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    C7lE1o

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    勢いで書き始めたからか今年で一番なにが言いたいのかわからない文ができあがったよお!!!!!!

    #弓茨

    似ているようで明らかに違う種の嫌悪感を浴び、それでもお構いなしに歩を進めた。

    「こんなところにいたのですね。〇〇様がお探しでしたよ」

    嘘である。
    茨が無碍にできないということはそれなりの地位を持つものなのだろうと判断し、局の所謂「お偉いさん」の名前を出した。
    なんでも無い風に、だがその吐き気がする醜穢な眼差しと長々と対峙するつもりも毛頭ない。
    茨の身体に蔓のように絡みつく腕を素早く取り去った。

    茨の返事も待たずに腕を掴み踵を返す。

    「おい、まだ話が......」

    男の粘着質な声が鼓膜に広がる。
    不愉快だと思うと同時に、初対面のはずのこの男のなにがそんなに気に入らないのかを私はまだよく理解していなかった。

    汚らわしい。

    ありったけの憎悪を込めて睨みるけると、男は情けない顔をして怯んだように口をつぐんだ。

    今のうちだと茨の腕を掴んだまま廊下を駆け出す。
    後ろから茨の文句が聞こえてきたがお構いなしに走り続けた。
    行く宛なんてあるはずもなかった。



    「いい加減にしてください!!いきなり腕を掴んできたかと思えば何も話さずにこんなところまで連れてきて!だいたい自分話の途中だったんですが!?」

    怒鳴り声と共にグン、と後ろに強く引っ張られて足を止めた。

    気がつくと普段あまり使われることのない、奥まったところにある資料室の前まで来てしまっていたらしい。

    ここには自分と、茨しかいない。

    互いの呼吸の音しか聞こえない空間で、
    脳裏に浮かんだのは先程の男の顔。
    あの男が聞くに堪えない噂の持ち主だったとたった今思い至った。
    何故もっと早く、それこそ顔を見た瞬間に思い出さなかったのかとも思ったが、それでも自分の危機察知能力が警鐘を鳴らしたおかげで......。


    「......なぜ」

    考えがまとまるより先に感情が言葉になってこぼれ落ちる。

    「何故、振り払わなかったのですか。あなたならあの程度の男、どうとでもなるでしょうに」


    そう。腕をひねり上げるなりしてさっさと逃げればよっかったのだ。それなのにどうして......。


    「……さっきの男、アレは△△局でそれなりの力を持つ男です。自分の局の番組の出演者に口出しする事なんて造作もない。
    クソみたいな中身してますが、地位も権力もある。それくらいのこと、アンタだって知ってるでしょう」


    それはそう、なのだが。

    茨の言うことに間違いはない。仕事の付き合いがあるのだから、無碍にもできないだろう。

    だがそれでも。
    茨なら、もっとうまくやることができると思っていた。
    恐れるものは何も無いとばかりに......。

    そこまで考えてはたと、目の前の茨と、自分の中の茨に大きな溝があることに気がついた。

    もっとうまくやれる?
    もちろんやれるだろう。相手にどれだけ力があろうとお構いなしにつっかかっていけばいいだけだ。
    だがそれは身一つ、失うものがない場合の話で。


    「……どうやら、余計な『ご心配』をおかけしたようですね?教官殿に情けをかけられるとは、自分もまだまだであります」

    先程の怒鳴り声とは比べ物にならないほど静かに、茨が言った。
    ハッと顔を上げると茨はぎゅ、と口を真一文字に結び瞳もまっすぐに私を見つめていた。

    ああ、そんな顔をさせたかったわけではないのに。

    この子にはもう守るべきものがある。
    知っていたのに、わかっていたのに。

    何故今になって手を出そうと思ったのか自分でも理解できない。
    それでも、自分自身理解し難い感情に身を預けた結果、この子を傷つけてしまった事だけは確かで。
    その事実が感情と混ざり合い、熱を孕みながら私の心の奥底に沈み込んでゆく。
    黙ってこちらを見つめる茨の顔が、何故か時施設にいた頃一度だけ見た茨の泣き顔と重なって見えた。


    「......泣いてませんけど」

    不機嫌そうに言われて、自分が無意識に茨の目元に手を伸ばしていたことに気づいて、そのままそうっと右手の人差し指で目尻を拭ってみる。
    一瞬混乱したようだが、すぐにぞんざいにはねのけられてしまった。
    当然、指先は乾いたままだった。


    「......予定がありますので。失礼したします」

    言い終わる前に私に背を向けて歩き出す。

    遠ざかる茨を引き止める術などあるはずもなく、仮に引き止める方法があったとしても彼を引き止める資格が自分に無いことは分かっていた。

    今しがたわずかに茨に触れた指先を、そっと喰んでみる。
    心に焼きつき、くすぶっていた感情が炎となって全身に広がるような感覚に襲われた。

    この身を焦がす炎の中、今まさに産声をあげんとする
    感情を胸に目を閉じた。






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