社会人で同棲してるオベぐだ現パロ。
メロンバーで喧嘩する二人が書きたかった。
「誰の為に買ってると思ってるんだ!ばか!」
わざわざスイカバーを袋売りでなく冷凍庫の面積を埋める箱で購入するのはスイカバーが目当てだからじゃない。
箱入りにしか入っていないメロンバーをオベロンが食べるからだ。
時折、期間限定でコンビニなんかでメロンバーも出たりするが恒常で購入出来るのはスイカバーのみ。ならば、メロンバーを食べたい者は箱入りを買うしかない。
別にスイカバーは嫌いじゃない、嫌いじゃないけど…。オベロンは基本メロンバーしか食べない。必然的に冷凍庫の管理も、スイカバーを食べるのもリツカの仕事になっていた。
その日は朝からイライラしていた。
生理前だから余計に拍車がかかっていたのかもしれないが。
崩落のきっかけは些細な事だった…。仕事でのストレスとか、積み重なったイライラはオベロンからの一言で心の余裕というコップの縁を超えてこぼれ落ちてしまった。
「きみ、無理に頑張って夕飯作らなくていいよ。気分悪いから…。そうやって作られたご飯食べても美味しくないし。
作り置きの何かあったでしょ?…と、冷凍庫やばいな……あーどこ行ったっけ…つーか、この箱邪魔だよな…」
そこで冒頭に戻る。
「…は?!」
そうしなきゃいけないから…そうしてるんだ。
自分がやらなきゃ、いけないから。
嫌でも仕事は行かなきゃいけない。
疲れていても、お腹が空いたらご飯を作らなければいけない。
だから、そうしている。
無理でも頑張らなきゃいけないから。それなのに、それなのに、この男ときたら…!!
「オベロンが……メロンバー…食べるから…箱で…買っ……ひっく…私、だって……!」
泣くつもりはなかったのに、感情の昂りのせいかリツカの瞳から勝手に涙がこぼれ落ちる。リツカは必死に手の甲で涙を拭い、言葉を続けようとするがしゃくり上げてしまい上手く言葉を紡げない…。
オベロンの方は彼女が泣き出すとは思ってなかったようで、アイスの箱を掴んだままその場に固まってしまっていた。
ピーッピーッと冷蔵庫からドアを閉めるよう促す電子音が鳴り、ようやくそれを元に戻すとオベロンはめんどくさそうに頭をガシガシと掻き、無言のままリツカに近寄り、その身体を抱きしめた。
「なあ、いっぱいいっぱいになるほど余裕ないなら仕事辞めたら?って俺言ったよね?
俺の稼ぎはきみ一人養えないとでも?馬鹿にしてる?」
小さな緋色を腕の中にぎゅぅうっと仕舞い込み、オベロンはため息を吐き出すと。
「馬鹿。意地っ張りで見栄っ張り。頑固。お人好し。強がり。本当、きみの生き方気持ち悪いよ」
そう、ありったけの暴言を吐き出した。
「ひどい…オベロンなんて嫌い」
「へぇ?もう一度言ってごらん?」
「…嘘です…ごめんなさい」
そこにきてようやくリツカは顔を上げ、恋人の顔を見た。
暴言を吐いたわりにその顔は穏やかで、ニッと悪戯心っぽく笑うとリツカの頬をむにーっとつねり上げた。
「次言ったら二度とこの家から出さないから、わかったね?」
「わ、わかり、ました……」
ほっぺたをつねったままの指が上下に揺れ、リツカの頬が引っ張られる。無理やりに笑顔にさせられたような…そんな頬の動きにようやくリツカの心は少しばかり落ち着きを取り戻した。
「まぁ、きみはまためんどくさい世間体とか気にしてるみたいだけど。そんなに嫌なら同棲を辞めればいいんじゃないか?」
「……それ、別れるって事?あいたっ」
あっさりと出た離別の言葉にオベロンはリツカのおでこにデコピンをくらわせた。
「だーかーら、何でそうなるかな?
さっきの俺の言葉をどう捉えてる?!なぁ?」
「だ、だって!オベロン怒ってるみたいだし、そうなのかなって…」
「何も同棲を辞めることが全てそこに繋がるとは限らないだろ。」
意味の理解出来ぬリツカはぱちぱちっと瞬きをして目の前の男の瞳を覗き込んだ。
だって…同棲をやめるって…一緒に暮らさなくなる事じゃない、の?他の意味?え?
