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    しゃろ

    @syaro_ENTK

    BL二次創作小説だけ。今は宿虎メイン。

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    しゃろ

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    ・怪異生前宿儺×ショタ虎杖
    ・学校帰りに突然雨に降られたショタ虎杖が雨宿りをしていると、目には見えない何かがやってきて…

    #宿虎
    sukuita
    #ホラー
    horror
    #生前宿虎
    livingTigers

    雨宿り #宿虎怪奇譚 その日は、朝から雨が降っていた。

     雨足はそこまで酷くはなかったが、ピカピカのランドセルが濡れないようにランドセルを背負ったまま着られる雨合羽を羽織り、新品の雨靴を履いて。

    「差して行きなさい」

     と、出掛けに渡された黄色い傘は差さずに手に持ったままの悠仁は今日も元気に学校へと向かって行った。

     そんな日の帰り道でのこと。

     悠仁が行きと同じく、傘を差さずに道を歩いていると急に雨足が強くなってきた。それは最早雨合羽だけでは対応しきれず、かといって傘を差したところで意味を成さない程の強い雨へと変わっていった。

    「わ、わわっ、ぬれる!」

     段々と激しくなる雨足に急かされるように駆け出した悠仁だったが、家まではまだ距離がある。走ったところで家に辿り着く頃にはすっかりずぶ濡れになってしまっているだろう。
     仕方なく通学路の途中にある公園、といっても遊具は何も無く、ベンチと水道に公衆トイレが設置されているだけのただの芝生広場へと入って行った。

     その公園の一角には大きな屋根のついた四角い柱にぐるっと一周、取り付けられたベンチがある。住宅街の中にしては広い公園の隅に設置されたそこに辿り着くと、悠仁はそのまま屋根の下に入った。
     風も吹いているので全く濡れないという訳ではなかったが、それでも一先ず雨に当たらずに済む場所に入れたことに安堵した悠仁はほぅ、と息を吐いた。

     屋根の下から見上げた空にはまだ分厚く暗い雲がかかり、雨粒も大きく、それが大きな水溜まりと化した地面にぶつかる度に水飛沫を上げていた。

    「……いつ帰れるかな」

     止むどころか弱まる気配すらない雨の勢いに、不安になった悠仁は俯いて両の手をぎゅぅ、と握った。

     不意に。パシャン、パシャン、と雨音とは別の水音が聞こえて顔を上げる。

     ――…足音?

     パシャン、パシャン、と繰り返されるその音は、まるで水溜まりの中を歩く足音のように聞こえた。そして、その足音は姿は見えなかったが確実に悠仁に少しずつ近付いて来ていた。

    「どこにいるんかな?」

     キョロキョロと周囲を見回して、悠仁は遂に足音の発生源を見付けた。
     やはり足そのものは見えなかったがパシャン、と足音がする度に芝生全体に広がっている水溜まりに大きな楕円形の波紋が浮かんでいる。悠仁はそれが何かの足なのだ、と直感的に思った。

     しばらくその大きな足が生み出す波紋を眺めていると、それは公園の中ほどから徐々に悠仁のいる方へと向かって来ていた。
     そして遂に、ベンチの屋根の下にいた悠仁の目の前で止まった。

     ――…見てる。

     悠仁は自分を零感だと思っている。これまでにお化けも妖怪も見たことも無ければ気配を感じたことも無い。けれども今、間違いなく自分の目の前には目に見えない大きな足の持ち主である何かがいて、それが自分を見下ろしているのだと分かった。
     だが分からないことがあった。何故この見えない何かは悠仁のことを見ているのか。自分に用があるとも思えないず、悠仁は首を傾げて少し考えて。そしてある結果に辿り着いた。

     悠仁が雨宿りしている場所は大きな四角い屋根の、一辺の丁度真ん中辺りだ。あの水溜まりに出来た大きな楕円形の波紋が本当に足だったなら、それは身体もとても大きいのではないだろうか。
     もしそうなら。雨宿りをしたくてここまで来たが、そのとても大きな身体では悠仁を避けて屋根の下に入ることが出来ないのかもしれない。

     そう思った悠仁は屋根の角まで移動すると、意を決して上を見上げて。どこにあるかも分からない顔に向けて声を掛けた。

    「はい。こんなら入れる?」

     返事は聞こえない。足音もしない。けれどまだ何かからの視線を感じていた悠仁は困った顔をすると、また口を開いた。

    「雨やどりじゃなかった?」

     そう言うとペタ、と音がして悠仁がさっきまで立っていた場所に大きな裸足の足跡の水滲みが出来た。てっきり靴を履いていると思っていた悠仁は、その足跡が裸足だったことが驚きだった。
     ペタ、ペタ、と何度か足音がして、足跡の向きからどうやら大きな何かは屋根の下で半回転をして体を屋根の外に向けたのだと分かった。だが。

     ――…見てる。

     未だに視線を感じている悠仁は、何かは身体を屋根の外に向けただけでまだジッと自分のことを見ているのだと分かった。先程の視線は悠仁が邪魔だったからだろうが、今見られている理由には心当たりがなかった。

    「……あの、もしかしてヒマなん?」

     何となく訊ねてはみたが、やはり返事はない。いや、もしかしたら悠仁には聞こえない声で話しているのかもしれないが。

    「んと、今日学校で――…」

     それでも、ただ見られ続けていることがどうにも落ち着かなくて。悠仁は見えない何かに向かって話をすることにした。学校でのこと。家族のこと。よくやる遊びなど、その話題は様々だった。
     見えない何かが話を聞いてくれているかは分からなかったが、それでも話を続ける悠仁をジッと見続けていることだけは確かだった。

