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    flor_feny

    @flor_feny

    ☿ジェターク兄弟(グエラウ)の話を上げていく予定です

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    グエラウ 僕が想うよりずっと#1
    でたすと後遺症で数カ月入院した後、自宅療養中に外出したラくんの話
    4/5変更と追加

    #グエラウ
    guelau

    僕が想うよりずっと#1 車窓越しの橙色に瞳を貫かれて、ラウダは思わず固く目を瞑った。
     メインシャフトを降下中の一瞬の閃きだったにもかかわらず、夕日の残像が網膜に焼き付いて離れない。視神経を通して強烈な不快感が脳へと伝わり、頭の中が不規則に揺れる感覚がより一層強くなる。
     間を置かず胃の底が不自然に引き攣り出した。とっさに両手で口元を押さえる。意思に従わない消化器が肋骨の檻の内で好き勝手に蠢いている。みぞおちから込み上げてくる異物感に、全身がぞわりと総毛立った。

     腹の中が落ち着きを取り戻し、喉の奥でわだかまる苦痛が緩和される頃には、体中にじっとりと冷や汗をかいていた。
     吹き出た汗が薄手のインナーを突き抜けてカーディガンにまで達している。膝上に置いた買い物袋の下では行き場を失った熱がこもって太腿にまとわりついていた。座席の背もたれの狭間で、柔らかな布地が肌に張り付く感触が気持ち悪い。
     強張りきっていた筋肉を少しずつゆるめて、ラウダは潜めていた呼吸を慎重に再開する。深く息をするつもりが、胸の中で早鐘を打ったままの心臓につられて浅くなってしまう。
     ごくりと唾を飲み込み、意識して数拍間を置く。そうすると、ほんのわずかではあるがいつもの呼吸のリズムに近づけた気がした。
     まぶたの向こう側は未だ人工の橙色が支配している。人体に害を及ぼさないよう調光されているその光が、今は恐ろしく思えて仕方がない。
     ――まるで禍々しいデータストームの痣の色だ。
     容赦なく降り注ぐ光の暴力に、ここ数カ月ずっと後遺症に苦しめられてきたを現象を連想する。
     検査で一時的にGUNDフォーマットとリンクした際、自分の体のいたるところに現れた光る斑紋。体内に残留したパーメットが反応することで人体が発光するおぞましい光景。同席していた兄の血の気が引いて青褪めた顔。
     それらが一斉に脳裏に溢れ出して、ラウダはふるりと身震いした。

     車内のスピーカーから、間もなくの到着を告げるアナウンスが流れる。モノレールが少しずつ減速していき、足元から浮遊感に飲み込まれていく。
     手繰り寄せていた正常な平衡感覚が、再びゆらりと消失した。



     疲労時に不意に浴びる強度の光刺激によって、目眩が悪化する――データストーム治療の入院中に度々陥った症状だ。酷い時では悪心と嘔吐を伴うこともあった。
     退院して自宅療養に切り替えてすでに二カ月。その間目眩とは完全に無縁の生活をしてきた。油断がなかったと言えば嘘になる。
     三日前に定期通院した際、検査値に問題はなく経過は順調だと主治医に診断された。エランを通して紹介されたベルメリア博士からも、慎重にではあるが少しずつ運動強度を高めていってもいい頃合いだろうとアドバイスを受けていた。
     そのため今日は自宅のあるフロントのマーケットではなく、気分転換も兼ねて久々に商業フロントのモールへ買い出しに出かけたのだ。結果としてこうして目眩が再発してしまった以上、まだ時期尚早だったと言わざるをえないのだが。
     慣れ親しんだ自宅での療養とはいえ、いつまた容態が急変するか分からない。だから決して無理はするな。兄にはそうきつく言われていた。
     その言いつけをラウダは今日まで律儀に守ってきた。毎朝出勤する兄を見送り、経営の勉強と家事をこなし、帰宅した兄を迎え入れる。そんな平坦で代わり映えのしない毎日を過ごしている。
     できる限り余計なことはしない。それが心配性の兄の心をわずらわせずに済む方法だ。そう心得ていたはずだった。