「そもそも、同棲って何の前段階だよ…」
「…前段階…?え、と…結婚?それ、もしかして…
プロポーズ…なの?」
やっとオベロンの真意が伝わると、リツカの瞳はきゅっと丸くなりキラキラとした光が差し込んだ。
「え!?で、でも…だって……」
「嫌なんだろう?同棲してるのに自分だけ働かない、っていうのが。ならその体裁を辞めればいいだけだろ。
まぁそもそも…俺は外に出るなって最初から言ってたんだけど、きみがどーーーしても、って煩いから許容してただけだよ?」
「だ、だって!おんぶに抱っこなんて嫌だよ!!」
「あのなぁ…いい加減きみは人を頼れ、俺はきみの何なんだ?」
オベロンはリツカの恋人だ。
恋人だけど…。彼は他人で、自分の事は…自分でやら「おい、また余計な事考えてるだろ」
コツン!と、今日何度目かわからぬデコピンがまたリツカを襲った。
「きみのしてる事、失礼だと思わないのか?」
リツカはオベロンに迷惑をかけたくはなかった。それ故の行動だったのに、オベロンからは真逆の言葉を吐かれる。
「マジでそういうの腹が立つ。抱え込むなバカ」
言葉は酷いのに、どこかその声に温かみを感じる。オベロンは再びリツカの身体を抱き締めるとその背中をゆっくり撫で下ろしてやった。
オベロンの指が背中を撫でる度、リツカの気持ちも鎮まっていく。
衣擦れの音に、彼の鼓動と息遣い…それらがリツカだけに効くリラクゼーションとなっていた。
凄く落ち着いて…オベロンの腕の中に居るとホッとする。
受け止めて貰ってる、みたいな…。
魔法にかけられたみたいに、今までのイライラはどこへやら…すーっと、気持ちが晴れていく気さえする。
「オベロン…」
「何?」
「…さっき嘘ついてごめん。オベロンの事好きだよ」
「はいはい…」
知っているよ。と返事の代わりに彼の掌がリツカノ背中をぽん、ぽんと優しく叩いた。
「疲れてたのかな…ちょっと、余裕なくて…でも変だね、オベロンにこうされてたら…凄く癒されて…」
「で?どうする気?辞める?ここまでなってるんなら、もうどうすれば正解かわかるよね?
あーちなみに、金銭的にはリツカの収入がなくなった所で痛くも痒くもない。きみが俺の為、って言うなら何が最善だと思う?」
「あ、えと……じゃ、あ…やめ、ます……」
「そ。じゃあ早速明日にでも辞める連絡しようか?」
そこにきてやっとオベロンは笑顔を見せ、リツカの額に触れるだけのキスをした。
「…口には…しないの?」
「したら止められなくなりそうだけど?でも、俺は今きみを甘やかしてやりたい気分だからねぇ…」
そう、からかい混じりにオベロンの顔が間近に迫ったその瞬間だった。
ぬるり、と…
毎月訪れる嫌な感覚がリツカの股に訪れた。
は?え?嘘…
「ちょ、ちょっと待って!!」
両手でオベロンの顔を抑え込み、リツカは彼から身体を引き離すとスマホのカレンダーアプリを呼び出し「え?嘘…あ、でも…」とぶつぶつ繰り返している。
眉間にシワの寄ったオベロンは明らかに不機嫌な顔で「オイ、何だよこれ」と声を出したのだが…
「っ…トイレ……」
「は?」
「……ごめん。生理…きた…っぽい」
気の抜けた声でそれだけ告げるとリツカは大慌てでトイレに駆け込んで行ったのだった。
やたらとイライラしたのも、勝手に泣き出したりして情緒が不安定になってしまったのも…全てそれが原因か。
とリツカはトイレから出るとオベロンに平謝りした。
「あ、あの…色々ごめん…。とりあえず…えっちは…生理終わって…から」
「わかってるさ、それくらい。は……」
頭を抱えてため息を吐き出したオベロンを思いっきり振り回してしまったという事実にリツカは至極申し訳なくなる。
そりゃそうだ、あれ…完全にスイッチ入ってたし…あのままシてたら、ご飯も食べずに朝まで離してもらえなかった気さえする。
「…あ、それとも、口か手でする?」
「いい。
それより薬は?重いんだろ?さっさと飲んで横になってろ…」
パタパタとスリッパが音を立て、オベロンはリツカ用のコップを手に取ると中に水を注いでいく。
「ああでも、先に胃に何か入れなきゃだな…。弁当か何か買ってくる。待ってろ」
「え?!いいよ、悪いし…オベロンも仕事して帰ってきたのに!」
「オイ、さっきの事もう忘れたのか?」
彼を止めようと、差し出されたリツカの指は宙を舞い、そのまま戻っていく。
そっか。甘えて…いいんだ。
「…じゃ、お願い…します」
素直にリツカがそう返すと、オベロンは彼女の頭をわしゃわしゃっと撫で回しそのまま耳元に口を寄せると。
「一週間後、今日の分も含めて抱くから…それでチャラにしてあげるよ」
そう楽しそうに告げて二人暮らしの部屋を出て行ったのだった。
「だからさ、箱を先に潰せば良いだろ?
