体育教師×養護教諭 修帝.
滑らせた戸が端に到達した音が思いの外大きかった。その拍子に驚いて弾かれたように立ち上がる男子生徒が自分の通学鞄を慌てて抱きかかえる。
「おい、帝釈天」
入室の挨拶もなく中に堂々と入ってくる大男に圧倒されて身体を強張らせた生徒は縮こまった背を緊張させたまま、体当たりして怪我を負うことがないよう電柱を避ける要領で小走りに横を通り過ぎた。
「し、失礼しました。帝釈天先生」
「ああ。また来たい時に、いつでもおいで」
話が済んでちょうど帰るところではあったのだが。心穏やかに立ち去るはずだったのにと生徒に対し申し訳ない気持ちになる帝釈天は原因の男を恨めしそうに見上げる。
自分の背丈を大幅に越える相手を間近で見上げる勇気もなかったようで彼とは目を合わせず生徒は一礼だけして退室した。
「先生、を付け忘れているようだが。阿修羅先生」
「同期生なんだから別にいいだろ」
「生徒と他の先生の前でくらいちゃんとしてくれ」
確かに彼とは同じ大学を卒業したが。互いに仕事をしている身だ。職場でそんな気安い関係では困る。
小言には答えないまま近くまで来ると、部活帰りのスポーツ部のような大きなバッグを肩に抱えていた阿修羅は持っていたそれを床に下ろした。
「どうやら俺は恐がられたようだな」
「貴方が突然乱暴にドアを開けて、入ってくるからだ。繊細な子が出入りすることも多い場所だ。気を使ってくれ」
「……すまん。しかし凄いな。登校拒否で長い間学校に来れなくなってた生徒だろ。お前相手ならちゃんと話をするんだな」
「まだ保健室登校だけだが、友人と別室で昼食を取れるまでになった。少しずつ心を開いてくれている」
帝釈天の言葉を感心しながら聞いていた彼は生徒が先ほどまで座っていた席に腰掛け、相向かいになってゆっくり話すような体勢になる。
「お前は優秀で国家資格をいくつも持っているのに、あえて学校を勤務先に選んだ理由は何なんだ」
「単に自分にこの仕事が合っていたからというだけだ。資格は親に煩く言われたから取ったに過ぎない」
急に深堀りされたが建前としての答えは既に決まっていた。だから帝釈天は、すんなりと答えることが出来た。
「貴方だって国体やインターハイで活躍して将来を有望視されていたのにオファーをいくつも蹴って教師になったと聞いている。それを上回るだけの尤もな理由を聞かせてくれ」
「企業に管理されるというのが嫌いだと思っただけだ。つまり向いていなかった」
「…………」
彼は自分とは違う、アスリートとして華々しい道を歩むかに思えていた。
管理されるのが嫌い。その言葉を聞いて帝釈天は無言になる。親に言われて余分に取った資格もあるが。産業保健師として企業に入り選手のコンディションと健康を見守り支えながら全面的にバックアップする役回りも想定していた。そのために取った資格もあると、これは誰にも聞かせたことがない話だ。
「ところで貴方は連絡か何かで来たのか」
「いや、連絡があるわけでも雑談をしに来たわけでもないんだが……」
「っ!」
阿修羅が答えながら徐ろに上げた腕。それを見た帝釈天は驚いて席を立ち上がる。
肘より上の広範囲で擦過傷が走り、滲んだ血が滴り落ちそうな状態だった。
「体育の授業中に少し擦り剥いてしまった」
「少しだと?そんな怪我をしていたなら悠長に喋ってないでもっと早く言ってくれ!」
「怒るな。お前の顔を見たら何だか安心して痛みを忘れてしまったんだ」
「呑気な体育教師だなまったく……。生徒に示しがつかない」
帝釈天は自分の手指を消毒するとすぐに室内に設置されていた水道に連れていき、彼の腕を念入りに洗わせる。