     この療養生活を送るにあたり、兄と二つのことを取り決めていた。
     一つ、体調が急速に悪化した場合に備えて、身体データを記録するウェアラブル端末を常に装着すること。二つ、出かける場合は必ず事前に行き先を伝えて、位置情報共有サービスを使うこと。
     それが退院を願い出たラウダにグエルが要求したルールだった。
     未成年の子供ならまだしも、成人済みの同い年の弟に適用するにはあまりに過保護な措置だ。兄とてそれは十分に承知しているだろう。だが何も制限をかけずに放っておけば、回復途中の弟はきっとまた無理をする。以前と同じように倒れかねない。なんとしても二の舞は避けたい――。
     兄がラウダに課したルールには、その身を案ずるが故の切実さがあった。
     グループの解体から数週間、体調管理にもっと気を遣えという兄の再三の言葉をラウダはろくに聞き入れなかった。そしてデータストーム汚染による体調不良を自覚しながらも、理由をつけては検査を先延ばしにしてきた。
     兄一人だけに重荷を背負わせたくない――そんなもっともらしい口実を掲げて、その実自分が必要とされなくなることを極度に恐れていた。罪滅ぼしをするかの如くなりふり構わず働いてきた。その結果、データストーム障害と過労がたたって人前で倒れたのだ。
     入院中もただ無為な時間を過ごすことに耐えられず、症状が落ち着いた隙を見計らってはタブレットの画面を凝視していた。そうして看護師に見つかる度におとなしく休むよう促され、しまいには事情を聞いた兄に情報機器を全て取り上げられたこともある身だ。
     何度も兄の心を裏切ってきた自分が、なんの積み重ねもなく兄からの信頼を取り戻せるはずもない。緩やかなこの束縛を受け入れることでしか、兄を安心させられない。
     それを理解していたからこそ、監視と紙一重の見守りをラウダは甘んじて受け入れた。
     これで兄の心にわずかでも安寧が訪れるのなら。そして何より、一日でも早く退院できるのなら。そう思って、兄の言葉に素直に首肯したのだ。

     足繁く見舞いに来てくれるフェルシーとカミルも、義足のリハビリに励むペトラも、泊りがけの出張でもない限り毎日病室を訪ねる兄も――グループ解体と一連の事件の後始末に奔走するミオリネや、未だに集中治療室から出られないスレッタでさえも――自業自得の体調不良で無様に倒れた自分とは違い、皆、それぞれ懸命に前に進んでいる。自分だけが、どれだけ藻掻こうと前に進めずに、その場に一人取り残されている。
     入院中、誰かと顔を合わせる度にその想いは強くなった。彼らの後ろ姿を見送る度に、自分の中から滲み出る無力感に囚われるようになった。
     これ以上ここで生活していたら、いよいよ仕事に戻れなくなってしまう。精神的にも肉体的にも使わなければただ衰えていく一方だ。日が経てば経つほどにその焦りと不安は強固になっていった。
     数カ月にわたる入院生活で、痩せ型ながらも鍛え上げてきた体はすっかり痩せ細ってしまった。後遺症として現れた造血障害に由来する貧血や目眩、神経障害による四肢の痺れや息苦しさのせいで、一時はベッドから起き上がれないほどに追い詰められたからだ。
     症状が落ち着き、様態が安定してからは日常生活に戻れるようトレーニングを重ねてきた。それでも数カ月前まで学園のパイロット科に所属していたことが嘘のように体力は落ちた。負荷のかかる運動を続けると驚くほど簡単に息切れしてしまう。
     退院して二カ月経った今でも激しい運動は禁じられているため、落ちるところまで落ちた身体機能は戻りきっていない。刺激のない平穏な生活で忘れかけていたその事実を、ラウダは再び突きつけられていた。
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