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    86mayuri

    @86mayuri

    修帝。小説とたまに絵を。
    今のところ特にいかがわしいものはないけど、フォロワー限定な物は短文のお遊びとかメモ感覚で使ったり原作から離れるただのネタなのであんまり幅広く曝したくもないというだけの代物です。
    小説もここには一部の短文しか載せないので全文はpixivにまとめています。

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    86mayuri

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    pixivにまとめてある長編修帝小説の一部抜粋。追憶。唯一まともに原作軸っぽい文
    天魔×天人の王

    #修帝
    Asura x Taishakuten

    墜天の王 7 序文.

     巍々たる宮殿に据えられた王の宮室にしては広いだけで飾り気なく、無機質な部屋だと思っていた。透き通るように潔癖な白壁が温度を感じさせず、妙な違和感を与えるためだろう。
     雑念に囚われぬよう虚ろな空間に身を置きたかったのか、はたまた心此処に非ずの感情の表れか。

     天帝の臥所に無断で立ち入ることに躊躇もない風体の、言うなれば実体すら曖昧なその影は音もなく天蓋の内側に現れると、王城の主の傍らに立ち、見下ろす。

    「どうした、陛下。気分でも優れないのか」

     敢えてそう呼ぶのは昔彼を敬っていた気持ちとは別の所にあった。
     許可のない突然の拝謁に驚く様子も見せず王は顔を上げて声を投げた相手に視線を送る。元より近衛兵を呼ぶわけでもなく来訪者を迎え入れる気構えのようだ。
     せっかく旧友が正攻法ではない手段を使ってまで来てくれたのに臥せたままでは失礼だなというように身を起こすと、無意味に広々とした寝台に座り直す。

    「今日は特に。深淵に居てもお前の悩ましい声が聞こえてくる」

     苦悶に満ちた呻きが、彼の身体に埋め込まれた霊神体の欠片から僅かに流れ込み伝わってくるのは、今日が初めての話じゃなかった。

    「心配して来てくれたのか?優しいことだな。天魔様」

     乱れた呼吸と共に肩から落ちかけた襟元を軽く正しながら汗で貼り付いた前髪を掻き上げる彼を見て、男は顔を顰める。
     気丈に返すが藻掻くように身を捩ったのだろう。縒れて皺を作る敷布は波立ち、掛布は寝台から落ちそうなくらい端に追いやられていた。その痕跡は繕っても隠しようもない。

    「ああ、もしかして。私が暫く忙しくて蓮の依代を飛ばさなかったから寂しくさせてしまったかな」

     確かに気まぐれな伝送はこのところ途絶えていたが便りがないことに文句を言うのもおかしな話だ。気になることがある度に駆け付けて様子を伺うような間柄でもない。

     だが、同じ揶揄にお得意の駆け引きまで付け加え返してくる辺りに余裕ぶりが伺え、気遣ってやる必要は微塵もないなと思い直した男は嘲笑うように短く声を飛ばすと彼を見据えた。

    「随分と追い込まれているようだったからな。堪らず誰かと愉しむつもりなら、嫌がらせに邪魔でもしてやろうかと思っただけだ」

     まだ持っているのかその独占欲を。と、思われそうだがそれでいい。破棄した覚えのない所有権を主張しておかないと、この身は再会の手土産にもなれないだろうから。

     自分以外の何者かを此処へ招き入れていたらと、気が狂いそうな夜を何度独りで過ごしていたか、彼は知らない。
     気の遠くなるような長い時間を彼もまた孤独と共に過ごしただろう。耐えられず臣下を褥に迎え入れ相手をさせていたとは考えたくないが。高潔に振る舞っていても、ふと我に返れば人恋しさを切に訴えてくる質のその身体を自分が知らないわけじゃない。

     だが、小さく笑って、それは無用な心配だよ。と、彼は否定する。

    「この所ずっと、貴方の残した霊神体が中で疼いてしまって。気が変になりそうなんだ」

     気がかりがないというなら誂ってやるために来たことになるが、そうさせるつもりもないらしい。

     自分の片鱗による悪戯を牽制したいらしいが、普段は故意に操作しているはずもなかった。
     その一片は彼の力の一部を天眼の支配下に置きながらも、大掛かりな術式によって衰弱した彼の精神力を補っている。癒やす働きがあるというのにそんな疲弊した様子を見せられては体面が保たれないが。異物を取り去るために聖蓮池で粘り強く浄化しようとしていた彼を知っている自分では労ってやるような言葉を投げるわけにもいかない。

    「俺の欠片がお前に危害を加えるわけがない。そう言って懇願すれば取り出してもらえるとでも思っているのか」

     寝台に乗り上げ近付いて、戒めるために顎に手を添え顔を寄せると、それならば浅はかなことだと冷たく言い放つ。

     霊神体の幻影越しだとしても触れようとする仕草ですら堪らないのか、天人の王は瞼を細め恍惚とした表情を見せた。

    「まさか。私が阿修羅からのせっかくの贈り物を蔑ろにするわけがないだろう」

     気が変わったと掌返しを言って退ける彼の言葉に、手を下ろして訝る視線を投げてやると、代りに右手が伸ばされる。
     撫でるみたいに左頬の表面を滑って首を下り、指先が胸元を辿っていった。
     感触も曖昧で感じることも出来ない体温に虚しさが残る。影越しに見る視界だとしても傍に摺り寄られるだけで堪えきれない感情があることを相手も知っているはずだ。それなのに。