「走り高跳びで失敗してマットから転がり落ちた生徒がいたらしいな。だがすぐ介助に入った阿修羅先生のおかげで大事に至らなかったようだと、さっき生徒たちが話していたのを聞いた。貴方は生徒を庇って怪我をしたのか」
「いや。補佐についていたのに目測を誤った俺のミスだ。教え子に怪我がなくてよかった」
「貴方という人は……」
示しがつかない等とこき下ろしたが、真面目な男だと知っている。今はまだ新任の教師なのだから彼は副担任として補佐役に回っているに過ぎない。担当した先任の体育教師が生徒の実力を見誤り無茶を言って高難易度の背面跳びをやらせて、危うく事故になりかけたのだと生徒たちからは聞いていた。
また阿修羅を先ほどの席に座らせる。洗った後、清潔な布で患部の水気をそっと拭き取る帝釈天は、大判のシートの裏面に貼り付いていたセロファンを剥がし、縒れることがないよう丁寧に傷を覆い腕に貼り付けた。それを見た阿修羅は不思議そうに首を傾げる。
「消毒はしないのか?前に学生の頃、傷の手当をやってくれた時はそうしていただろう」
「それは貴方が傷を舐めたりしたからだ。こんなに酷い擦過傷に裂傷まであるなら消毒液を塗っては染みて酷く痛む。それに細胞まで殺菌されてはかえって傷の直りが遅くなってしまうんだ。この方が跡も残らず綺麗に治る」
縫合するほどではないからまだよかった。火傷などにも効果的な湿潤療法だが、これだけ大きな傷なら跡が残るかもしれない。それを防ぐ目的が大きいが、出来かけの瘡蓋を痒いと言って掻き毟り悪化させる雑な阿修羅の姿が真っ先に目に浮かぶ帝釈天は、治りかけでも痛みや痒みが少なくて済む方法を選んだ。
剥がれないように上から防水用の保護シートを貼り、3日ほどそのままにして剥がすことがないようにと、また見せに来てくれと指示を出す。
「そういうもんなのか」
「貴方の異常な治癒力には余計な薬など寧ろ邪魔になるくらいだと理解している。長年貴方を見てきた私が信用出来ないのか?」
「いや、大いに信頼している。というか褒めているのかそれは。馬鹿につける薬はないとかそういうんじゃ……」
「心から褒めている。生徒みんなが貴方ほど丈夫だったらどんなによかったか」
「はは。さすが生徒のことを一番に考えている帝釈天先生だ。見ず知らずの保健師に口煩く言われるのはごめんだが、お前のサポートを受けられるというなら俺も選手の道を選んでもよかったかもな」
好意的な言葉であるはずなのに。その言葉は帝釈天に酷く突き刺さり胸が強く痛んだ。
自分が彼の傍にいてずっと支えてさえいれば彼は世界で活躍するような有名な選手になれたかもしれない。……と、そう思ったら。
「……。貴方は誰の管理を受けなくても上を目指せたと私は思っているよ」
「高校の頃のようにお前に応援されるならやる気も湧いて多少は頑張れたかもしれないと思っただけだ。別に俺はトップアスリートになりたかったわけじゃない」
部活動でもマネージャーとして彼を見守っていた。そんな生活がずっと続くと思っていたあの頃。ただ純粋な気持ちで友人の傍にいた自分は、心から彼が高みを目指すことを望んでいた。
いつの頃か自分だけが気持ちの在り方を踏み違えて彼の隣で共に歩むことが難しくなった。
阿修羅は今でもあの頃と何も変わらないのに。変わってしまったのは自分だけだ。
「生徒に恐がられていると貴方は言うが、それ以上に信頼を得ている。貴方は」
「だといいが」
身勝手に彼に対し持っていた希望は今は言っても仕方がない。彼が選び歩む道を尊重しなければ。帝釈天はそう自分に言い聞かせた。
「貴方の人気ぶりといえば、阿修羅先生への恋心を恋愛相談に来る生徒がいるくらいだぞ」
