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    フカフカ

    うさぎの絵と、たまに文章を書くフカフカ

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    フカフカ

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    K2/ 宇宙船ハマー号に乗り、宇宙でアウトロー医者をやっているT先生と、財団から派遣されてくる招かれざる調査員和久井青年の話 / スペースTETSU

    びゅんびゅん駆ける ハマー号は空を駆ける。光に乏しく空気のない空を行く。びゅんと行く。
     ハマー号は船だ。宇宙船だ。
     しかもとくべつ足が速い。それに、小回りがきいて、見た目もなかなか洒落ている。
     黒光りする外装に、ところどころにつぎはぎした特殊金属のきらめきが、色づいて光る。
     行商向け小型改造宇宙船に「ハマー」と名付けたのは、船の持ち主のTETSUだった。
     TETSUは、医者だった。人から法外な対価を取る種類の、法を犯すことにためらいのない種類の医者を、長いこと地球でやっていた。ドクターTETSUと呼ばれていた。
     地球にいた頃、ドクターTETSUは黒く厳しい四輪の車を使っていた。それが「ハマー」という名前だった。
     ドクターTETSUは宇宙に出てからも、乗る船すべてに「ハマー」と名付けていた。
     名前の最後に「号」とつくのは、船を馬になぞらえたせいだ。ドクターTETSUは宇宙へ出てすぐの時期に、うっかり、宇宙競馬のコースに船を進めてしまったことがある。
     レース真っ最中のコースのど真ん中に、船で割り込んでしまったのだ。ワープのミスだった。
     レース中だから、ドクターTETSUの前後左右は宇宙馬で埋まっている。それも、みんな猛スピードで走っている。
     それで、仕方がなくなって、宇宙馬の走る中に混じって、ドクターTETSUはゴールまで突っ切った。突然の侵入者を、観客も実況も、面白がって囃し立てた。
     船体に象嵌した特殊金属が、その船の名を「ハマー」だと宣伝していたから、みんな口々に「あれはハマー号だ」、「ハマー号だ」と言った。
     ドクターTETSUはそのレースで五着を獲った。見返りに、競馬運営の重役の孫の具合をタダで見てやらなきゃならなくなった。
     地球では法律破りもなんのそののドクターTETSUも、宇宙に出たてではあんまり悪いことはできなかった。
     以来、ドクターTETSUの宇宙船の名前は「ハマー号」だ。
     
     ハマー号は空を駆ける。ゆうゆうと駆けていく。みっしり暗い中を掻き分け、星と星の間に航路で縫い跡を残していく。
     ドクターTETSUは、時々、あちこちの星に立ち寄った。それは飼い猫の真っ黒いやつのためでもあったし、自分の生活のためでもあった。ドクターTETSUは宇宙でも医者だった。
     人のいるところには、患者もいるものだった。ドクターTETSUはなんでも診てやった。
     赤色の土の星で足の捻挫を診てやり、紫のガスの星で、肺の病気を診てやった。
     故郷の星が二つに割れるのを目撃して以来、なんだか涙が止まらないという人に付き添って、星の巡り合わせを一つ見送ったこともある。
     彗星の尾を飲んで以来、気が塞いで何にもできないという人のために、よく効く水薬を調合したこともある。
     ドクターTETSUはもう、お金はちっとも要らなかった。患者からは、何かを受け取る気にならなくなっていた。
     