中身だけをバラして隙間に仕舞えばスペースに無駄がなくなると思わないか?」
「…でも、あの箱から取り出すワクワク感とかあるかなーって…あとバラしたらアイスの場所わかんなくなりそう、だし…」
「わかんなくなったら俺がきみの分も食べとくから」
「オベロン!!」
オベロンが買って来てくれたお弁当を食べ終え、リツカは彼が準備してくれたココアのカップを両手で掴み目の前の男に吠えていた。
「まあ。今はあまり体の冷えるものは摂らないほうが良いし丁度いいじゃないか。
ああ、腹巻きして寝ろよ?靴下も。極力身体は冷やすな!わかったな?」
「オベロンてお母さんみたいだね」
くすくすと楽しそうに頬を緩めた顔はその日初めてリツカが見せた落ち着いた笑顔だった。
オベロンはその様子に少しだけ口元を緩めると、飲み終えたリツカのカップを片手に立ち上がりついでにリツカの頭をわしゃわしゃっと撫で回す。
「俺はきみの母親じゃなくて違うモノになる予定なんじゃないか?」
……そういえば。
ドサクサに紛れてプロポーズされた、ような…。リツカは視線を泳がせ、あからさまに狼狽て頬を掻く。
慌てふためくリツカの様子にオベロンは満足そうに笑うとカップを台所へと置き、再び彼女のところへ戻って来ると…
「まぁ。その話もまた一週間後にじっくりしようじゃないか?
今日はもう寝ろよ。ほら…」
リツカの身体をひょいと抱え上げ、そのまま寝室へと移動し始めた。
「あの、片付け…」
「俺がやる。…痛みは?」
「ちょっと…だけ」
「嘘つくな」
何でこの男は強がりが全てバレているんだろうか。リツカは悔しくもあったが素直に「…だんだん…痛くなってきた…」と応えた。
オベロンはダブルベッドに彼女を下ろし、布団を掛けてやるとリツカの髪を撫でてくれた。
幼子にするみたい…本当、お母さんみたいだなぁ。とリツカがその指を目で追うとオベロンに気付かれたのか彼が「オイ、また変な事考えてるだろ」とすかさず突っ込んできた。
「そろそろ薬も効いてくるだろ…眠たくなったら先に寝てて良いから」
「うん…」
「二度は言わないからな?俺の事は気にしなくていい。今は休め…」
オベロンの指が魔法をかけていくみたいにリツカのまぶたを下ろしていくと、部屋の明かりをリモコンで消した。
その闇に飲まれるよう、不思議と睡魔が自然に訪れる…。
「オベロ、ン……本当は、ね
君の喜ぶ顔が見たくて…あのアイス買ってたんだけど…ごめんね…」
「もういいよ。余計な事は考えなくて…ほらおやすみ?良い夢を…リツカ」
ちゅっと、閉じたまぶたにオベロンが口付けをすると、それを合図にリツカは深く安らかな眠りへ落ちてしまった。
一週間後の話は気分が乗ったら書きます。