「ほう?」
「……いや、秘密保持のため詳しくは言えないが」
気持ちを切り替えるために出した余談であるはずが、自分本位に詮索めいた内容になってしまったなと、帝釈天は内心軽く自己嫌悪に陥る。
「そんなカウンセリングまで請け負っていたのか。たいしたものだ」
想いを寄せられていると聞いても別段浮かれるような様子も見せない。さすがに生徒に好意を抱かれて喜ぶような軽率さはないのか、相手は誰だと詮索してくることもなく特にそこには興味がないようだった。
「ならば俺も。何でも聞いてくれる優しい帝釈天先生に相談したい悩みがあるんだが」
「どんな内容だ?保護者の電話応対が苦手だから朝の当番を変わって欲しいという相談以外なら聞こう」
机に肘を置き、内緒話でもするように顔を近づけてくるのを同じように顔を寄せ、聞き入る体勢になる帝釈天は相手を真面目に見つめ返す。
「頑なに口を閉ざす友人の心を開かせるにはどうすればいいのか」
「…………」
「教えてくれないか」
相手の思いも寄らない相談内容に、帝釈天は言葉を詰まらせる。
他でもない自分に対しての言葉なのだと否が応にも分からせてくる真剣な目だ。
「別に……普通に会話はしているだろう」
「高校の時はもっとお前との距離が近かったはずだ」
「付き合いが悪くなったと言いたいのか。それは仕方がない話だ。大学も学部が違えば自然と会う機会も減る」
「そうだろうか。避けられていると今でも感じている、俺は」
「私たちは仕事をしている身だ。学生の頃とは違う。お互い生活があるのだから離れてしまうのも自然の流れだ」
「ならその自然の流れに逆らってでも次の休みは空けておけ」
「時間を取れるとは一言も……」
こちらが言いかけても聞かず立ち上がる阿修羅は自分が持ってきていた大きなボストンバッグから衣服を取り出している。
「しかし、助かった。汗をかいて着替えたかったんだが新しいシャツまで血で汚してしまいそうだったからな」
彼はジャージの袖を捲ったままの状態でいたが、そう言いながら上着を脱ぎ去ると下に着ていたシャツに手をかけた。
「阿修羅!?おい、ここで着替えるな……!」
斜め後ろ向きだったが捲り上げられた下から、褐色の隆起した筋肉が覗く。
体育教師だからといってここまで鍛え抜かれた身体を持つ教員が彼以外にいるだろうか。
「?なんでだ。男同士なんだからいいだろ別に」
声をかけたことでますます状況が悪化した。シャツを脱ぎ去り、応えようと振り向く阿修羅の露出した肌の前面が帝釈天の目に飛び込んでくる。
「……っ、女子生徒が入ってきたらどうする。一気に教育委員会まで上がって審議だぞ」
「そうか。気をつける」
「…………」
配慮もなにもあったものではない。確かにこのタイミングで引き戸が開けられてしまったら問題だが、彼に対し神経質な感情を抱いている人間の前で無思慮に身体を曝け出さないでほしい。
高校の時、意識していなかった頃は部活後のシャワーの時に見ることも銭湯にもよく一緒に行っていたくらいの間柄だったが。その頃よりずっと鍛え上げられた身体は、距離を置いていた大学の間に彼が自分の知らない所でどれだけ過酷なトレーニングを積んでいたかを想像させた。
叱られたことで阿修羅は着替えを手早く終える。
シャツ越しに見ても張り出た二の腕と大胸筋に逞しいとわからせていたはずだったのに。昔から男らしかったが時折やんちゃで友人思いな可愛かった記憶の中の彼が、すっかり大人の男に変わってしまった衝撃を目の当たりにした帝釈天は内心気が動転して目が回りそうだった。
「帝釈天?」
「……?」
