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    らいち。

    @ramuneeeedo

    静かに暮らしたいおたく。

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    らいち。

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    本にするオベぐだ現パロ?の続き。

    まだまだえちちな事はしない…

    バンビと王様。2

    こんこんこん。
    来るはずのない来訪者を告げるノックの音にオベロンは眉を潜めた。ノックをするようなマナーを兼ね備えた者はこの森では自分しかいないはず。

    ああ。どこぞの新米猟師が道に迷ったか…。
    だが、オベロンは玄関へ向かう気配はない。
    ここは元々人間の来るところではない。来るとしたらそれ相当の下準備をするのがセオリーだ。それなのに迷ってここに着いた、という事はその人間は事前準備を怠った…非常に関わりたくない、だらしのない人間だ。
    関わったら最後、やれ食料を寄越せだの、出口まで案内しろ。と吹っかけてくるに違いない。

    幸い、玄関には鍵がかけてある。表札も出していない。
    居留守を使い、無人にみせかけてお帰りいただこう。そう思い、オベロンはお気に入りのソファーベッドで横になり、ボウルいっぱいに採ってきた木の実を齧っていたのだが。

    こんこんこん

    「あの!オベロン…いませんか?」

    オベロンは目を見開いた。
    街の人間にはここを知らせていないし、いつも此処にいる事はバレないようにしている。バレるわけがない。
    それなのに尋ね人は自分の名を呼ぶ。
    何者だ…?!
    ボウルをテーブルに置き、オベロンはゆっくりと玄関に近付き覗き穴から外を伺う。

    そこにはオレンジ色の髪をした一人の少女がぽつん、と立っていた。
    何だ…この女…。
    知り合いでもないし、会ったこともない。

    そうこう考えているうちに、少女は再び扉を叩く。

    「オベロン?オベロン…?留守、かな……朝のお散歩の時間だったっけ?」

    確か、に…そろそろ散歩でもしようかとは思っていたが。オベロンは開けたところで少女相手では何も問題は起こるまい、と玄関のドアを開いた。

    「オイ、誰だ?」
    「あ!オベロン!良かった!いたんだ」

    オベロンの姿を確認するとその少女は花が綻んだように笑い駆け寄ってきた。

    「おっと…触らないでくれる?人に触られるの嫌いだから。
    で、君は誰?何故俺がここにいるって知ってる?何しに来た?」
    「あ、え…と。
    私はリツカ…。オベロンがここにいるって知ってるのは……ここしかオベロンの居場所知らない、から?かな…
    ここに来た理由はオベロンの力になりたくて!」

    少女は自分の名をリツカと告げたが、それ以降は全く意味のわからぬ答えでオベロンはハァ?!と眉間にシワを寄せて応えた。

    「よくわからないけど…俺はそういうのいらないから」
    「あ、でも、私…オベロンにお礼が……」
    「お礼?君に何かした?悪いが全く覚えてないね。今日の所は帰ってくれる?
    あと、俺がここにいる事は他言無用だ。誰かに言うなよ。じゃあな」

    ばたん。
    勢いよく閉められたドア。
    それはオベロンの心からの拒否にも見えた。

    リツカは「あ、でも…」と何か口籠っていたが答えが返って来ないことを悟るとそのまま黙り込んでしまった。


    ああ。うんざりする。
    あんな娘どこかで会ったか?
    街中で?
    財布でも拾ってやったか?
    最悪だ、引っ越しをしなきゃいけないかもしれない。

    オベロンはその日、一日中イライラしていた。
    ヘマをした覚えはない、それなのに尋ね人が来るなんて。しかもあんな少女が。
    一目惚れでもされたか?ははー罪深いな、俺。などと自ら嘲笑してみせるも気分は落ち着かず…
    とりあえず、明日以降また来るようだったら様子を見るか…と思った矢先。
    ザァアッッ…と夕立ちの降り注ぐ音が響いた。
    木々で作られた屋根に当たる雨粒の音はどこか心地よい。荒んだ気持ちが鎮められ、流されていくような…。

    そうだ、とりあえず気持ちを鎮めて冷静な判断をしよう。
    オベロンはキッチンへ向かうとリラックス効果のあるハーブティーを用意してそれを流し込んだ。ハーブの香りが鼻を抜け…すーっと…落ち着いていく。
    すると…その時

    「っっくしゅ」

    家の外から…誰かのくしゃみの音が聞こえた。
    まさか、ははは。とオベロンは落ち着いたばかりの頭を思いっきり抱え込んだ。
    あれから何時間経っている…?
    あの娘が来たのは朝…今は夕方で…しかも夕立ちが……

