Nファウヒス『全て飲み干して』 ある日、ファウストに呼び出されたヒースクリフはテーブルとセットになっている白い椅子に腰掛けていた。
両眉を八の字に曲げた表情は完全に怯えていて、恐る恐ると紫色の瞳を彼女へ向けては慌ててテーブルを見下ろしたり、足の上に置いた両手を弄んだりと落ち着きのない動作を繰り返している。
対し、ファウストはニコニコと微笑みの表情を浮かべながら両肘をテーブルにつけては組ませた両手の甲に顎を乗せた体勢で相手を見つめていた。
小さき者よ、ファウストに握られる者よ。
ヒースクリフの背後まで移動したファウストは、口笛を奏でるかのように優しい声色で囁きながら彼の両肩にそれぞれ手を置く。
ぽん、と手を置いたと同時にヒッ…と息を呑む音が聞こえたが気づかないフリした。
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