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    kotemari200723

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    kotemari200723

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    9月新刊「雨降ってさくら散る」 サンプル
    A5/64ページ/600円(予定)/すおさく

    🫖は🌸へ向けて密かに思いを寄せていた。🌸に好きな人がいると知り、寂しさや切なさ、苦しさを抱いていた時、一本の電話が🫖に届く。
    ────🌸が記憶喪失になりました
    記憶喪失の🌸とそんな🌸の事も好きな🫖による、すおさく小説本

    #すおさく
    poorCrop
    #WB腐
    #GOODCOMICCITY30
    #ボウフウケーホー!
    #サンプル用
    forSample

    雨降ってさくら散る サンプルプロローグ.雨粒の弾ける音

     ざぁざぁ、と、屋根に打つ雨音が響く。窓を叩く雨粒がぱちりと弾けて、雨が一本の筋になって重力に従い落ちていった。
     カチカチ、と、時計の指針が動く音がする。目の前にいることははぼんやりと外を眺めたあと、手元にあるコップに視線を戻して、布巾できゅっきゅっと心地よい音を鳴らしながら拭き始めた。
    「朝テレビで言ってたけど、今日はずっと雨だって」
    「そうらしいですね」
     カップをソーサーから持ち上げて、片手で持つ。中を覗いてみれば、オレンジ味が強い赤い紅茶が揺れた。
     ─────ねぇ、好きな子いる?
     雨が一日中降る教室の中、切なげな表情で窓の外を見る桜にふと聞いてみた。桜はすっかりと黙り込み、何も言わない。が、こちらに顔を向けた時、その表情が答えを物語っていた。
    「今日は桜や楡井といないのね」
    「えぇ、まぁ」
    「喧嘩?」
    「ははっ、しないですよ。そんな幼稚なこと。」
     ことはに告げたあと、ふと笑う。今の自分がしていることは、喧嘩よりも幼稚だ。
     
     好きな人に好きな人がいた。
     
     有り得ることだった。なのにそれに酷くショックを受けたのは、紛れもない自分の考えの浅はかさが原因だ。聞く前に心構えもしてないのに聞いたのがいけなかった。
     ふと、小さなため息をついた時だった。カウンターの上に置いていたスマホが、ぶるりと震える。珍しいことに電話だ。周りにも客はいないため、一言ことはに断りを入れて出た。
    「もしもし、にれ君?」
    「す、蘇枋……さん。あの……動揺せずに聞いてください。」
    「……何かな。」
     楡井の息が、電話越しに聞こえる。震えた声に紛れて、鼻をすするような音がする。
    「……桜、さんが……鉄バットで、頭、殴られて……意識不明にっ」
     ゴトリ、と。スマホがカウンターに落ちる。楡井が電話越しにまだ話しているが、全く蘇枋の耳には届かなかった。
     目の前のことはがぎょっとした様な顔でこちらを見る。「ちょっと、蘇枋!?」と心配する声がノイズに紛れてくぐもって聞こえた。
     雨粒が窓を叩く。蘇枋に雨は降り注いでいないのに、体が震えて凍えた。
     先程よりも強く、酷く、雨が打ち付ける。しばらく雨は止みそうになかった。

    ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
    1.春待つつぼみ

     風が春を誘うように、穏やかに吹く。甘やかで落ち着いた緑を感じる匂いが、鼻をくすぐった。
     もう時期二年になる予定の一年一組の教室は、どこか浮き立っている。普通なら「二年生になるのだから落ち着きなさい。」と言うであろう先生達も、理由を知ってか何も言わない。
     蘇枋はクラスメイトの様子を教室の片隅で眺めながら、壁に背をつけて腕を組む。楡井は見るからに緊張しているようで、あの柘浦もどこか上の空、桐生とていつもよりは表情が硬かった。
     (……まぁオレも……みんなからはそう見えてるのかな。)
     心の中でクラスメイトを眺めて分析をし、冷静に装った風に見せかける。だが本当は、誰よりも緊張していたし、いつもよりも心がここにあらずという状況だった。
     ガラリ。教室の扉が、少しだけ遠慮がちに開けられる。顔を覗かせた特徴ある髪色と瞳の色をした男が、クラスメイト達の視線を真に浴びて少したじろぐ。
    「お、おはようございます! 桜さん!」
     こちらにまで緊張が伝わる楡井が、入ってきた我らが級長────桜遥に声をかける。桜はビクリと肩を震わせて、近づいた楡井に一歩後ずさった。
    「……おはよう、ございます。に、楡井くん。」
     控えめな声と、落ち着いた言葉遣い。そして、少し脅えながらも笑った彼。桜のいつもとはかけ離れたその姿に、蘇枋は組んでいた腕を握る手に力を込めた。
     桜の言葉にショックを覚えたのは、何も蘇枋だけではない。クラスメイトも石のように固まっていた。どこか夢のような出来事だったそれが、現実味を一気に帯びていくのが分かる。
    「っ、はい! あ、でも、俺のことは楡井って呼んでくださいって言ってるじゃないですかぁ! 敬語もいらないですからね!」
    「に、楡井……。」
    「はい!」
     桜がたどたどしく楡井の名を呼べば、楡井はニッコリと笑う。だが、いつもの笑顔とは少し変わって見えて、どこかその表情には雲が差しているような気もした。
     桜が鉄バットで殴られたと連絡を受けたのは、二週間前。すぐに駆けつけようと思ったその時、彼は意外にも早く目覚めたのだ。疲れたであろう彼を労り、本当は今すぐにでも会いに行きたい衝動を何とか抑え、明日会いに行こうと決めたその日の夜、再び楡井から連絡を受けた。
     ────桜さんが、記憶喪失になりました
     何の冗談を、と、思った。楡井に「それ以上変なこと言ったら怒るよ。」とも言ってやりたかったが、それは現実から目を背けた行動であるのを蘇枋だって理解している。何より、今一番辛いのは楡井のはずだと、瞬時に考え直したのだ。
     楡井の声はあまりにも沈んでいて静かだった。しまいには先程のように鼻をすする音が聞こえて、泣き出してしまう始末である。小さく弱音を吐き出すように呟いた言葉は、蘇枋の心臓を握り潰すように痛めつけた。
    「桜さんに……「誰ですか。」って、言われちゃいました……。」
     桜が目覚めたと知った時、すっかり忘れてしまったあの声を思い出す。忘れたはずの楡井の泣き声が、また蘇枋を襲いかかった。懐かしい感覚になるも、まだ数時間程度しか経ってないことに驚きが隠せられなかった。
     神様は面白がっている。人間を一喜一憂させて、天国を見せたと思ったら急に地獄へと叩きつけて。本当に最低である。でも、そんなふうに考えているから、一向に神様は自分の味方をしないのだろうとも思った。
     それから、彼が退院するまでの二週間。見舞いに行ったのは、クラスメイトの中で楡井だけだった。
     何も皆、桜が嫌いな訳では無い。むしろ、桜の事は大好きだ。蘇枋とは違って恋としてではなくとも、皆が彼を好いていて、彼が居ないクラスは有り得ないとさえ思っている。だからこそ、そんな大好きで憧れている桜に「誰ですか。」と言われたくない。楡井のようには立ち直れないし、そこまで強くもないと、クラスメイトは桜のいない教室で呟いていた。
    「……」
     次は誰が話しかけるのか。そう言いたげな視線と、重たい雰囲気が一年一組を包み込む。目の前の桜もそれを感じ取っているのか、瞳から光が無くなるように瞳を伏せた。
     (桜くんとは、違うのに……。)
