目が醒めて数秒、不快感を覚えた。
明らかに具合が良くない。あらゆるコンディションが最悪としか言えない状態だろう。これも全て、いつもならば何も口にしない時間帯にアルコールを大量に飲む羽目になったからだ。
モデル仕事の付き合いで参加せざるを得ない会食という名の飲み会であったが、参加者の中で一番年齢が若かったこともあってかなりの貧乏くじを引かされることになった。有益なこともなくはなかったが、それよりもマイナスが大きすぎる。
ズキズキと痛む頭を抑えて身体を起こそうとした瞬間、すぐ隣から「んん……」と吐息混じりの声が漏れ聞こえて、閉じていたまぶたを開く。
「…………、アレン?」
ボクの隣ですやすやと寝息をたてていたのはアレンだった。何故ここに、と思いながら自分の片手を見ると、アレンの片手を掴んでいたのが目に入って慌てて手を離す。段々と昨晩の記憶が蘇ってくる。アレンがここで眠っているのは他でもない、ボクのせいだ。いくら酔っ払っていたとはいえ、多大なる迷惑をかけすぎてしまった。あとで謝罪をする必要がある。アレンはきっとお互い様だなんだと言うだろうけれど、それではボクの気がすまない。
中途半端に脱がされかけているシャツのボタンを外していると、眠っていたアレンが身じろぎをした。起こしてしまっただろうか。
「……、あさ?」
「朝です、何時か分かりませんけど」
「おはよ……」
「おはようございます。すみません、昨日はアナタにたくさん迷惑をかけてしまいました」
「んー……」
まだ眠たいのか、いつもよりもスローペースで言葉が返ってくる。時計を確認しようと思って、ベッドから抜け出そうとしたら「まだまって……」と声を掛けられて、引き留められた。
「アナタ、今日の予定は?」
「午後から大学……」
「おそらくまだ大丈夫だと思いますが、念のため時間を確認しますから」
「やだ」
「やだって……」
「さむいだろ」
ボクは湯たんぽではありませんが、という言葉は喉の奥に押し込んだ。アレンがここで眠っているのはボクのせいなのだ。甘んじて受け入れよう。
「酒くさい」
「自分でも思いますよ、ひどいニオイですね」
「でも昨日よりはマシ…………あ、」
何かを思い出したような声をあげたアレンのまぶたが開く。ぱちり、と視線が交わったのは何時間ぶりだろうか。
「おまえ、あれだけ酔ってたから二日酔いか?」
「そのようですね」
「だよな。薬……」
「いいですよ、まだ眠たいんでしょう」
「でも」
「いいから」
ベッドから抜け出そうとしたアレンを、今度はボクが引き留める。不満そうに尖らせた口に思わずキスをしそうになったのを、寸前のところで止めた。
「…………なあ、なんで昨日からおあずけするんだよ」
「はい?……ああ、」
そういえば昨晩のぼくは、最後までできっこなんかないのにアレンを抱く気満々で押し倒した。ような記憶が残っている。途中までしかないのはやはりそういうことなのだろう。やらかしている、なんてものじゃない。
「すみません、そういうつもりではなかったんですけれど」
「じゃあどういうつもりなんだよ。昨日のはまあ、寝落ちるだろうって思ってたしいいけど」
「お酒臭いキスは嫌かと思いまして」
「なんだ、そんなことか」
別にいいよ、とこぼしたアレンにグッと腕を引かれてキスをされた。焦れたようなそれに、ぶわっと欲を引き出させられる。
「……、アレン」
「なんだよ」
「今日は随分と積極的ですね」
「今日も、な!」
「はは」
なるほど、それはそうだ。酒臭さは気にしないらしいアレンにボクからもキスをしようとすると、待ったがかけられる。
「なんですか」
「おまえ、頭痛いんじゃないのか?」
「ああ、忘れてました。それに、ボクが我慢強いのはご存知でしょう?」
「我慢するなって言ってるだろ」
「では、頭痛よりもこちらを我慢したくないと言ってもいいですか?」
「…………痛くなったらやめるからな。絶対言うんだぞ」
「はいはい」
そう言うアレンを数時間ぶりにベッドに押し倒す。あ、時間何時だろう、と今更なことを思い出したけれど、ボクもアレンも止まれそうになかったのだった。
了