ムルヒス『煙草』 口から出た灰色の煙が灰色の空へと吸い込まれていく。
バスからちょっと離れた先にある広場で見つけたベンチへ、ムルソーは腰を下ろしては長い足を組み、背もたれ部分に片腕をかけながら喫煙していた。
人差し指と中指の間に挟んだ一本の煙草を咥えては吸い、吸った分だけ吐く。
次の街へいつ降りれるかは案内人次第のうえ、好みの銘柄を必ずしも調達できるとは限らないのは承知のうえである。
だからこそスパスパと気軽に消費すべきではないと頭では理解しているが、いざ吸い始めるとなかなか止まらないものだとムルソーは空高く立ち上る煙を無言で眺める。
そこで、散歩から戻ってきたらしきヒースクリフが覗き込むようにムルソーの横にやってきた。
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