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    フカフカ

    うさぎの絵と、たまに文章を書くフカフカ

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    フカフカ

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    K(作品名)/ 夜更けにネギを買いに行ったきり戻ってこない草薙さんを探しに行く尊さん / 4年くらい前に書いた

    ネギ どうも、友人が遥かかなたまで出かけてしまったようなので、迎えに行かなくてはいけなくなりました。
     周防はへべれけ一歩手前の仲間内と、素面なのにへべれけにうまく交じっている十束と、その隣でピンク色のソーダを飲んでいるアンナへ、一言だけ言いおいて、夜更けの街へするりと溶け込んでいきました。
     ネギです。ネギを買いに行ったはずの草薙を探します。辺りには夜のしめっぽいにおいと、熱された油のかおりが漂っていました。周防はすん、と鼻を鳴らし、空と地面の境を探るように目を凝らして、歩き始めます。自分の背中にまだ、快い人々の明るい声が貼りついている気がします。
     もう数時間も前から、仲間たちがそろって飲めや歌えやをやりおおせようと、いつものおなじみのバーに犇めいていました。これの理由または動機付けについて、周防は無知ではありませんでしたが、だからと言って訳知り顔でいるわけにもいかないので、とにかく好き勝手にさせました。素晴らしい食事、素晴らしい酒類、飲料、すこしの甘い食べ物、語らい、光、耳に優しいものがそろっていました。そこで草薙がふと、周防の隣から立ち上がって「ネギ」と言い出しました。「みんなしめに汁物、欲しいもんな」と言って、ポケットに、本当にネギのためだけの金銭をざらりと流し込んで出かけていきました。常ならぬ迂闊さも宴の余韻かと放っておいたら、これです。
     まさか、ネギ一束のために一時間も要するわけがありません。しかし実際、草薙はちらとも戻ってこないのでした。
     周防はひとまず、夜中店を開け続けている酔狂な果物屋へ足を向けました。街路灯が光を落とし、ぽつぽつとアスファルトの黒に穴をあけている、広い道の隅をひたひた歩きます。
     バーから果物屋まで、例えば尾が二股になりかけたような老いた猫の足でも、おおよそ十分でたどり着けるのですが、もしかすると草薙は酒を過ごして、老猫よりも足取りの頼りない生き物になったかもしれません。
     果たして、果物屋と看板を掲げているのに、ふたを開けてみれば食用の植物類なら大抵のものは揃えている、不可思議の店舗に、見慣れたすんなりした背中はありませんでした。店主にも、「あの坊やは来てないよ」と言われてしまいます。
     周防はポケットへ手を入れたまま、濡れてじめじめした道を渡ります。そうしてまた、星を撃ち落とさんばかりの目つきで、暗がりに沈んで藍色にまみれ、繁華街のざわめいた光にところどころを蝕まれる、夜更けの街を眺めまわします。どこかに、草薙の火が見えないかと、見まわします。
     あのうっとりした赤色が、ちかり、とでも光ってくれたのなら、周防は草薙を誤りなく見つけ出すことが出来ますし、そうでなくたって、その火の残像を探って、彼の歩いた道筋を手繰っていくことだって、不可能ではありません。周防は、自分が草薙の赤色を他のものに間違えるとは全く、信じられません。あの熱の具合を捕まえ損ねることも、やはりあり得まいと思っています。
     草薙を「間違える」には、周防は彼を知りすぎています。
     大仰な交差点に差し掛かります。太い道につながったそこへ立ち、紙巻をくゆらせながら、黙りこくる街の向こうを見つめます。そこへ、何か赤いものが見えます。眠りを知らない光を遠くからおぼろに浴びてしらしらと浮かび上がるのは、火のそれではありませんでしたが、草薙ではありました。
     草薙はネギ一束の代わりに、真っ赤でしたたかそうなガーベラを一輪だけ携えてスクランブル交差点を覆う暗闇から現れ、ぼうっとした顔で赤い花を「お前に」と周防へ差し出します。
     一体どこまで出かけて、どこで手に入れたガーベラなのかは、周防の知るところではありません。
     ただ、ネギをガーベラと取り違えておいて、いやに満足そうで、とびきりの幸福を得たことを隠し切れない様子になっている友を見て、変なやつだ、と思いました。
     指に摘まんだガーベラから微かに、草薙の火の気配がします。
     
     
     
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    フカフカ

    DONEグラⅡ/幼いころの双子皇帝/朝、カラカラが起きて廊下に出ると、廊下の真ん中に妙な布包みが落ちていた。中には傷だらけのゲタがくるまっていた/父から折檻を受けるゲタと、そんなゲタを簒奪者だと感じるカラカラの話/名前表記をカラカラとゲタで固定にしてしまいました/大人から子供への暴力行為について言及があるので注意してください
    のうのうと眠っていればいい それが一体何であるのか、カラカラはよくよく理解したというわけではなかったが、なにとなく、自分と全く無関係にも思われず、思いついて手のひらで触れて、揺すってみた。
     床に蟠った、布の塊のようなもの。
     カラカラの寝所の前を通る、長い回廊の中央にそれはあった。部屋から出たら、もうそこにあった。カラカラの腕では抱えるのに苦労しそうな大きさの、布の包みに見えた。 
     白い布の塊だった。布は上等な作りで、見覚えすらあった。カラカラは皇帝の息子であるから、そういうものを見慣れている。カラカラの目に親しみのないものは全て、取るに足らない、値打ちの低いものと決まっていた。
     カラカラは近づき、腰を屈めてそれに触れてみた。なんだかほのかに温かく、布の重なりの奥に、ぐんにゃりした手応えがある。犬か何かでも入っているような触り心地だが、塊はゆすられてワンと鳴くわけでもない。
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