オーバーオールちゃんは戻らなくても大丈夫。ここにはたくさん知らないものがある。面白いもの、楽しいものがたくさんある。
ここに来ていつも泣いている人がいる。ホームシック、というやつなのかもしれない。
オウチ、と言うものも、ママと言うものも知らないけど。
みんなオウチと言うものがあるのかな、なんて思って周りを見ても、自分のことでいっぱいいっぱいなのか目が合うヒトすらいない。
どうして帰りたいんだろう、ここでは自由に歩き回る足があるのに。
どうして帰りたいんだろう、ここでは自由にお話できるコトバを持てるのに。
教えて、誰か…っ。
「オウチ、ってナニ」
小さく小さく呟いたのに、みんなが一斉にこっちを見た。
「ボク、知ってるよ、ゼンブ、知ってるよ。」
「おウチ、おウチ、あぁぁぁっ」
目玉が1個出ているヒトとアタマが前後ろの人がヒトが話し出す。
「ボクにラクガキしたの、」
顔にいろんな色がついているヒトも話だし、バレリーナさんはシクシク泣き始める。
おウチを知ってるのに、帰れないの
酷いことをされるのに、帰りたいの
わからない、わからない、わからない。
「アソボ。」
「ママ」
頭を抱えていると、頭上から2つの声が降ってきた。
顔を上げると、水兵帽をかぶったヒトとまだ歩き方のおぼつかない子、それから目から虫が出ているヒトが立っていた。
「あー…アソボーヨー。」
「ン。」
もう一度そういう水兵帽くんと、自分の飲んでいたものを差し出す女の子。
「イーイーヨ。」
そう言うと、相手は笑い声を立てたり手を立てたりしていた。
おウチが無くたってダイジョウブ。
おウチを知らなくたってダイジョウブ。