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    flor_feny

    @flor_feny

    ☿ジェターク兄弟(グエラウ)の話を上げていく予定です

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    グエラウ 今ある愛だけじゃたりない#1 24話から半年経過した頃、未練たらたらの兄さんとラくんの話
    ラくんの地球での生活をわりと好意的に解釈して書いています
    まだ全然途中ですが投げ出したくないので尻叩きとしてあげます

    #グエラウ
    guelau

    今ある愛だけじゃたりない#1 現在時刻12時35分。ラウダの乗った連絡艇の入港予定時刻は12時45分だ。
     連絡艇の入出港情報を示すサイネージと、コンコースの奥に広がる店舗との間で何度も視線を往復させる。どれだけ繰り返し見たところで時間の流れが早まる訳もないのに、我ながらせっかちだと思う。

     ここらの宙域で一二を争う規模を誇る大型商業フロントの宇宙港なだけあり、大勢の買い物客がひっきりなしに目の前を行き交っている。日曜日の昼ともなれば、家族連れで出掛けたりするのだから尚更だ。
     スピーカーからは各店舗のセール情報や新作情報を告げるアナウンスが常に流れている。購買意欲を促進させるはずのそれが、今は何かと気に触ってしまう。どうにも急いて落ち着かない。このコンコースを弟との待ち合わせ場所に指定した一昨日の自分の考えの浅慮さに、少しのいらだちと呆れを覚えた。
     ラウダとは、合流したらそのまま昼食にしようという話になっている。向こうは朝早い便の軌道エレベーターで宇宙へと帰ってきている。あいつが何を食べたいと言っても対応できるように、飲食店数の多いこのフロントに来るように伝えていた。


     今回の弟の帰省目的は、データストーム障害の三ヶ月に一度のモニタリング検査と、俺の商談に同行してもらうことだ。一週間こちらに滞在したら、また地球へ戻る予定になっている。
     普段ラウダは地球からリモートワークでジェターク社の業務をこなしながら、ペトラの付き添いをしている。ペトラが義足のテスターをしていることから株式会社ガンダムの面々とは頻繁に顔を合わせるようで、ラウダが彼らに抱いていたわだかまりが解消していることに安堵する。
     前回ラウダが帰省した三ヶ月前は、フロントに到着したその足で病院に向かい、慌ただしくデータストーム障害のモニタリング検査を受けさせた。翌日と翌々日午前は俺と一緒に得意先を訪問して回り、その日の午後には地球に戻るという非常にタイトなスケジュールだった。
     二泊三日の中にギチギチに予定を詰め込み、隙間すら差し込む余地を与えなかった。俺が、あえてそうした。
     できるだけ早くペトラの元にあいつを戻してやりたかったから。それ以上に、ラウダの隣にいると、俺の中で息を潜めている歪みがあいつに露見してしまいそうで怖かったから。
     後で弟の帰省を何気なく伝えたカミルには、当然の如くこっぴどく叱られた。
     ラウダはお前の所有物じゃないんだから一から十まで縛りつけるな。あの時ラウダの手から会社に関する全てを取り上げ、不信を買ってしまったことを忘れたのか。二人三脚で意思決定を行いジェターク社を運営していく約束じゃなかったのか。カミルにそう指摘されて、痛い所を幾つも突かれた俺は閉口するよりほかなかった。

     結局前回の帰省ではラウダとは仕事の話にほぼ終始して、プライベートの話はほとんどしていない。訊かなかった――訊けなかったという方が認識としては正しいかもしれない。
     モニター越しならラウダとはいつでも顔を合わせて話ができる。その甘えが、俺を尻込みさせた。
     自分の胸の奥深くに巣食った醜さから、この半年間ずっと逃げ続けてきた。時間経過と共にそれは俺の心臓にべったりと癒着するようになった。終いには収縮と弛緩すら一体化して振る舞うようになり、とうに体から引き剥がせない不可分の存在になった。
     胸から引きずり出して、正面から観察することすら避けてきたそれは、ラウダへの化け物染みた執着と情念の塊だ。なだめすかしながら飼いならしておくつもりが、今では逆に俺が呑まれて支配されてしまった。


     連絡艇が宇宙港に入港するのは12時45分だが、そこから下船までには少し時間がかかる。今すぐ迎えに行くにはまだ早い気もするが、いい加減この場に居続けるのも嫌になり、もたれていた柱から体を離した。
     フーディーのマフポケットにしまっていた端末の画面を見る。5分前にメッセージアプリに届いた「もう少しで着くよ」の一言。眺めているだけなのに、生ぬるくて溶かされるような甘さと針で刺されるような痛みが同時に胸で蠢いて、息苦しくなる。
     会えるというだけで、こんなにも浮かれて、怯えているのはきっと俺だけだろう。
     できることなら、弟が、ラウダが、同じ気持ちでいてほしい。無数にある可能性の糸を選り分けて、自分に都合の良い細い糸を見つけ出し、縋り、辿り、その終端がラウダの心に繋がっていてほしいと願ってしまう。
     学園にいたあの頃、俺のためだけに捧げられるラウダの献身がひたすら気持ちよかった。いつも側で兄さんと呼んで慕ってくるあいつの愛くるしい声と態度が嬉しかった。血の繋がった弟から向けられる絶対的な好意に溺れて甘えて依存しきって、そして何より救われていた。
     ――救われていたくせに、俺は一度、ラウダからの愛情に背を向けている。挙げ句、あいつの前から姿を消して、その気持ちを完全に裏切ってしまった。その間に俺達の関係は変化して、今ではゆるやかな繋がりだけを残してラウダは俺の元から離れてしまった。今更あいつの関心を自分に戻したいだなんて、あまりにおこがましい。
     もし今、あいつの心にあの頃抱えていた気持ちが一欠片も存在しないのなら、遠慮なく俺を突き放してほしいと思う。その方が踏ん切りがつく。あいつとの距離感を今頃になって違えて、見放される方がよっぽど怖ろしい。
     自分勝手な理想の押しつけも、夢が叶わないことによる失望も。ラウダの手ではっきりとこの見苦しい未練に終止符が打たれることを、俺は心のどこかで望んでいる。どちらに転ぼうと、あいつの選択なら俺は甘んじて受け入れる。

     初めてスレッタ・マーキュリーに会った時、心象最悪な出会いをしてしまった彼女の口から言われた言葉を思い出す。横恋慕さん。恋を知ってから俺はいつだってそうだ。誰かのものに心を寄せてしまう。
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