     ハマー号はびゅんびゅん駆ける。
     細かな星のかけらが作る、銀色の帯の重なりの間をいく。
     燃える星の火の粉に戯れながら、崩れ落ちる宇宙の内壁から向こうを覗きながら、真空の擦れ合う悲鳴を見つめながら、びゅんびゅん行く。
     ハマー号にお客が来たのは、船がケイロン座を通り過ぎた頃だった。半人半馬の賢者の星たちの隣を、馬になぞらえて呼ばれる船で行くのは不思議に面白かった。
     ドクターTETSUは船のデッキに椅子を出して腰掛けていた。足元に、飼い猫の真っ黒いのがごろごろしていた。
     リンゴン、とベルが鳴って、ベルが鳴ったとドクターTETSUが理解した時にはもう、お客は船の中へ入り込んでいた。
    「ああ、すみません、許しもなしに入ってくるなと思われたでしょうね」
     デッキの入り口に、すんなりした人影があって、ちょうど、無酸素空間作業用のスーツの、ヘルメットを外すところだった。スーツは全体に緑色をしていて、着用者をぶよぶよ着膨れしたシルエットに仕立てていた。
     全く見覚えのない、招かれざる客に見えた。
     ドクターTETSUは傍に置いた杖に手を伸ばしながら「与圧の加減を確かめないでいいのか」と、人影に向かって言った。
    「しましたよ、もちろん。それ、地球産のイエネコでしょう」
     TETSUの足元で、真っ黒いのがニャアと言う。
    「イエネコが平気でいられる場所なら、僕だって平気です」
     僕?、とドクターTETSUは思った。その言葉の響きには、昔懐かしい、ちょっとヒリヒリした思い出を呼び覚ます効果があった。
     お客人は、ヘルメットをさっと取り払って、中に押し込めていたらしい、枯れ草色のたっぷりした髪を、さらりと見せつけた。髪の間から、地球の草原の色をした目が、きらりと覗いた。
    「お久しぶりですね? それとも、ここでは初めましてとご挨拶した方が? ドクターTETSU」
     お客人はハマー号の、白いピカピカした床の上にしっかと立って、スーツの内側から職務証明のミニ・コンソールを取り出しながら言った。
    「この辺りの宙域で、しばしば無許可の医療行為が行われていると通報があったもので。聞くところでは、無許可の医療行為者は、黒い船の船体に『ハマー』と象嵌しているとか? そういうわけで、できれば事情をお聞きしたいのですが」
     お客人は、ミニ・コンソールのスイッチを押して、向かいの壁に自らの職分を投影した。
    「財団から派遣されてきました、調査員の和久井です。もちろん、名乗るのは姓だけで十分でしょう? 心配しないで、調査員の資格の上に、医師免許も持ってますから、あなたがどんな話を繰り出してきたって、きっとついていけます。話し相手になりますよ」
     調査員和久井は、ゆっくりとした手つきで、財団の紋章入りミニ・コンソールをスーツの内側に仕舞い込んだ。
     調査員和久井は、かつてドクターTETSUが地球で見出して、色々と「おせっかい」して育てた若者に違いなかった。
     もう、何年も顔も見ていなかった。地球でも、ろくな別れ方をしなかった。
     和久井が宇宙にいることは、意外でもないものの、再会の仕方も、そもそも再会が果たされたことさえ、夢物語のようだった。
     ドクターTETSUは椅子から立ち上がり、杖をついて、そちらに体重をかけた。
     和久井は、精悍に整った顔立ちを、静かに保って、TETSUを見据えていた。
    「なんだ、俺は意外と、気の利かねえ男だったのかもしれん」
     ドクターTETSUは言った。
    「お前を一目見て、『背はそんなに伸びなかったんだな』くらいしか、言葉が思いつかないとはな」
     ははは、と声をあげてTETSUが笑うと、ハマー号は心なしか、駆け行く足を緩めて、ゆったりと暗い宙を、無目的に回遊し始めた。  
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    フカフカ

    DONEグラⅡ/幼いころの双子皇帝/朝、カラカラが起きて廊下に出ると、廊下の真ん中に妙な布包みが落ちていた。中には傷だらけのゲタがくるまっていた/父から折檻を受けるゲタと、そんなゲタを簒奪者だと感じるカラカラの話/名前表記をカラカラとゲタで固定にしてしまいました/大人から子供への暴力行為について言及があるので注意してください
    のうのうと眠っていればいい それが一体何であるのか、カラカラはよくよく理解したというわけではなかったが、なにとなく、自分と全く無関係にも思われず、思いついて手のひらで触れて、揺すってみた。
     床に蟠った、布の塊のようなもの。
     カラカラの寝所の前を通る、長い回廊の中央にそれはあった。部屋から出たら、もうそこにあった。カラカラの腕では抱えるのに苦労しそうな大きさの、布の包みに見えた。 
     白い布の塊だった。布は上等な作りで、見覚えすらあった。カラカラは皇帝の息子であるから、そういうものを見慣れている。カラカラの目に親しみのないものは全て、取るに足らない、値打ちの低いものと決まっていた。
     カラカラは近づき、腰を屈めてそれに触れてみた。なんだかほのかに温かく、布の重なりの奥に、ぐんにゃりした手応えがある。犬か何かでも入っているような触り心地だが、塊はゆすられてワンと鳴くわけでもない。
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