「顔が赤いぞ」
少し昔を思い出してぼんやりしていたせいで間近に迫る影にすぐ気付けないでいた。
緋色の瞳が心配そうに覗き込んでいた。大きな手が自分の頬を両手で支え、額を押し付けられて初めて机越しに身を屈めた彼の顔が間近にあることに気付く。
「!」
「熱を出した生徒の面倒を見て風邪でも貰ったのか?」
「…………いや、今日は少し蒸し暑い。衣替えの頃かと厚手の服を選んでしまったが。選択を間違えたようだ」
やんわりと静かに片手で相手を押しのけて帝釈天は顔を離す。
本当に間違えた。何故勤務先をこの学校に選んでしまったのか。入ったのは自分の方が先だったが、避けるつもりならもっと遠くの学校を選ぶべきだった。大学が提携していた高校で親の息がかかる学校でもあり断われなかったこともあるが。今までだって何度も親に反発していたのだから自分の意思を押し通すなら選択の余地はあったはず。
離れなければと思うほどに諦らめられず彼の傍に居たいと心のどこかで思ってしまっていたのだろう。そんな自分は本当に愚かで情けないと、遣る瀬無い気持ちになる。
軽く戸を叩く音が響き、帝釈天は反射的に立ち上がった。二人が入口の方に目を向けると、中に入ってきたのは生徒ではなく成人男性だった。
「失礼する。…………お前も居たのか」
「光明天先生」
先輩教師である光明天は先に阿修羅を一瞥すると冷ややかな視線を送った。だがすぐ声をかけた帝釈天の傍へと歩み寄る。
「実は。困ったことに紙で指先を深く切ってしまったんだ」
「大袈裟だな」
「ああ、確かに。血が滲んでいますね。そこの水道で手を洗ってください」
余計な合いの手を入れてくる阿修羅を帝釈天は軽く睨むが、すぐに棚にあった薬箱から絆創膏を取り出して用意する。
何故そこまで敵意のような反感を持っているのか、処置を施している間の阿修羅の表情は険しく、ずっと光明天を睨みつけていた。
二人の空気がこれ以上悪化しないようにすぐ終わらせてしまおうと絆創膏を指先に手早く巻き終えると帝釈天は光明天から静かに離れる。
「ん?綿で消毒は。しないのか……?」
「必要ありません」
どうしても滅菌済みの消毒綿球に殺菌消毒するための液をつけてピンセットでぽんぽんするイメージを保健師に対し持っているのか、光明天も阿修羅みたいなことを聞いてくる。化膿の心配があるわけではないのだから清潔さを保てられれば必要ないものなのだが。
「……。そうなのか……」
少し残念そうに悄気た様子で引き下がる光明天だが、望み通りにいかず面白くなかった矛先を若手教員に向けるように阿修羅を睨み返した。
「さっきの不祥事。上から見ていたぞ。生徒に怪我をさせることがないよう十分に気をつけたまえ」
見ていたならどうしてそういう言葉が出るのか。不祥事であるはずがない。彼が身を呈して生徒を救ったからこそ学校の問題にならずに済んだというのに。
しかし実際に見ていなかった自分が口を挟んでも状況を悪化させ逆に阿修羅の立場を追い込むだけだと、帝釈天は口を噤む。
「ああ。肝に命じておこう」
「ふん……ここは生徒の憩いの場であってもお前の休憩室じゃないぞ。入り浸るな」
「用が済めば出ていくさ」
明らかな嫌悪を示す光明天に対し阿修羅の顔は笑っていたが瞳の眼力は鋭い。自分より背丈があり体格を上回る相手の迫力に気圧される形で舌打ちだけ残すと居心地悪そうに光明天は保健室から立ち去った。
殺伐とした空気の中でのやり取りが終わると、やっと肩の力を抜く帝釈天は溜息を吐き阿修羅に向き直った。
「頼むから先輩の先生には礼儀正しくしてくれ阿修羅先生」
「といっても大学でも二期上だったというだけだろ」
