳に挟み、オルシュファンは期待に胸を膨らませていた。エーテライトとの交感を済ませるやいなやチョコボに跨り、忙しなくどこかへ走り去ってしまったというその冒険者がこの辺りでは珍しいヴィエラ族であると言うのだから尚のことだった。
     なにか目的があってこのクルザスを訪れたのだろうが、その合間を縫って自分に会ってくれるだろうか。どれほどの美しい肢体を持って現れ、心躍る冒険譚を語るのだろうか。ひとりでに溢れた笑みをごまかしもせず、彼は未来を夢想している。
     それはそう遠くないうちに実現する未来ではあるのだが、思いもよらない事件までおまけについてくるとはまだ誰も知らないことであった。

     キャンプ・ドラゴンヘッドを冒険者が訪れてから数日後。噂の人はアドネール占星台にてちょうど渋い顔をしていた。飛空艇エンタープライズの捜索に追われているというのに、謀略の一端を目にしてしまったからには黙って見過ごすことなどできないのだ。なんとも損な性分である。
     どうするのか、と呼びかける旅の仲間に視線をやるためもたげた頭と同時に、頭のてっぺんで長い耳がゆらりと揺れる。
    「ひとまず依頼通りフランセル卿を訪ねて来るよ。良い方へ話が転ばなければ、依頼は達成したと言って切り上げるさ」
    「ああ、調略を逃れる足掛かりにでもなれば見返りも期待できるだろう。私たちは引き続きこのあたりで聞き込みを続ける。頼んだよ、カルミネ」
    「うん。何かあったら連絡する」
     冒険者の名はカルミネと言った。たおやかに目を細めて愛チョコボを呼び出し、颯爽と駆けていく彼の旅慣れた後ろ姿を、共に飛空艇捜索にあたっているアルフィノとシドは黙って見送る。
     極寒のクルザスでは恋しい、スパイスワインのようなこっくりとした赤色の髪。あたたかい紅茶にたっぷりと溶かしたくなるはちみつ色の瞳。カルミネのことを考えるとなぜだかそういったものを求めてしまうものだから、まずは体を温めてからか、とふたりは屋内へ向かうことにする。
     ヴィエラ族の中でもひと際背の高いカルミネは、その背と比べてなお大きいと思わせる弓を担いで二柱も蛮神を屠ってしまったのだ。彼に任せておけばとりあえず悪いことにはならないだろうと、シドは、そしてアルフィノも、うっすらと信じている。
     


     アドネール占星台からアートボルグ砦群まではそう遠い距離ではない。冒険者たるカルミネは、チョコボが雪を踏みしめる軽い音と揺れに身を任せて一面銀世界の景色を楽しんでいる。愛チョコボの珊瑚色をした羽も真っ白な雪によく映えるものだから、ことさら気分が弾むものだ。
     とはいっても。依頼人の元雇い主という人物に会いに向かっているというのに、こんな能天気ではいけない。イシュガルドの内政について詳しいわけではないが、宗教をもって治められている国だということくらいは聞いたことがあった。そんな中で実は異教の信徒だったとか、戒律に反する行いをしただとか、言いがかりをつけられてしまったら最後だということもカルミネは何となく察している。

     件のフランセルという貴族のことも、かの国の情勢を鑑みるとこのまま放置しておくには油っぽすぎるのだ。近頃はあまりぱっとしない一家だと聞いているものの、依頼人の兵士は主家が冒険者を腫物のように扱うところを見ていたくせにカルミネに助けを求めた。ならば相応の人格と人望を備えていて、もしかするとイシュガルド国内へのパイプ役にもなってくれるかもしれない。そうなればエンタープライズの捜索も格段にやりやすくなるな、と彼は淡い期待を抱いていた。
    「失礼。言伝を預かってきたのですが、こちらにフランセル卿はお見えでしょうか」
    「それならのこと僕だが……キミは?」
     まだ幼さが残る丸い頬の青年がカルミネを見上げる。想像していたよりもずっと歳若い彼の訝しげな表情は、冒険者が告げた花の名を聞いてようやく少し和らぐ。しかしそれもつかの間のことだ。自らに異端の嫌疑がかかっているという知らせを耳にして、フランセルは眉根を寄せている。
     冒険者もまた、密かに眉尻を下げる。竜眼の祈鎖と呼ばれるシンボルひとつで何をそんなに大げさに騒ぎ立てることがあるのだろうか。今こうして目の前で起こっているように、他者を失脚させようとするにはうってつけのあまりにもうさんくさい代物がまかり通っているなんて。これほど簡単に名家の子息を陥れられるものがあってなお、大きな政変が起きていないことが不思議でならないのだ。平素はぴんと立っている耳もどこか力なく芯がない。
    「……これを持っているとすぐに処罰されてしまうのですか?」
    「いくぶんの猶予はあるだろう。異端ではないことを示す方法が……なにかあればよいのだが……」
    「心中お察しいたします。我々はまだしばらくアドネール占星台に滞在してますので、力になれることがあったら呼んでくださいね」
    「……ああ、カルミネ、待ってくれ。こうして僕を信じてくれたキミたちに、礼のひとつくらいさせてくれないだろうか」
     
     こんなに厳しい状況下のフランセルたちに協力を望むのは酷だろう、とその場から立ち去ろうとするカルミネを渦中の本人が引き留めた。ただ伝言を預かって来ただけだというのに義理堅いものではあるが、その申し出はカルミネにとってはありがたい。そうして旅の目的を話し始めた彼のことをフランセルは頷きながら見つめている。
    「そうか……キミもまた過酷な旅の途中なんだね。便宜を図ってあげたいところだが、異端者の嫌疑を受けた身では、言葉のひとつも通せない」
    「お気遣いなく。ここへ伝言を届けに来たのも捜索のついでです」
    「ううん、そうはいってもだ…………そうだ、かわりに砦の北にあるキャンプ・ドラゴンヘッドを預かる騎士、オルシュファンへの紹介状を書いてあげよう。彼は、四大名家の中でも傭兵や冒険者の受け入れに積極的なフォルタン家の騎士で……僕の親友だ。きっと、キミの力になってくれるよ」
     さらさらと紙にペンを走らせるフランセルの頭を見下ろしたまま、カルミネは考える。自分たちになにかできることはあるのだろうか。ペン先が上質な紙にひっかかる音が耳に心地よい。
     オルシュファンという人物の名を口にした途端、彼の気配が少し和らいだように見えた。親友とわざわざ口にするくらいなのだからきっと多大な信頼を寄せているのだろう。そんな人を突然現れた一介の冒険者である自分に紹介してもらうほどのことはしていないのだが、このまま紹介状を手にしてよいのだろうか。
     単に彼は底抜けに善良なのか、それとも今後さらなる働きを求められるのか、という疑問の答えはどうやら前者のようである。自信たっぷりな表情でフランセルが手紙を差し出すのを受け取り、カルミネもまた微笑んだ。
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