    「っっ…クソ!!」

    だんっ!と勢いよくコップを置くとオベロンは急いで玄関のドアを開ける。そこにはオベロンの予想通り…
    朝来たはずの少女が雨に濡れながら三角座りをしていた。

    「君さ、帰ろって言ったよな?!馬鹿なのか?」
    「あ、オベロン…」

    そこには屋根などなく…びっしょりと濡れた髪は顔に張り付き、真っ白でシンプルなワンピースは彼女の素肌にへばりついて少しだけ肌が透けて見えていて…。思わずそこを目で追ってしまいそうになったが「あ…」と唸り声を上げ。

    「来い!」

    と、彼女の手を引いて家の中に入れてやった。




    この前から本当、こんな事ばっかりだな!
    オベロンは濡れ鼠になったリツカにタオルを渡し
    「風呂を沸かすから、拭いて待ってろ!
    風邪でも引かれて家の前で死なれでもしたらかなわん…」

    そう、ぷりぷり怒りながらもお風呂の準備へ取りかかった。




    「オベロン、お風呂…ありがとう」
    「いいえ、ドウイタシマシテ」

    ほかほかの湯気を纏いながらリツカがお風呂から出ると、彼女はオベロンが用意してやったシャツ一枚を身につけて出てきた。大きめなシャツは女性にはワンピースにもなるだろう、と用意してやったのだが…サイズはぴったりだったようでミニスカート丈のそれを嬉しそうに着ていた。

    「着てた服はそこに干してある。仕方がないから今夜は泊めてやるが、明日には帰れ。わかったな?」
    「…どうしても?」
    「どうしても、だ」

    くるんと伸びたアホ毛がわかりやすくうな垂れ、悲しそうな顔をした。
    しかし、そんな顔された所で答えを変える気はない。

    「…何でもするから、貴方の側に置いて欲しいの…。オベロンの力に…なりたくて」
    「何でも、ねぇ。本当にそういうの、いらないから。
    っていうか、何でもなんて簡単に言うけど…。君は俺が抱かせろって言ったらそれすらも了承するわけ?そんなに俺にお礼とやらがしたいの?おかしいでしょ…」
    「ぁ…それ、は…」

    彼女を諦めさせるための酷い言葉に、リツカは言葉を詰まらせた。視線が地を這い、迷うように線を描く。
    すると、リツカはきゅっと意志を込めるよう拳を握りしめ。

    「良い、よ。それがオベロンの為になること…なら…」
    「は?本気…?」

    まさか了承するとは思わなかった。
    オベロンはその水色の瞳を丸め、信じられないとリツカを見つめる。
    流石にどこか可笑しい。年頃の女が、見ず知らずの男に犯されても良いと言うだなんて。

    「君、大丈夫?あー…もしかして誰かに脅されてる?俺の弱みを握ってこいとか言われた?
    大切な家族が人質にされているとか?」
    「ち、違うよ…」
    「じゃあ何なんだよ?!」

    思わず、オベロンはリツカの腕を掴み上げてしまった…しかしリツカは不意の衝撃に耐えきれず、その場に転んでしまい…

    「痛っっ……」

    崩れ落ちたリツカは咄嗟に自分の左足へと手を伸ばした。彼女がそうした事で初めて気が付いたが…
    そこには治りかけの怪我の痕があった。

    「…せっかく…治してもらったのに」

    彼女のその一言で、オベロンの中のバラバラだったピースが一つの形へと成されていく…。

    「…君……あの子鹿…か?」

    ぱっ…と瞬時にこちらを向いたリツカの瞳は嬉しそうに煌めきを秘めていて…こくん、と小さく頷いたのだった。





    世の中には、不思議な事がごまんとあるものだ。
    信じるものがいる限り、妖精は消えない。だとか…何でも願いを叶える魔法、だとか

    「…何でここへ来た。森へ帰らなかったのか?というか、その格好は何だ?」
    「何でって…さっきも言ったけど…オベロンにお礼がしたかった、から…
    鹿の身体じゃ、言葉も伝えられないし…森に帰って二度と会えなくなるのが嫌で……その…魔法、で」

    魔法ね。
    オベロンは薄い目をしてリツカをまじまじと見つめた。確かに、こうして見ると彼女の髪の色はあの子鹿の毛の色と同じだし、ちゃんとした女の子の身体をしている。

    「魔法使いに頼んだわけ?でも、あいつらもタダで動くわけないよね?何を要求されたの?
    俺にお礼を告げたらジビエになるとか?それとも居間で立派な剥製のオブジェになります、とか?
    ほんっと、愚かな選択をしたね?君。」
    「っ…そんな事、ない…。オベロンにもう一度会って…ありがとうって、ちゃんとお礼を伝えることは…愚かなんかじゃ…」

    ああもう。鹿なんて助けるんじゃなかった。
    情が湧いている気がしたが、まさか人間になって押しかけてくるとは。

    「で、代償は何?」
    「……それは……っくしゅん!!」

    大事な所でリツカのくしゃみが炸裂した。
    春先で暖かいとはいえ夜はまだ冷える。しかもまだ外では雨が降っているのだ。湯冷めした体のまま放置したら何の為に家に入れたのかわからなくなってしまう。オベロンは「ー…」と心底面倒そうな声を出すと