    「そんで――…あ、雨よわくなってる」

     話をすることに夢中になっていた悠仁がふと、屋根の外に視線を向けると気が付けば雨足は弱まって雨合羽があれば濡れずに帰れるだろう、という状態にまで収まっていた。

    「んと、じゃあ。雨へいきになったからおれ帰るね」

     悠仁は別れの挨拶のつもりで見えない何かに向けて手を振る。すると掌に柔らかくて生暖かい何かが触れた。

    「ひぁ⁉」

     その何かが悠仁の掌を滑るように動くとべとぉ、と粘着質な水分を擦り付けて離れた。触れた感覚から、悠仁の頭より大きいであろうそれは恐らく見えない何かの舌なのだろう、と何となく分かった。

    「……えっと、じゃあ!」

     何故舐められたのかが分からなかった悠仁は、とりあえず舐めたのは見えない何かの挨拶なのだろうと判断してそのまま屋根の外へと駆け出して公園の出入り口へと向かった。

    「ケヒッ」

     先程まで悠仁がいた屋根の下。丁度大きな足跡の水滲みがある場所の真上、屋根に近い高さから奇妙な音がした。だが、その音は既に公園の出入り口から道路に出てしまっていた悠仁の耳には届かなかった。


        ◇

     悠仁が家に着いた頃には雨足もすっかり弱まり、雨合羽も要らないほどになっていた。悠仁は玄関の軒下で雨合羽を脱ぐとバサバサと振って水滴を落としてから丸めて両手で抱えるように持ってから玄関ドアを開けた。

    「ただいまー!」

     お帰りの声は聞こえないが、この時間ならば祖父がいて居間の座布団に腰かけて新聞を読んでいる頃だろう。先に雨合羽を干してしまおうと考えた悠仁はランドセルを下して玄関に置くと雨合羽を抱え直し、そのままベランダへ行こうと足を踏み出した。
     その時だった。

     ――…ペタ、と悠仁のすぐ後ろから足音がした。

    「……え」

     思わず振り返ったが、そこには誰もいない。

     板張りの廊下でペタペタと足音が鳴るのはどういう状況か、悠仁には覚えがあった。裸足の時だ。裸足で廊下を歩くとそういう音がする。だが、今悠仁は靴下を履いている。
     つまり、ペタペタと足音を立てているのは悠仁の足ではない。

     気のせいだろうか、と思って前を向き直り足を一歩踏み出すとまたペタ、と後ろから足音がして。今度は勢い良く振り返るがやはり、誰もいなかった。だがこの足音は気のせいではない。
     一体何が、と考えた悠仁は帰り道で一緒に雨宿りをした見えない何かのことを思い出した。

    「もしかして……ついてきたん?」

     誰もいない、のではなく見えないのではないか。そう思い、雨合羽を抱える手を片方離して足音のした方へ手を伸ばしてみる。

     ――…べろぉ、と伸ばした掌が大きな舌に舐められた。

    「やっぱり! でも、うーん……」

     知らない相手ではなかったので一先ず安心したが。今度は見えない何かを家の中に入れてしまったことにどうしよう、と悠仁は困った顔で俯いた。

     見えない何かが何なのかは分からないが、お化けや妖怪と呼ばれるものなのだろうと悠仁は思っていた。そして、テレビでそういう存在は悪い事をして人間を困らせるのが大好きなんだと知っている悠仁は、この見えない何かに家の中で好き勝手にさせてしまうのはよくないだろうと思った。

    「……あのさ、ワルいことしない?」

     悠仁が訊ねた。その返事はやはり、聞こえない。

    「ワルいことしないならいてもいいよ」

     悠仁がそう言った瞬間。伸ばしたままだった腕の手首から先が生暖かくて湿った空間の中に入れられた。

    「うわっ⁉」

     何が起きたのか咄嗟には分からなかったが。生暖かい空間の中であの大きな舌にベロベロと舐められ、さらにぢぅぢぅと吸っているような音と手全体を吸われている感覚がしてようやく理解した。

     ――…手、食べ⁉ じゃなくてすってる?

     大きな口はまるでおしゃぶりを咥えた赤ん坊のように満足するまで悠仁の手を吸うと、これまた大きな歯であぐあぐと数回、甘く食んでからようやく手を吐き出した。
     やっと解放された手を慌てて確認したが、そこに歯形などは一切付いていなくてホッと息を吐いた。

     どうやら食べようとして手をくちの中に入れた訳ではないらしい。そうだとしても、突然自分一人くらいなら丸呑みに出来そうな程に大きな口に手を加えられ、吸われた悠仁の心境はたまったものではなかった。
     一歩後ろに下がり、見えない何かを威嚇するように目に力を入れてキッ、と睨む。

    「お、おれのこと食べんなら帰って」

     しばらくしてまたペタ、と足音がした。

    「ひっ⁉ ――…って、あれ?」

     一歩で目の前まで来ていたらしい見えない何かは、舌先だけで悠仁の頬を優しく舐めた。今度は唾液をべっとり付けることも口の中に入れることもしなかった。
     優しく舐める行動に、悠仁は誤って噛んでしまった飼い主の手を舐める犬や猫の姿を思い浮かべた。

     ――…あやまってる、とか?

     なんとなく、だがそう思うと思いの外しっくり来た。

    「……おれもじいちゃんたちも食べないなら、いいよ。うちにいて――…ぷへっ」

     舌のある方を見て言うとベロン、と唇を舐められた。それを見えない何かなりの了承と受け取った悠仁は嬉しそうに笑うと雨合羽を抱えなおして再び歩き出す。

    「とりあえずカッパほしてからな!」

     とたとた、という悠仁の足音について行くペタ、ペタ、という足音。

    「ケヒッ」

    ニコニコしながら先を行く悠仁の後ろ。天井近くにある見えない何かのもう一つの口から奇妙な音が、嗤い声が、した。
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