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    86mayuri

    @86mayuri

    修帝。小説とたまに絵を。
    今のところ特にいかがわしいものはないけど、フォロワー限定な物は短文のお遊びとかメモ感覚で使ったり原作から離れるただのネタなのであんまり幅広く曝したくもないというだけの代物です。
    小説もここには一部の短文しか載せないので全文はpixivにまとめています。

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    86mayuri

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    忉利天の幻境in修帝。ほのぼの。
    取り急ぎ書いてしまったので極力描写カットで短く会話中心に仕上げています。

    #修帝
    Asura x Taishakuten

    阿修羅誕生日記念短文.





     木枠と丈夫な麻縄で拵えた簡易的な空の背負子を両肩に下げ、腰に籠を括り付けた阿修羅は立ち上がると外へ出た。温暖な過ごしやすい天気は、誂えたように前日と変わらず晴々としている。
     大きな体躯のその後に続いてゆっくり外へと出た帝釈天は自分よりも頭ひとつ分背の高い相手を少し呆れた顔をして見上げていた。

    「貴方の嗜好品にとやかく言うつもりはないが。今日やらねばならないことなのか」
    「蒸留後も熟成させるには時間をかける。作っておくなら早い方がいい」
    「急を要すると言って唐辛子畑は一瞬で出現させたというのに。難儀なことだ」
    「お前の気まぐれで此処に何年留まるかわからないというなら、必要なものは先に用意しておくに越したことはない」
    「貴方は本当に真面目だな。薪など拾いにいかなくても望めば独りでに山から転がり落ちてくるし湯水の如く流れてくる美酒もすぐ手に入る。唐辛子の酒が欲しいと望めば薄紅の酒だって湧き出るかもしれない」
    「上げ膳据え膳の生活しか知らないお前には分からないだろうな。理由なく与えられたものなど、苦労を経て初めて得られる品の足元にも及ばない」

     忉利天の素晴らしさとやらを再び語り出す相手に皮肉をこめて放った言葉だったが、意に反して顔を綻ばせる帝釈天は阿修羅に視線を向けると笑顔を見せた。

    「でもね、かく言う私も。貴方と蓮池で小舟に揺られて蓮根を探す時間はなかなか悪くないと思っている」
    「…………」

     庭先にある大きな蓮池を眺めて嬉しそうに帝釈天はそう話す。
     乗って優雅に蓮を眺めているだけのお前のその過程に、何の苦労があるんだと言ってやりたかったが。楽しそうに指先を水面に浸し魚が寄って来るのを面白がる幼気な横顔を眺める穏やかな時間は、長らく得られなかった安らぎを阿修羅に思い出させるようだった。
     だからそうやって好意を仄めかす言葉を敢えて織り交ぜ意識を向けさせたいような上手い言葉には、簡単に騙されてしまいそうだ。

    「陥落させて無能な男に仕立て上げれば戦に勝てるとでも思っているのか」
    「私たちに今必要なのは、勝敗じゃない。失われた時間だ」
    「失わせたお前がそれを言うとはな」

     辛辣な言葉を吐くと誤魔化そうと笑顔を作るわけでもなく思い詰めた表情をするわけでもなく、真っ直ぐに帝釈天は阿修羅を見つめ返した。
     その静かな整った顔立ちは、選んだ道に後悔はないと語ってくるかのようだ。

    「まぁいい。今は目先の生活が最優先だ」

     問答を諦めて相手を背に阿修羅は近くの山を目指す。



     数時間ほどで山の散策を終えて、竹で編んだ腰籠に山菜と木の実をたくさん詰め、限界まで乗せた薪を背に阿修羅は下山した。
     丘を登り、想像力と忉利天の力だけで自分が立ててしまった木造の仮の我が家に戻ると、辺りにけたたましく騒ぐ鳴き声が響いている。

     ここへと来た最初の日にあった出来事を思い出す。懲りずに相容れない者たちにちょっかいを出しているのかと先に荷を下ろしてから阿修羅は声がする方へと向かう。
     また囲いの外で追い回されているのかとも思ったが、屋根付きの柵の中で外側から罵声を浴びせられているのは他ならぬ帝釈天だった。

    「ついにガチョウに屈伏してお前が飼われる側となったか」

     自由になっても逃げもせずそれほどまでに注目したい対象であるのかガチョウは中にいる標的に向かって叫んでいる。賑やかな声に対抗して声を荒げて会話を進める他ない。

    「喰われてやるために飼われるつもりはないよ」
    「蓮が狙われているというなら普通に考えて霊神体をまずは仕舞え」
    「仕舞ったさ。それでも彼らは私を追いかけ回す。そのうちに防衛本能で勝手に蓮がまた出てきてしまうんだ。それでまた余計に追い回され此処に逃げ込んだ」
    「なんでまたわざわざ近づいたんだ」
    「やはり阿修羅とここで生活する以上は貴方の大事なガチョウとも友愛を育んでいかなくてはと思った。それで、昨日貴方が作ってくれた揚げ菓子を一緒に食べて打ち解けようと試みたんだ」

