墜天の王 3 蓮池の回想.
「貴方も入ったらどうだ。阿修羅」
池の中心から、手鞠を転がしたような軽やかな声が響いた。
白い脚が歩を進める度、衣が尾を引き水面を揺らめかせ広がる輪が夢幻に惑わせていたためか。その音が紡ぐ自分の名に気付きやっと目線を上げると、半身を水から出し白い薄衣を軽く羽織るだけの友人が、こちらを見ていた。
王城の傍ら、御膝元に堂々と居を構える貴族の敷地は、足を踏み入れることも躊躇われる豪勢な造りであるかに思えたが。
静けさを好む彼の趣向からだろうか。ここは、柔らかい風が運ばれ鳥の囀りに耳を澄ませながら、自然との調和に時を委ねるような優しい空間だった。だから居心地が良くてついぼんやりしてしまったのかもしれない。
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