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    oriron_kon

    主に妄想の呟きを文章化。リンバスは5×7と2×7が気になる。

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    oriron_kon

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    早く寝たいムルが夜更かししたがるヒスを寝かしつけるだけの話。
    ※格子窓の捏造設定あり。

    #ムルヒス

    ムルヒス『就寝準備』 自室に備え付けられたベッドに腰掛けたムルソーは、一定の間隔で瞬きをしては眠たそうに目を細めていた。
     強烈な眠気に耐えるために軽くシャワーを浴びるつもりが、整髪料を落としきるまで長めに浴びてしまったがために、いつもは後ろに撫で付けている前髪を額へ垂らしている姿はより幼い印象を強く与えていた。

     ある時期をきっかけに鏡ダンジョンに現れる幻想体の一部が強化されたため、ギフトの恩恵を受けたうえで文字通り、いつも以上に身を削りながら攻略してきた影響が全身を蝕んでいる。
     それは耐え難い疲労感だとムルソーは認識していた。
     彼が身に宿しているE.G.Oのうち執行E.G.Oは、戦闘に参加する囚人たちの傷を癒しながら攻撃もできるといった危険度が高い幻想体のいる戦闘では欠かせない便利な存在だ。
     その反面、精神をひどく消耗してしまうのでダンジョンに潜った日は特に眠くなるタイミングが早く訪れやすいのが難点だった。

     いつ寝落ちしてもおかしくない状態に陥っているムルソーの後ろには、寝そべったヒースクリフが手元の携帯ゲーム機に夢中になっていた
     発展した技術で溢れる都市では珍しい使いきり電池式にモノクロな画面といういかにもレトロな携帯ゲーム機だ。
     四角や棒など様々な形をしたパズルが上から降ってくるのを綺麗に並べては順番に消し続けるプログラムがこの薄くて小さなモノに詰まっている・
     ランダムで降ってくるパズルをひたすら並べるだけでも、些細なミス一つで積み重ねてきた努力があっさりと崩れてしまうかもしれないスリルが常についているといったシンプルだからこそ逆に夢中になりやすい謎の魅力が、このゲーム機にはあった。
     予め情報を集めたり攻略方法を練ったりする必要もなく、ただ直感に任せてボタンを押せばいいだけの単純さが彼の性格と相性が良かったらしく、ある巣で入手して以来、ヒースクリフはすっかり虜だ。
     常に娯楽に飢えているのもあって、彼の他に数人も競うように夢中になるぐらい流行しているが、その間は無駄口が大きく減るのことでヴェルギリウスは特別に見逃してるそう。

     カチカチとボタンを連打する音が後ろから聞こえるのを黙って聞いていたムルソーは、ゆっくりと振り向く。
    「ヒースクリフ、そろそろ寝たい」
    「ん」
     ぱちぱちと小刻みに瞬きする相手の顔を見て、本当に眠たいんだなと気づいたヒースクリフは再び画面を見つめながら、のっそりと体を起こそうとする。
     実は、都市の一部らしきビルが並んでいるのが確認できる格子窓から差し込む光は、部屋の電気を消しても一部の床を照らしているのが分かるぐらい明るい。
     ふと光が顔に当たる度、あまりの眩しさに不快な気分にさせられるが寝る時は格子窓に足を向けた格好で布団に包まっていれば多少は眠れる。
     そして、表では言えないことを相手とする時のライト代わりにもなるので、工夫をすればそれなりに付き合っていけてる方だとムルソーは思っていた。

     話は戻り、ここで電気を消されると思ったヒースクリフは、今度は格子窓の光を利用してまでゲームを続行しようと目論んでるらしい。
     あぁ夜更かしする気だなと察したムルソーは、ベッドから降りようと身を乗り出した彼の脇下に片腕を通して引き留めた。
    「んあ?寝ないのか」
    「寝る、だから君も」
     と相手の古傷だらけな両手で握り締めていたゲーム機を男らしい角ばった手が取り上げる。
     驚きと不満が混ざった声など聞こえていないといった涼しげな顔で電源を落とし、枕元に置いてから、ムルソーは流れるようにヒースクリフを抱き締めながら一緒に倒れた。
     突然の行動に面食らって固まる相手ごと布団を体にかけた後、ふーっと大きく息を吐く。
    「……俺はまだ寝るつもりじゃねぇんだけど」
     頭を預けさせるための枕の位置を調整しているムルソーの腕の中でヒースクリフがポツリと不満気にこぼした。
    「今日は鏡ダンジョンに長く潜った。寝る気がなくとも早めに横になった方がいいと私は思う」
    「眠たくねぇのに横になっても暇なだけじゃん」
     ハッキリとしたトーンで反論してくるあたり、本当に眠たくないのだろう。
     執行E.G.Oと同様、精神の消耗が激しいはずの空即是色E.G.Oをヒースクリフも何度か発動させていたのを知っているムルソーは心の中で呆れた。
     元々夜行性だからなのかは分からないが、こちらが眠たいと言っていたら合わせる姿勢ぐらいは見せていいじゃないだろうか。
     そろそろ限界が近いムルソーは、そっと目を伏せたま相手のボサついた髪をわしゃわしゃと撫でる。眠たくないのは分かった、と言いたげに。
     徹底的に清潔さを保つのを嫌う彼にしては珍しく頭も体も洗ってきたらしく、髪から漂うシャンプーの匂いが鼻腔をくすぐった。
     そういえば肉片も血も浴びまくったな、と思いながら、髪の流れに従うように優しく撫でたり、つむじの見える後頭部に口付けをする。
     単独での行動を好みそうな見た目に反して意外と誰かとの触れ合いを好んでいるのが各々の人格から伺えるムルソーは、布団の中でひたすらヒースクリフの頭を撫で続けた。
     伸ばしっぱなしな彼の髪が指に絡んでは、するりと解ける。
     その感触が気持ちよくて、ますます眠りに誘われそうだと無心で手を動かす。
     最後まで生き残るか、管理人が時を戻すのを待つだけの肉塊となるか。その二択を常に迫らせてくる空間に身を置いてきた緊張感からくる生存本能を彼と交わることで解させる時間も好きだが、こうしてのんびりと過ごすのも悪くない。

     一方、ヒースクリフも紫色の瞳を細めたり丸くさせたりと瞬きに近い動きを見せるようになり、文句を言う回数も減ってきた。
     後ろから抱き締められているのもあって相手の高い体温や静かな呼吸音がよく伝わるうえ、布団の柔らかさも相まって夜行性のヒースクリフに心地良い安眠を授けようとしている。
     頭に触れてくるといえば、髪を掴んで激しく揺さぶるかゲンコツを降らせるかのどちらかだった生活が長かったゆえに、不意に伸ばしてきた手を払い除けてしまうなど拒絶行為を最初は何度かとってしまったが、今は悪くないなという気持ちに浸れるようになった。
     囚人によっては、まるで人間に慣れてきた野良犬か野良猫そのものだと比喩してくるかもしれないが。
     うと、うと、と段々と瞬きの間隔が狭まり、ついにヒースクリフも目を伏せたきり動かなくなった。

     気づけば、すーすーと規則正しいリズムで二人の寝息が静かに聞こえる。
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