     見れば柵の中に閉じ込もる帝釈天は、包み紙に巻いた捻り菓子を両手で握りしめている。
     庶民の素朴な料理が珍しいのか美味しいと言って何を食わせても喜ぶものだから、昨日は茶菓子を作ってやった。小麦粉に水で練って形を作り油で揚げるだけの簡単な代物だが、甘いものを好む彼のために椰子果(ココナッツ)風味の餡を練り込んでやると大袈裟なほどに感激していた。

    「貴方がせっかく作ってくれたものだ。分け与えるのは惜しいが美味いものを分かち合うことで絆を育てられるなら試す価値があると思った」
    「……帝釈天。ガチョウは麻花(マーファ)を食べない」
    「食べる個体もいるかもしれないだろう。食の好みが近くて私と気が合う者がいれば仲良くなれるはずだ」

     気を引きたくて馬鹿な振りをしているのか、本当に貴族育ちの世間知らずでおかしな行動に出ているのかこの男の場合はよく分からないところが問題だ。

    「じゃあ気の合う相手を見つけ出し仲良くなれるまでお前はその囲いの中で生活しているんだな。飯は運んで来てやる」

     初めて此処に来た日、自分が食事を作るその間に屋上に避難させて暫く放っておいた時と同じように一時間くらいはその場で反省させてやりたかったが。

    「あ、あしゅら……」

     ガチョウも逃げるつもりがないのなら放っておいても構わないだろう。さっさと行ってしまうかと阿修羅が歩き出すと、後ろから情けない声だけが追いかけてくる。
     振り返れば柵の中に置き去りにされた彼が見世物小屋の子狐のような顔をして潤んだ眼で一心に見つめてくる。

     ため息を吐く阿修羅は踵を返すと、不安そうな顔をした相手の傍に歩み寄った。柵越しに横幅のない脇腹を両手でひっ掴むと肩に軽々担ぎ上げる。

    「!?わっ」

     急に高々と抱えられ驚いたのか首に腕を回し縋りつく帝釈天を持ち上げたまま柵の扉を開け放った。一挙に自分の近くへとなだれ込む様子に、高い場所にいても肝が冷えたのか彼が怯える。ますますしがみついて首が締まりかけるが、筋力で持ち堪える阿修羅は自分たちの周りを囲むガチョウをするりと躱し、素早く扉を閉めて帝釈天の脅威を隔絶した。

    「また今度馬鹿な真似をするなら家財道具ごと押し込んで本当に此処に住まわせてやるから覚悟しておけ」

     興奮し過ぎて嗄れた声でガチョウがまだ帝釈天に向かって騒いでいるが気にも止めず阿修羅は玄関先を目指して歩き出す。
     下ろしてくれとも言わない帝釈天は何も答えない。しがみつく手だけは緩めても、すり寄るように縋ることだけはいつまでも止めようとはしなかった。






     夜という概念が存在しない忉利天は昼と夜の境目も曖昧だったが、身体は休めなければならない。規則正しい生活を送れているのかもわからなかったが、腹が空けば夕餉の頃だろうと、そう思しき時間に二人で食事をし、それぞれ湯浴みを済ませて床に就く。

     寄り添って眠ることはなかったが、寝具は隣に並べて黙って眠る。数日の間はそんな風に過ごしていた。


    「阿修羅」

     その沈黙をようやく破る帝釈天の静かな声が後ろから届く。
     阿修羅は寝たふりをしているつもりはなくともその呼びかけに答えなかった。だが反応がなくても行動に出ようと決めていたのか、僅かに持ち上がった掛布の間から相手の身体が滑り込む。

     無理に接触してやろうとまでは思っていないのだろう。ただ、探るようにそっと背中に手を置き、帝釈天は肩に額を押し付けてくる。

    「かつての私たちには、もう戻れないのか?」
    「…………」

     どう言葉を返せばいいのか阿修羅は分からなかった。ただ、簡単に温もりを受け入れてしまうには、あまりにも長い時間、彼と離れていたせいでどう触れ合っていけばいいのかも分からずに。そして、傍にあるからこそいつか遠ざかる仮初の幸福が、簡単に崩れて無くなる絶望に自分が耐えられるのかも今は知り得ないことだ。

     適切な答えを舌に乗せられないせいで、言葉を紡げなかった。
     彼が触れた背中にある温かさだけを感じながら、次第にやってくる眠気に抗いもせず、阿修羅は瞼をゆっくりと閉じた。





     今日はガチョウとの攻防を繰り広げてはいないようだ。少し離れた場所にある川まで赴き魚を採って戻った阿修羅は、比較的静かな飼育場を遠目で見ながら家屋に入る。

    「早かったな、阿修羅」

     出迎え用の笑顔を慌てて乗せたような顔をした。帝釈天が。それが気になりまだ跳ねて活きが良い魚を雑に籠ごと洗い場に下ろす阿修羅は彼の傍へ歩み寄る。
     見れば厨房で何かを作ろうとしている所のようだった。