    「貴方の一部だと思うと熱くて堪らなくなってしまうのは、本当なんだ」

     ゆっくり手を離すと視線を外さないまま敷妙の枕を背もたれに彼は寄りかかった。
     脚を投げ出すと羽織って寄せただけの夜着から透き通る素肌が覗く。薄闇のあわいに溶け込むことすらない白さが際立って、仄明るく感じるくらいに主張をやめない躰は罠そのもの。

    「ほら、こんな風に熱が這い回って……貴方に触れられていた時のことを思い出してしまう」

     言いながら傾けた細い首に己の手を緩く這わせ、それを見せつける。片手がなだらかな胸を滑り下り腹部を辿って、もう一方の手の指先は腿をゆっくり撫でていった。
     だが、より際どい位置まできてその動きが止まる。浮かされたような顔をしているが、読めるはずのないその心を、それでも透かして向こう側を覗くような眼でこちらを一心に見つめていた。
     匂いを知ることが出来ずともわかる。彼は今、あからさまな芳香を漂わせているに違いない。貪った記憶をどうしても思い出させたいのか、褥に誘い入れようとする計謀だとしても視線を反らせるはずもなかった。……だが。

     本当に自分を想って一人火照る身体を夜な夜な慰めているのだとしたらいじらしいが、お前に触れるその指にまで嫉妬して噛み付いてしまいそうだ。などと、軽い戯言を投げる気にも、今はなれない。

    「ちゃんと見えているか?阿修羅……」

     彼の表情と仕草を目の当たりにし、その皮膚の質感を記憶している掌が震え、一瞬、反応を示してしまうそれを止めさせたくて、拳を握った。
     燭光に惑わされた灯蛾に成り下がり、何も考えず彼の中に堕ちてしまえたならどんなに最高の気分を味わえるだろう。それを、よく知っていたとしても。

     こんなに近くに見えているのに、触れ合えない。このもどかしさすら再会の日を尊ぶための糧としようか。と、そう訴えかけてくるみたいに、まざまざと押し付けられる囮。

     飢えた男だからそうやって情慾を掻き立てておけば簡単に惑わされてくれるだろうとでも思っているのではないか。
     そんな彼の持つ感情と、自分が抱える重いものとの隔たりに、交われないままの身体よりも胸の内がより強く痛んだ。

     半透明ながらに素肌を隠し彼の秘密を暴かせない天蓋に苛立ちをぶつけることもせず、少しの風を生んでそっとそれを靡かせただけだった。緩く笑む彼を臥所に残し、黒い霊神体の影は闇夜に溶け込み、静かに拡がり飛散する。

     天人の王が最後に投げかけた、その言葉と共に。




     体躯に呼び戻した意識を定着させると、阿修羅はゆっくりと瞼を開ける。
     眼前に広がるのは灼熱に焼かれ紅々と燃ゆる大地。地表を焦がさんと這い出る炎が企む様子を見せているその裂け目とは裏腹に、心はこんなにも冷たい青い火に苛まれていた。

     帝釈天の居所へと意識を飛ばすための媒体とした蓮華の幻影を緩く握って散らし、元より鋭い目尻を更に尖らせ眉根を寄せる。

     積み上げた骸を仮睡の寝床としていたがその場から立ち上がろうと動き出す主に気付き、見張りとして傍らに控えていた半人半鳥の部下が急ぎ背筋を正すと王を仰ぎ見、薙刀の柄の先を地面に立てた。この深淵の王には万に一つも隙などなく不要な守護であったが、迦楼羅も立場を弁えざるおえない。

    「狩りを再開する」

     怒気を帯びた声が低くその言葉を発するだけで、どろどろと融解し畝る地底ですら一瞬震え上がり静止したように思える。

     阿修羅は己に架せられた封印を破るため、霊神体を自壊させた衝撃で結界を打ち破り、深淵での自由を得た。
     代わりに霊神体そのものを失い彼は無力になってしまったかに思えたが。力を貪ろうと群がる悪鬼たちに敢えて喰わせていた霊神体の欠片が敵の体内を掌握し、内部から切り裂き顕現する骨鞭が罪の証を持つ者たちを次々と屠っていった。
     自分の中に再び舞い戻り、己の刃となるはずの欠片を探すため動く阿修羅が踏み出した第一歩に、運悪く居合わせた迦楼羅は服従の道を選ぶより他なく、彼の宿願の達成を見届ける役回りを負い、傍に仕えている。

     再生と共に着実にかつての力以上のものを構築していく彼の凄烈たる気迫に、籠の鳥も逃げ出すことをとうに諦めていた。露払いに徹するつもりでいる部下は了承の意で短く声を発すると、両翼を広げ立ち上がる。

     魔王の造り出す屍山血河の惨状に凍り付き、今宵の灼熱の地も彼の脅威に押し負けそうだと思う部下は薙刀を一振りしてから持ち直すと、少し後ろからそんな恐ろしい主の後を翼の浮力で飛びながら付いて行くのだった。




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