     桜と、今の彼とは別だ。彼は桜であって桜じゃない。その結論は、この一週間考え抜いた末に出ている。
     なのにどうしてだろう。桜と同じ顔をした別人なのに、彼が悲しそうな顔を浮かべるとこっちまで悲しくなる。
    「桜くん。」
     声をかけようとは思っていなかった。好きな人に、否、好きな人に似た別のダレカに「誰ですか」と言われたくはなかったはずだ。
     でも気づけば喉元からするりと声は出ていた。それまで目が一つも合わなかった彼とようやく視線が交差する。まるで星々が輝いて煌めく、夜空のような綺麗な瞳。何度彼と見つめあっても、心臓は慣れることなく高なってしまう。
     そして思い知らされる。彼が桜遥だと、その瞳から訴えかけられた。
    「……え、っと……す、す、おう、くん?」
    「……え?」
     どうして、名前を知っているのか。まさか記憶が戻ったのかと、一瞬心が浮かび上がる。しかしすぐにそれも違うと分かった。
     普段の彼は自分のことをくん付けなんてしないから。
    「桜さん、皆さんの顔と名前を頑張って覚えたんですよね! 一週間の成果です!」
    「そっか、なるほどねぇ。」
     今の桜は覚えることが苦手では無いのだろうか。今の彼と記憶を失う前の彼、大きな違いは記憶の有無以外にも何かあるのか。
     黙々と考え込んでいたが、ハッとして首をふるりと左右に横に振る。そんなこと考えたところで、自分の好きな彼では無いのだ。
     ふっと小さく息を吐いて教室の天井を仰ぐ。真っ白な天井が続いているのをじっくりと眺めて、桜へと視線を移した。
    「桜くんは皆のこと、呼び捨てで呼んでたよ。あと、敬語も使ってない。」
    「は、はやと?」
     上目遣いで戸惑いがちなオッドアイが、蘇枋を映し出してゆらりと揺れる。こくりと首を傾げた彼の髪が、くすぐったそうに彼の額にかかった。
    「っ……」
     やはり彼は彼で、記憶を失っても桜は桜だ。純粋無垢な暗闇をひとつも知らないような眩い瞳が、蘇枋を射る。唐突な名前呼びに心臓が一つ飛び跳ねた。
     ────どうしようもなく、桜くんが好き。
     心に訴えかける、春の陽だまりのように温かな君が。眩い真っ直ぐな瞳を持つ君が。美しい微笑みを浮かべる君が。
     冬が終わって雪が溶けて、春が舞い込む。彼の名前と同じ、さくらの美しい季節がやってくる。春と言えば、花と言えば、さくら。美しく咲き誇る、満開のさくらを思い浮かべる者も居れば、七分咲きのさくらを思い浮かべる者、散りゆくさくらを思い浮かべる者もいる。だが一貫して言えるのは、どのさくらもきっと美しい。
     そして目の前の桜も、さくらの花に負けないくらいに美しい。揺れ動くさくらの木々の隙間から差し込む、春の木漏れ日。それに似合う、あの咲き誇るような微笑みが麗しく美しい。
     桜遥は美しい。そして、どんな桜遥も蘇枋は結局愛してしまう。
    「……隼飛とは、呼ばれなかったよ。苗字で呼ばれてた、蘇枋って。」
    「そうなんですか……あ、いや、そ、そう、なんだ?」
     桜がハッとした顔をして言い直す。記憶を失う前の桜は敬語なんて一切使わなかったが、どうやら桜の心の中には一応敬語という概念は存在していたらしい。
     無理に直した敬語がたどたどしく聞こえる。これは元々の桜が敬語を使い慣れてない影響からきたものか、それとも蘇枋と話すことに慣れていないため何とか絞り出した敬語だからなのか。どちらにせよ、桜は緊張している。普段緊張とは無縁の彼の新たな一面を見て、少しだけ胸がときめいた。
     だがときめきで、動きや考えを止めている暇は無い。怖がっている桜を皆に慣らす必要がある。このクラスに馴染ませるのが、今第一にするべきことだ。
    「桜くん、まずこのクラスに慣れることから始めよう。みんな優しいから大丈夫。」
    「……分かった。あり、がとう。」
    「うん。あ、所で桜くん、君喧嘩は出来るの?」
     記憶を失ったら、今までの桜が出来なかったことが出来るようになった。
     敬語を使えるようになったこと、相手に対して緊張感を抱くこと、気まずさを感じるようになったこと。
     なら逆に、出来ることが出来なくなることもあるはずだ。その可能性が百パーセントとは言えないが、比較的高いはずである。
    「けん、か……?」
