作戦会議 長い旅路を得て漸くマナの聖域までたどり着きその剣を抜いた三人だったが、結局相手に出し抜かれしまい、ここは先手を打ってマナストーンの神獣を倒すことになった。
闇のマナストーンは未だに行方不明のためまずは7つのマナストーンの神獣を倒すことになる。
やはりこれは作戦会議が必要だ、聖剣の勇者でもあるホークアイは仲間を横目でちらりと眺めた。
「あぁ〜これからデカブツ共をぶったおすんだな、まじで腕がなるぜ〜どこから行くか?俺はどこでもいいぜ!」
隣には笑顔で自分の獲物を振り回しながら、気合を入れている戦闘狂の剣士と、
「オイラもどこからでもいい、目の前の敵は全部倒す」
と最初から考えることを放棄し隣りに感化されている状態のハーフ獣人の皇子様。
これはもう好き勝手やらせたら、どう考えてもそのまま突っ込んで行くとしか思えない脳筋2人だ。
ホークアイはこのままでは確実に自分の命のほうが危険だと思った、ここは安全なルートを考えなければならない。
「まてまて、お二人さん。血の気多い君たちはどこからでもいいかもしれんが、考えてみろ。それぞれの地域に散らばってるんだぞ
無理強いしたら神獣を倒す前に俺たちの身体がもたないだろ。さすがに準備しながらではないと無理だ、ここはまず作戦会議しないか?」
我ながら良い提案だとは思ったが、デュランは「はぁ?」っと呆れたような大声を出す。
「んな、めんどくせぇ事してられるかよ。あちこち飛び回らないで、とっとと左回りで順番に倒していきゃいいだろ?」
「そうなると、一番初めどこから行くのかが重要だ、たとえばワンダーの樹海なら次氷壁の迷宮だ。俺は氷の国は準備がないときつい」
砂漠育ちの自分は寒い国だと入念な準備が必要だ、風邪なんて引いたら溜まったものではない。
「はぁ?寒さなんざ、気合でなんとかなるだろ。いちいち町によって準備してたら時間持ったいねぇよ」
「おい、デュラン君!俺を君と一緒にしないでくれるー!? そもそも俺は君たちみたいな筋肉ついてないんだよ」
「寒かったらオイラがウルフになれば!大丈夫!ホークアイ、あの時みたいにオイラが毛布になって抱きしめる!」
「もふもふ…気持ちよかったな…じゃなく、だからそれは俺にやるんじゃなくて、あぁそんなキラキラした瞳で俺をみつめるの勘弁してください…」
精霊ウンディーネを仲間にする時にアルテナに向かった時はあまりの寒さに、ウルフ化したケヴィンにしがみついたのを思い出したが、あれもアルテナの寒さを舐め…いや準備不足で突っ込んでいった結果だった。
「俺が言いたいのは、そういうことだけじゃなくて」
「もしかしてホークアイ、連戦、疲れる?」
途中でケヴィンが首をかしげて聞いてきた。いいところをついてきた、その通りだ。
脳筋についていったらおのれの身がもたないことをわかりやすいように話さなければならない、これは重要なミッションだ。
「そうだな、そのまま無理のある連戦だと、俺だけじゃなくてみんなキツイと思うよ。だから作戦会議は必要で…」
「オイラ獣人だから、力ある。ホークアイ疲れたら背負う。ホークアイ軽いから大丈夫!」
そう言いながら、ふんっと腕を前に突き出してガッツポーズみたいなジェスチャーまでしてくれた。
「だから俺のプライドを曇りなき眼で粉砕するのやめてください」
「で、お前はなにがいいたいんだよ」
デュランが漸くホークアイの話を聞く気になったらしい、よしこれでこの重要な話は続けられる。
「氷壁の迷宮もそうだったが、火炎の谷でも、これは俺が知らなかったっていうのもあったが、ケヴィンがぶっ倒れただろ」
精霊サラマンダーを仲間にするために砂漠を超えたが、途中でケヴィンが倒れたのは記憶に新しい。獣人は人間よりも遥かに体温が高いため、当然そのままでは砂漠の熱には耐えられない、それよりも熱い火炎の谷は火を見るより明らかだった。
「う…オイラ熱いの苦手、あの時みんなに迷惑かけた」
しゅんと頭をたれてしまったので(無いはずの耳がたれているようにしか見えない)ホークアイはよしよし代わりにケヴィンの肩に腕をかけた
「誰かが倒れたらその分時間のロスも問題になるだろ、だからここは効率よく、準備もできる順番が必要だ。剣士さんも入念な準備するだろ?」
「そうだな。言われてみると確かに、神獣を回る順番と準備は必要だな」
デュランが腕を組む、漸く納得したようだった。
この男は、納得すれば話が早い。逆に納得しなければいつまでも平行線だ。
ホークアイはまずフォルセナの図書館で仕入れた情報を二人に話した。改めて神獣の種類とその場所だ。
「まず闇のマナストーンは行方不明のため最後になる、これは仕方のないものだ。さて、まずはどこから攻めるかだ。ここはまず、公平にみんなの意見を聞こう。俺は光の古代遺跡がいい、ケヴィンお前は?」
「オイラ?……うーん……」
最初に振られなかったデュランがムッとした顔と、ケヴィンが腕を組んでハの字眉毛で悩みだしたのが同時で吹き出しそうになったが、なんとかこの場をもたせるために耐えた。
「おい、ケヴィン。そんなに悩むくらいなら、俺が先言うぞ、あえて言うなら宝石の谷ドリアンだ」
「まったく、お前…俺は最初ケヴィン振ったのに、って宝石の谷ドリアン?」
