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    フカフカ

    うさぎの絵と、たまに文章を書くフカフカ

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    K2/2024/03/17 発行のT先生&和久井くん小説再録本『全く傷ひとつない』のあとがき(WEB版)。というか、元々はあとがきをペーパーか何かとしてつけようとしてたけど、結局間に合わなかったので、WEB上に置いちゃえ〜というものです。随時更新。

    T先生&和久井くん本『全く傷ひとつない』WEBあとがき2024/03/17 発行『全く傷ひとつない』WEBあとがき

     ウェブにちまちま上げていた話をまとめて一部はだいぶ改訂しつつ再録した本です。
     ひたすら、T先生と和久井くんが出会ってはお話をして、解散するのを繰り返す短編集で、結果的に同じ行為を二者間で繰り返し、積み重ねることで得るものがあるのか、あるとするならそれは何か、もしくはただ、時間を対話の堆積があるだけなのか、という内容になっていった……と思います。
     そのため、各話の内容が少しずつ他の話の中でリフレインするような部分があります。
     シチュエーション優先の気味があり、そのためになんかT先生が割と元気っぽい上、和久井くんに真っ当な大人医者になってもらう必要が出てしまうという超展開!イエーイ!

    第一話 白い石で出来ている
     再録本製作にあたって、ほぼ書き下ろしのつもりで書いたものです。なので書いた順では一番最後。
     そもそもどうやって、どうして二人はこうして待ち合わせして、お話しして……を繰り返しているのか、その始まりはどこ?という話です。
     この話によれば、その始まりは完全な偶然の力で、これを実際に移すのは各人の努力と意志ということのようです。普段ならありえないようなことが起きて、それがありえないような出会い(再会)をもたらすというのは、まあ、まあまあだと思います。K2自体がそうした瞬間的な、衝撃的な出会いから始まる物語で、和久井くんとT先生の場合でもそうかなという気もします。
     この話の和久井くんが待ち合わせ場所に指定したティールームのあるホテルは、つまるところこの時の和久井くんの宿泊先なのではないかと思います。それをT先生はそう思っていない(知らない)。
     そうすると、この時T先生がこの場に来てくれなかった場合、残りの宿泊期間、ホテルへの出入りのたびにティールームを目にして妙な気持ちになると思うので、そういう覚悟込みで自分のテリトリー側にかつての養い親を呼びつけているんだな、みたいな気がしています。
     しかしT先生にしてみれば何をそんな、という感じっぽいですが、全貌を知らないにしろ、他者が自分に向けてきた覚悟に付き合ってやろうという気持ちはある。相手が自分をここに呼んで、自分はそれに応じた。しかしその呼びかけの根底にあるだろう養い子の欲望のほどが掴みきれないので、それを掴むまでは養い子に付き合おうと思いついているかなにか。で、和久井くんに「次の機会についてお前が日時その他を決めろ」と言っていると思います。
     和久井くんはこれを「かのドクターTETSUが和久井譲介を知ろうとしている」と解釈していて、それは概ね正解。かつて大人と子供の間柄だった二人の立場がよりイーブンに近づいたとき、対話のチャンスがあり、対話から相手を知る機会を生むことができるかもしれない。相手を知ることは相手を記憶し続けることに繋がっていて、ドクターTETSUは「信じたものをずっと覚えている」人間(KAZUYAさんのこととか)としたときに、「和久井譲介を知る」とは、その先に「和久井譲介を信じる」ことを置く行為だね、みたいな話でした。多分。to be continued


    第二話 全く傷ひとつない
     タイトル通り(?)、一番はじめに書いた話です。
     イメージとしてまず、秋口の枯葉の落ちるような頃の日向を、背高く杖を携えた黒髪の人物が歩いている……という像があり、それはどこへ向かう人? なんのために? 向かう先に誰が待っているの? を作っていく格好で書いたので、文章がだいぶ映像的で、本を作るために自分で読み直してみてウヒヒ〜!となりました。
     ファミレスに入る寸前のT先生、わざわざ待合エリアに陣取って自分の出立ちをチェックして、整えられるとこは整えてから入店しているので、格好つけというか、より良い状態を養い子の前に晒そうという意識があるっぽいですね。イヌカフはT先生を毛並みの黒い大きな馬のような美しさを備えていると感じていて、このシーンでも、おめかしした大きな馬が、悠々とその姿を現した……という印象で書いていたようです。
     対して、ファミレス内に待ち構えている和久井くんは、T先生の目を通して「学生のよう」とか「若い」という印象でまとめられてます。それは第一話から延々登場する「石のような佇まい」的な形容に通じた、ある種の不変性であり、同時に石の彫像めいたもの=被造物としての和久井譲介という人間、のような視座をT先生が持っている……みたいに読むことも可能ではあると思います。
     誰が和久井譲介を作ったのか。親が、ドクターTETSUが、ドクターKが、そして他ならぬ和久井譲介自身が。という感じかもしれないです。
     その和久井譲介らしさを、この話のT先生は、彼のちょっとした悪戯っけな態度、振る舞いの中にも見出している。昔から変わらないもの(本文中の表現では「丁寧に均した大地の如き肥沃な精神」、「前触れなく披露する児戯めいた悪戯」)を見て、それが失われていないことを確かめ、しかしその顔をよく見てみれば確かに、かつての養い子も歳を重ね、自分の知らない一面さえその姿形と精神のうちに刻んでいるのだと分かる。それは確実に、和久井譲介という人間を完成に近づけている。
     こんなに美しいものが、自分の手元にいっときでもあっただろうか、それは本当のことだったのだろうか、いや、しかし、自分は確かにこの若者に種々の経験をさせ、思いを味わせたのだったと振り返っているT先生。そうだよ!
     最後の方の「ファミレスの浄水器で唇を拭われるのも、拭うのもごめんだ」というのは、そのまんま末期の水のことを指していて、まあ、恐らく「いつかは死に水でしょうが、それは今ではないし、ここでもない」という会話。
     死なれたら困る、よりも、今ここではないでしょ、だってそんな雰囲気のないことしたくないし、の方。そんな簡単にいくもんかという感じかもしれないです。
     
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