    「今日はもういい、ベッドへ入って休むんだ。あの時の子鹿なら、ベッドの位置はわかるね?」
    「…でも、そしたらオベロンが寝る場所が……っくしゅ!!」
    「俺はソファーで寝る。さっさと行け!!」

    くしゃみの止まらぬリツカにぴしゃりと言いつけると、彼女は迷う事なく寝室へと向かって行ったのだった。

    「…はぁ……子鹿の恩返し、ねえ…」






    首が痛い…寝違えたか…?
    そう思いながらオベロンが身体を起こすと閉めたはずのカーテンは開けられ、テーブルの上には採れたての木の実がきちんとお皿に乗って用意されていた。

    「あ、オベロンおはよう!」

    ぱたぱたと駆け付ける元気な橙色。
    自分が目を覚ましたのがそんなに嬉しいのか、にこにこと笑いかけてきた少女にオベロンは呆気に取られるも「おはよう」と返した。

    「よく眠れたかい?風邪は…ひいてなさそうか?」
    「うん、オベロンがベッド貸してくれたから大丈夫だったみたい…
    オベロンは?ちゃんと眠れた?あ。あのね、さっきこれ採ってきたの!オベロン好きだったでしょ?」

    矢継ぎ早に話しかけるリツカはテーブルから木の実の乗った皿を取るとオベロンに差し出した。
    そういえば、彼女を看病していた間…かじっていた気がする。よく覚えてるもんだ…
    ふと。勝手にオベロンの手が伸び、リツカの頭を動物にするようわしゃわしゃと撫で回していた。

    あれ?何をしてるんだ俺…?

    「わっ…えへへ、ありがとう…
    嬉しいって事だよね?
    あ、あのね!私オベロンが好きな木の実のなってる場所知ってるから…毎朝採ってくるから…だから側にいちゃだめ?」
    「だめだ。それに、木の実なら俺でも採ってこれる。」
    「…うう……」

    さっきまで晴れみたいな顔だったのが一気に曇り、わかりやすく困惑する。
    自分の側にそこまで居たいものか。まぁ、雨露凌げるし、食べ物にも困らないだろうからな…。

    「なぁ、そこまでして俺の側に居たいのか?」
    「…オベロンは…命を助けてくれたし、優しくしてくれたから……。
    私、家族居なくて…お父さんもお母さんも兄弟も、皆人間に捕まって食べられちゃったみたい…。だからね、誰かに優しくして貰ったの…嬉しくて…
    貴方の力になりたくて…。あ、寝る場所なら外でも何処でもいいよ!」
    「馬鹿か、君は女の子だろ…」

    そう。もう鹿ではないのだ。
    そこにきて、オベロンは重大な事に気付いてしまった。
    もし彼女を追い出せば…人間になってしまったこの娘は今まで通りの生活を送れるのか?
    否。無理だろう。
    足の速い鹿と違い、森の中で獣に遭遇したらひとたまりもない。それに、毛皮が無ければ夜の寒さは身体に堪える。
    街へ出れば…。
    人間の常識の備わってないこの娘は悪い大人に騙される未来がありありとわかる。

    結局…面倒は最後まで見ろってことか…。

    「あ……本当、助けるんじゃなかった……」
    「…あ、あの……」
    「くそ……仕方なく。仕方なく、だからな。
    君に死なれたら夢見が悪くなるからだ」

    リツカの瞳が大きくなり期待に満ちた輝きを見せる。 

    「…それ…居てもいいって、事?!」
    「ああ…」
    「嬉しい…!オベロン大好き!私頑張るね!!」

    満面の笑みを浮かべたリツカはそのまま勢いあまってオベロンの体の上にダイブしてきた。
    ぐえ。と腹に伸し掛かるリツカの重さにオベロンは声を上げると

    「あああもう、退いた退いた!そら…朝の散歩行くぞ」

    彼女の体を持ち上げ、ようやくソファーから降りたのだった。




    それからの日々はあっという間に過ぎた。
    一人分の食器はオベロンが手作りで二人分に増え。クローゼットにもオベロンが作ったワンピースが並ぶようになった。

    「オベロンありがとう!嬉しい…でも、お礼がしたくて一緒にいるのに…私ばっかり…」
    「別に気にしなくていいさ。俺がみすぼらしい姿の人間を側に置きたくないだけだよ」
    「…オベロン、優しいけど素直じゃないよね?」
    「君な!!」

    真っ赤になったその顔は図星のようで。オベロンはあっけらかんとしたリツカの調子に振り回されながらも、気付けば彼女と過ごした年月は半年も経ってしまっていた。
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