    「にれ君、桜くんに風鈴の説明はしてない?」
    「クラスメイトのことをまず覚えてもらおうかと思って、まだちゃんとした説明はしてないんです。このクラスの級長が桜さんであること、俺と蘇枋さんが副級長であることは話したんですけど……。」
     級長、副級長という物がクラスの中心であることは想像出来るかもしれないが、今の桜にとって風鈴はきっと異質な空間になる。授業もあるが大きな喧嘩があれば、学校を休んでも文句は言われない。たとえば獅子頭連との喧嘩はそれを筆頭する出来事だ。あとは、部活動というものがない代わりに、街の見回りはある。言わばボランティアに近いが、今の桜にはよく分からないだろう。
     ここは、普通の高校とは違いすぎる。記憶を失った桜が受け止められるかは分からない。
    「……桜くん、まずこの高校はね、町を守る高校なんだ。時には相手に対して暴力を奮って、大きな喧嘩をしたりしてる。君は今、喧嘩が出来るかな?」
    「……暴力、って、ことは、相手を殴るってこと?」
    「まぁそうだね。分かり合えない人とは⋯⋯そうなるかな。」
     桜の顔が一気に強ばる。自身の拳を開いては閉じてを繰り返し、じっとその手を眺めていた。
     (そうだよね。普通は怖いことだよね、相手を殴るなんて……。)
     自分が相手を傷つける。自分の持っている拳、腕、足、自分自身が全て武器だ。
     痛いことはやりたくない。相手を痛めつけて傷つけることは、もっと嫌だ。きっとそれが、正しい人間の本能である。
     ふと、蘇枋の脳裏に過ぎる一つの考え。さくらの花びらが風に舞って目の前を通るように、考えがふわりと蘇枋の頭を通り過ぎた。
     ────彼はまたもう一度、この生活に戻りたいと思うのか
     普通なら。普通の人間なら、きっとこんな生活を送りたいとは思わない。
     そこらにある至って普通の高校に通って、部活をして、青春を送って。桜だって頭の片隅ではきっと考えていたはずだ。ただ当たり前の日々を送りたい、と。
    「……俺は、殴ってた?」
     震える指先が、ギュッと強く拳の形を作る。左右非対称の色をした瞳が揺らめいて、ハッキリと自分自身を視界に捉えた。
     桜の瞳に映る自分は、心に秘めた思いを言いづらそうにしていた。このままだと桜に不安な想いをさせてしまうと分かる表情である。
     何とか口角を持ち上げて、桜の顔を覗き込む。目を瞬かせる桜の瞳をじっと見つめて、柔らかく安心させるように微笑んでみせた。
    「君は町を守るために喧嘩をしてた。そこに快楽は求めてないよ。だから、そんな顔しないで大丈夫だよ。」
    「……でも俺は……今の俺はきっと、殴れない。」
    「……」
    「蘇枋も、楡井、も……それから、他の人たちにだって、迷惑かける……。級長ってことは、強いし偉いし、多分クラスの中心みたいな人間……だろうし。今の俺には、そんなの出来ない。」
     桜がへらりと眉を下げて、悲しそうに笑う。諦めたような、それでいて自分自身を否定するような笑みだった。
     桜が白色の前髪をそっと払うように、耳にかける。白髪を見たくないというのが伝わるような、そんな目線で自身の髪を忌々しげに見つめていた。
    「俺には、喧嘩も級長も出来ないよ。」
     今の桜はきっと、風鈴生として町を守って戦う自分自身の姿が見えていない。その頃の自分に戻りたくもないと、蘇芳色の瞳には桜の姿がそう映って見えた。
    ⋯⋯
    ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
    サンプルは以上になります。
    続きは新刊にてお読みください。
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     カチカチ、と、時計の指針が動く音がする。目の前にいることははぼんやりと外を眺めたあと、手元にあるコップに視線を戻して、布巾できゅっきゅっと心地よい音を鳴らしながら拭き始めた。
    「朝テレビで言ってたけど、今日はずっと雨だって」
    「そうらしいですね」
     カップをソーサーから持ち上げて、片手で持つ。中を覗いてみれば、オレンジ味が強い赤い紅茶が揺れた。
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