「バイゼルにも近いし、フォルセナにも近いだろ。お前の希望通りいろいろ仕込んでいけるぞ、そこで準備できれば2連戦くらいは余裕だろ」
確かにデュランの言うとおりだ、理にかなっている。その後氷壁の迷宮もいけるし、なんなら獣人たちの住む月読の塔にも行ける。
「なるほど、ドリアンの谷か…たしかあそこも宝石がごろごろしてるんだっけな、俺の腕がなるぜ」
しまった、うっかり本音が出てしまうと、デュランの片方の眉毛が僅かに上がった。
「はぁ?まさかお前、最初に光の古代遺跡がいいっていったのは、お宝があるからかよ」
「当たり前だろ旅の醍醐味と言ったら、美しい女性と、それくらい希少価値のある宝物だぜ」
「あんだよ、お前の目的それかよ、人のこと言えねぇじゃねーか」
「お前だってその獲物なりふり構わず振り回したいだけだろ」
「はぁ!?俺はお前と違って下心あるわけじゃねーよ」
「下心っていうな、希少価値だ!希少価値!美しものには価値があるんだよ、まっ君にはわからんないかもしれないけどね」
「わかってたまるか!お前の下心に付き合ってる暇はねぇーよ!」
本当はここで耐えないといけないのだが、流石に言いたい放題いいやがってと、思わずこっちもムキになってしまう。
「こっちこそ、脳筋の戦闘狂に言われてたまるか!」
「あぁ?やんのか?」
「ふたりとも喧嘩はだめ!」
もう少しで不毛な言い合いになりそうだった瞬間、漸くケヴィンが顔を上げてくれたので、正直助かった。
「かぼちゃ…ねぇホークアイ、かぼちゃみたいなやつって、どれ」
「ワンダーの樹海か?意外なところついてきたな、月読の塔って言うのかと思ったぜ、獣人にとっては慣れ親しんだ場所なんだろ」
「うーん、オイラ月読の塔…そんな好きな場所じゃない」
言われてみれば、彼のライバルも塔の入り口で戦いを挑んで命を落とした結果、ルナの力で再生したが。一瞬であってもあれは確かに辛いことだったかもなぁと思い出す。
「それにしても、かぼちゃみたいな奴がいいのか?なんでだよ」
デュランがよくわからんから納得できない。という顔でケヴィンに話しかけた。
「うまそうだから…前に食べたかぼちゃのパイ思い出した」
「お前、かぼちゃのパイなんてどこで食べたんだ?」
「……アストリアで、おばあさんがオイラにくれたんだ」
アストリアという単語でデュランとホークアイはあっと小さく声を上げた。これを話題に出すのはケヴィンにはかなり辛いことだ。あの湖畔の村は獣人の襲撃により、やめようこの話は。だからこそあえてずっと触れないでおいていたんだが、あの村でそういう事があったのか。
「……」
完全に見えない耳がたれきっていて、そのことを思い出した顔は非常に哀しそうでちらちらとこちらを見るケヴィンの瞳がうっすら膜をはっているようにもみえる。
だめだ、コレには弱い。美女の涙とは全く違うし、自覚なしの天然なためその裏はないことが重々承知なのだが、ホークアイはふうと一息つくとケヴィンの頭をぽんぽんと軽くたたいた。
「……わかった、デュラン決定だ、ワンダーの樹海から行こう。その次はバイゼルに寄ってうまいものを食べてから宝石の谷ドリアンに行くぞ」
「おい、お前ケヴィンに甘すぎだろ!」
「この話聞いたらワンダーの樹海行くしか無いだろ、それに俺たちは利害が一致してるしいいだろ」
「まぁ、たしかにワンダーの樹海からバイゼル経由で宝石の谷ドリアンならそこまで離れてないからいいけどよ、ったく」
「デュランが、宝石の谷ドリアン行きたいなら、オイラはべつに」
すんと鼻をならしたのがわかる、アストリアでケヴィンにかぼちゃのパイをくれたおばあさんは間違いなく、この世界にはもういない。
「……あーわかった、わかった。おまえ思い出して泣きそうになるのやめろって。じゃあ最初にワンダーの樹海に行くぞ」
ホークアイ自身も自覚しているが、なんだかんだ言ってデュランもこの弟分には弱い。こうやって理由があればむやみに自分の意見を通すことはない。
「よし、まずはワンダーの樹海へ行って、その後バイゼルに寄ってうまいものでも食べに行こうな」
「うん!」
「これで一旦は決まったな」
ホークアイはとりあえず自分が一番最初に行きたかった場所ではないが、無事に作戦会議ができてよかったとほっと胸をなでおろすと、体の中からきらきらと光をまとった小さな妖精が現れた。
(じゃあ最初はワンダーの樹海から行くのね!)
「おや、今頃出てくるのかいフェアリー」
(デュランと貴方が言い合い止まらなければ出てこようと思ったんだけど、ケヴィンの話聞いててわたしもほだされちゃって…でてくるのは野暮かなって)
「ああそうかい」
このフェアリーは食えないところがあるところも重々承知しているので、これ以上話をふるのはやめようと思った。
「じゃあホークアイ、フラミー呼んでくれよ、まずはワンダーの樹海からだな」
「へいへい、まぁここからだとちょっとかかるけど、あの子ならすぐつくだろ」
「あ〜腕がなるぜ〜〜!早く神獣ぶっ倒してえ」
「オイラかぼちゃ倒す!!」
ホークアイはデュランとケヴィンがいつものように暑苦しく気合い入れをする横で、はぁっとため息をつくと、マナの女神から受け取った風の太鼓を叩き、フラミーが上空へ現れるのを待った。