非道
非道 宗像さんの回想 周防尊について
ひどい男です。
言ってしまったのは二日も前の昼下がり、その不可思議な音の響きに気づいたのは今この時だった。宗像は茜さす廊下を四方向から繋いだ角の中央、青い影がわだかまる中で、「ひどい男」と自分の声を思い出した。
二日前に、何か、世間話のようなことをしていた。宗像の勢力下にはあれど、宗像からやや遠い位置で職務を全うしていた誰かと、世間を賑わせる能力者云々の話になり、途中、赤色を旗印とする集団についてまで会話が流れていった。今のところ赤色は無冠の、言うなれば烏合の集団である。そのような事実確認があり、合間に他愛ないやりとりを挟んだのち、それでは以前の冠とはどのようなものであったかと、前線から遠いその人物が恐る恐ると言った具合に尋ねてきた。青色と赤色を、単なる毛色違いの集団二つとして捉えている人間の口ぶりであることに、宗像は特別なことを感じなかった。
集団二つが己の信ずるところのためにぶつかり合っていた過去があり、それが、宗像の剣一振りによって第一幕の緞帳を降ろした。その認識はまあ概ね、誤りではないと判断があった。
それで、かつてあった燃え盛る冠について、宗像は通り一遍のことを短く伝えた。
大まかに言うと、と確かに宗像は、短い人物評のあとに付け加えた。大まかに言うとあれは、ひどい男です。
廊下である。宗像は部屋と部屋をつなぐ、影の多い廊下に立っている。周防と呼ばれた男の赤色が視界に過ぎった。否、影の外を燃える夕日の赤である。
ひどい?
気にかかるのはそれだ。宗像自身が「ひどい」と評した「男」とはつまり、先だって己の手で終わらせてやった命のことであるというのは当然、その通りだ。しかし、あれ一人だけが世界に唯一非道の生き物と決まったわけでもあるまいに、ひどいと言ったのだったか? 他の凡百を「ひどい」と思ったことは? ない。無様であると判じた事は数えきれなくとも、皆一様に「ひどい」とはならない。ならばなぜあの男だけが非道か。
「…………」
黙考ののち、いくつか浮かんだ推論を誰に打ち明けるのでもなく、宗像ははたと気づいた。そして数瞬、自己を恥じ入るべきかどうかを迷った。己の稚気が刃になって宗像の胸やら腹を柔らかく刺していた。
ひどい。
宗像は周防と名のついたあの最低で素晴らしい生き物に願いをかけていたのに、叶わなくて、それも、当の周防の振る舞いによってそれが叶わなくて、恨んでいるのだ。
わたしはお前が、お前自身に助けられてみてはくれまいかと、拙く願ったのに。
羨望や憧憬に似た恨みのぬくもりが、肌の下を流れる血潮のどこかに紛れてあった。これが口から音になって溢れると、「ひどい」と言う響きになるらしい。
周防は、わたしの王様でい続けてくれなかった。わたしの友でい続けてくれなかった。
だが同時に、今でも「そう」であるような気分も、否定し難い。だから「ひどい」と言うのだ。
なるほど、と一人首肯して、宗像は再び歩き出した。