揺蕩う紫煙は不思議と心地良くて、揺り籠に揺られているような気持ちになる。
「あなたもよく飽きないね」
「オレはお喋り好きでね」
よく話題が尽きないものだと感心するほどにテスカトリポカはその都度違う話を聞かせてくれる。
勇敢な戦士の話、神々の話、生き残るための術、最近見た映画、お気に入りの武器……ジャンルはコロコロ変わり一貫性はない。
たまに相槌を打つくらいの聞き手に気分を害する様子もなく、ふらりと現れては立香が眠りに落ちるまでひとしきり話をして、朝にはその姿を消している。
寝物語を聞かせにやってきているようにも思えるが、真意はわからない。
死の神とは思えないほどにその声色は優しく響く。
霧に包まれるように意識が眠りへと誘われる。
(穏やかな死ってこんな感じなんだろうか)
それはきっと、自分が望んではならないものだと自嘲の笑みが口端に浮かんだ。