「それにしたって何で光明天先生にだけそういう態度なんだ」
「厭に鼻につく。何故だかわからんがあいつの顔を見ると脳天から真っ二つに切り裂いて侮言ごと終わらせてやりたいような気持ちになる」
「やめてくれ……物騒な」
「冗談だ」
言い終えると席に座り直す阿修羅は先ほどの不機嫌さとは打って変わって顔が綻ぶ。
「じゃあ昼飯にするか」
用が済めば出ていくと言っていたのに、これが本当の用事だったと言わんばかりに持ってきた包みをボストンバッグから取り出す阿修羅は悠々と弁当を広げ始めた。
「また貴方は。職員室で食べればいいだろうに」
「ああ、もちろん。お前の弁当も作ってきたぞ」
「〜っ」
「食うだろ?」
「……お茶を淹れる」
反抗せずに踵を返しポットのお湯を注ぎ入れた急須から湯呑みにお茶を移す帝釈天が席に戻った頃には、相向かいに二つ同じ内容の弁当とスープジャーから器に取り分けられた汁物まで並べられていた。
「これだけ作るなら一体何時に起きているんだ貴方は。あまり無理は……」
「日課の早朝のジョギングの後で時間が余っているくらいだ。問題ない」
牛乳寒か杏仁豆腐だろうか。フルーツが添えられたデザートまである。日に日に豪華になる弁当に驚かされるばかりだった。
「お前が購買のパンを食べるからと言い張って屋敷お抱えの料理人の弁当をわざわざ断っているのは、俺の弁当を食うためだということは知っている」
こうも自信に満ちた顔で言い切られてしまっては、否定のしようがない。
距離を置かなければと毎度思っているのに。最初のうちは昼食に顔を出した阿修羅に目の前で弁当を広げられ、好物を見せつけられてお前も食うかと誘惑されたのだ。そのうち余分に弁当を用意し始めた阿修羅に毎回そこまでさせられないと断ろうとすれば、教員としては捨てるわけにもいかないからお前が要らないなら無理して二人分食うしかないなと彼は言い張った。頑としてここで食事を取ろうとするので、さすがに帝釈天も抵抗を諦めたのだった。
「降参だ。確かに貴方が作った弁当は出前の幕の内や購買のシナモンロールの遥か上をいく」
「もちろん卵焼きは甘くしておいた」
自分好みに味付けしてくれる至れり尽くせり具合に、ただ好物を並べるだけではないバランスを考えたメニュー。管理してもらっているのは一体どっちだと我に返り時々居た堪れなくなる。だが、どう抗っても美味しい。
「これほどの腕前、家庭科の先生も兼任出来るんじゃないか?阿修羅」
「栄養計算は面倒だ。野菜の廃棄率を考えるくらいなら俺は皮ごと食べることを生徒に勧める」
「ふふ。貴方らしい」
彼の細やかな気配りを持つ繊細さと男らしい豪快さを併せ持つ矛盾した性格には、つい笑顔を零してしまう。
彼の行動は大きな誤解を生みかねない罪深いものだが、美味しいものに罪はないと、そうやって今日も帝釈天は阿修羅が丹精込めて拵えたおかずを口に運ぶのだった。
「お前が美味そうに俺の作った弁当を食うのが見たいがために学校に来ているようなものだ」
優しい甘さの杏仁豆腐に顔が綻んで緩みっぱなしになっても繕えない帝釈天を、阿修羅は嬉しそうに眺めてそう言う。
「……阿修羅。それは教師に有るまじき発言だが」
「楽しく職務に従事しているのはいいことだと俺は思う。大学の時よりずっと俺は毎日が充実している」
開き直る彼に犬のような懐こい表情を向けられ、帝釈天は目眩を覚えた。
誠実で真っ直ぐな友人の笑顔が眩しい。かわいい。そして同時に胸が痛む。
けれど問題は先送りにし、今は傍に居られることの安心感と、美味しいデザートの味を噛み締めながら帝釈天は幸せな昼食を彼と共に時間をかけて楽しんだ。