ダイニングテーブルに広げられた書類を机の角だけを空けるように中央へ寄せて、マグカップを二つ置く。ケトルから湯を注いでバスティーユが腰掛ける頃に、彼女は机にめり込んでいた頭を上げる。
「勝手に動かさないでよ」
バスティーユがいじったあたりの書類を掴んで今にも閉じそうな目の前でひらひらとさせた彼女はあくびをするとその書類も放ってしまって、マグカップへ手を伸ばす。
「徹夜か」
「パパだって昨日帰ってこなかったじゃない」
「きみには都合が良いんじゃなかったか」
「寝起きに小言を言われたら同じことよ」
彼女がマグへ息を吹く。インスタントの香りが巻き付くように漂う。バスティーユは机の上からいかにもそれらしい極秘の赤い印が押された紙を引き抜き、拾い読みした後、カモメのマークの横へ書かれた彼女の署名へ目を留める。
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