    「理由なく与えられたものなどと貴方は言ったが。大いに理由のあるものならどうだろうかと、私は考えた」
    「……?」

     粉を水で練ってみたようでくっついたまま離れずに綺麗なはずの指にまとわり付き、見た目が酷いことになっている。粉末が辺りに散らばり、年甲斐もなくはしゃいで粘土遊びでもしていたのかというくらいの惨状だ。

    「今日は貴方の特別な日だ。祝いに手製の菓子をと思ったんだ。だがやはり、なかなか上手くはいかないものだな」
    「…………」

     泣き言は言わなくても語尾が窄まり少し気落ちした様子の彼を見て阿修羅は黙り込んだ。
     茶化して酷い有り様だと罵ってくれたほうがまだ良かったと、帝釈天も思ったのだろう。

     俯いて唇を引き結んだ後で、阿修羅が声をかける前に帝釈天が先に口を開く。

    「私が本当に知りたいのはガチョウとの融和の方法ではなく、凍てつかせてしまった貴方の心の解かし方だ……」

     その言葉を聞いて返答をこの場に用意出来なかった阿修羅はそれでも勝手に動いていた手を止めさせることもしないまま、相手を手を握っていた。

     その掴んだ手を口元に運ぶ阿修羅は細い指先を口に含み、手についたままのものを舐め取る。

    「あ……っ、阿修羅……!?」

     白玉粉のようだなと思いながら甘みが強いと感じつつ粉っぽさを舌で味わいながら掌まで下りて彼なりの手料理を先走って舐め上げる。

     同居人の突然の行動に混乱して赤面する相手は泡を食った顔で憤慨しだした。

    「わ、私は真面目に話をして……!」
    「俺だって真剣にお前のことを考えているに、決まっているだろう」
    「……え」

     何を迷うことがあるというのか。自分が気にも止めていなかったその特別な日を、精一杯祝おうとしてくれる友人が、目の前にいる。それは揺るぎない事実だ。

    「もうとっくに解けている」

     手を解放してやると、阿修羅はそのまま健気な身体を抱き締めた。
     肩が強張りまだ少し状況に気持ちが追いついてこない様子の帝釈天に構わず抱擁を迫ったが、続きはまた後でゆっくりするかと身体を離すと、口を開いたまま見たこともないような、なかなか間の抜けた顔でこちらを見上げている。

    「ところでお前はふいごも使えないのにどうやって一人でその粽(ちまき)を仕上げるつもりだったんだ」

     笹が傍に重ねて置いてあったので粽を作ろうとしているのだろうということはわかっていた。
     相手はまだ呆けた顔をしているが、喋りながら水桶がある洗い場まで彼を誘導すると手を濯がせ洗わせると手ぬぐいで包んで水気を取ってやった。

    「……?笹に巻いて出来上がりじゃないのか??」
    「はぁ。しょうのないやつだな」

     蒸し上げる工程をすっ飛ばして粉の塊を俺に食わせるつもりだったのかと若干呆れながらまた厨房に連れ戻し、問題の物体の前に二人で立つ。

    「手伝ってやる。打ち粉をしないから手に貼り付くんだ。ほら」

     言いながら余りの粉を手に振りかけてやり、自分でも同じように粉を手に纏う阿修羅はやり方を相手に見せながら形を作る。真似てそれに続く帝釈天は、本当だ。すごいな。そう言いながら目を輝かせ出来上がったものを笹の葉の上に並べた。

    「一緒に一つのものを作り上げるというのはいいものだな、阿修羅」
    「笑っていないで手を動かせ」
    「ふふ。そう言う貴方も少し笑っているじゃないか」

     意気揚々と話す帝釈天はすっかり元気になり、笹の葉もちゃんと自分で探しに行って大きいものを選んだんだぞと言って、苦労をしたことを強調してくる。

    「しかし笹粽なんて素朴な料理どこで知ったんだ」
    「昔、端午の節句に使用人の女性が内緒で食べさせてくれたことがあったんだ」

    「優しい味がして。貴方の手料理を食べてからその時のことを思い出した」

     その心温まる記憶を思い出し、自分と打ち解けるためによく知りもしない料理を作ってくれようとしたのだろうと考えれば、同じ温かさが心に灯らないわけがない。

    「私はずっと、こんな平凡な幸せが欲しかった」
    「忉利天のせいで全く平凡な日常ではないと俺は思うが」
    「貴方も忉利天の良さがじきにわかるさ」

     雄弁にまた語り出しそうな彼を横目に阿修羅は笑む。

    「お前は本当に俺のことを理解していないな」

     実のところ、忉利天がどういう所であるかなんて自分が知りたいことに比べれば阿修羅にとって取るに足らないことだった。
     今いる場所なんて何処でも構わない。最初から欲しいものは、ただ一つ。

    「ならばここでゆっくり時間をかけて教えてもらわないといけないね」

     どれほどの月日であろうとも、彼が傍にいてくれるのなら。









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