パパとママが仲良しで嬉しい!byニャース昼飯時の事。ニャー、ニャーと飯を催促するニャース達をなだめながら飯の用意をしていると、ふと違和感を覚えた。
(...ん、なんか1匹いねぇな?)
確認のため、ひぃ、ふぅ、みぃ、とニャース達を数えるとやはり1匹いなかった。大抵は飯時になると全員揃うのだが。
(まだ、どっかでほっつき歩いてんのかねぇ...。後で探してみるとするか)
そう思っていると、入り口の方からハンサムの声が聞こえた。
「クチナシ、少し邪魔するぞ」
「おう、テメーか。ちょっと...!?」
ここに来る途中ニャースを見掛けなかったか、とハンサムに聞こうとして振り向いた瞬間、俺は言葉が止まった。ハンサムがニャースを抱き上げていたのだ。
「この仔、ここのニャースだろ?」
「そうだけどよ、何処で見つけたんだ? 帰って来ねぇから、探しに行くところだったんだよ」
「そうだったのか。場所ならウラウラの花園だよ」
「あぁ、あそこかぁ...」
日向ぼっこでもしてたのか、と思っているとハンサムがとんでもない発言を口にした。
「実はこの仔、花園でアブリボンに襲われ掛けていたんだ」
「はぁ!?どういうことだよ!?」
俺が疑問を口にすると、ハンサムが事の顛末を説明してくれた。
交番に向かう途中、ハンサムは花園でニャースが何かに飛び付いているのを見かけた。よく見てみるとその何かはアブリボンで、ニャースが悪戯でアブリボンの蜜集めを邪魔していたのだった。
ハンサムはニャースのところに向かい悪戯を止めさせようとしたが、その前にアブリボンが怒ってしまいニャースに攻撃を仕掛けた。運良く外れたもののニャースは驚いて尻餅をついてしまい、その隙にアブリボンが再び攻撃しようとしていた。
慌ててハンサムが2匹の間に割って入り、何とかアブリボンを宥めたので事なきを得た。念のためポケモンセンターに寄ったがニャースに怪我はなかった、とのことだった。
(何してんだよ、ニャース...。寄りにも寄ってアブリボンに悪戯するとはなぁ...)
ハンサムからの説明に思わずため息が出た。まさか、ニャースが自らの悪戯のせいで危険な目に遭い掛けていたとは、考えてもみなかった。
「何から何まですまなかったな...。ニャースを助けてくれてありがとよ」
「あぁ、礼には及ばないよ。それに難しいとは思うが、気に病まないでくれ」
俺の落ち込みようが凄かったのか、ハンサムが慰めの言葉を掛けてきた。その言葉によけいに申し訳なさを感じ、ニャースを睨み付け低い声で言った。
「...後でお前には灸を据えとかねぇと、なぁ」
「みぃ...」
俺の表情からこの後自分の身に降りかかる事を理解したようで、ニャースはとてもか細い声で鳴いた。恐怖によってその顔も強張っていた。
すると、ハンサムがニャースを庇うようなことを口を出してきた。
「なぁ、クチナシ。出来ればニャースにお灸を据えるのは止めてあげて欲しいんだ」
「...何でだよ」
俺が疑問を呈すると、ハンサムは続けてこう答えた。
「既に私の方でニャースを叱ったんだ。ちゃんとニャースも反省していたし、お前からは注意程度に留めてくれないか?」
俺に対して諭すように発言した後、ハンサムはニャースの方に顔を向け穏やかな声でこう言った。
「なぁ、ニャース。反省したもんな」
「みゃおん」
ニャースは甘えたような声で鳴いた。ハンサムの声音に安心したのか顔の強張りもすっかり解けていた。
ハンサムとニャースのやり取りを見て、俺は自分の中の罪悪感や怒りが吹き飛んでしまった。
「...分かったよ。言い聞かせる程度にしとくわ」
「ああ!そうしてくれると有難いよ」
嬉しそうにハンサムがそう言った瞬間だった。
グゥーっと大きな音がニャースの方から聞こえた。忘れかけていたが今は昼飯時だ、腹の虫でも鳴いたのだろう。あまりのタイミングに俺達は吹き出してしまった。
「ふふっ。この仔、お腹が空いたみたいだな」
「くくっ。もう昼飯の用意は出来てるぞ、ニャース」
昼飯の入った皿を足元に置くと、ニャースはハンサムの腕から昼飯目がけて器用に飛び降り、そのまま食べ始めた。
「いい食べっぷりだ。余程お腹が空いていたんだな」
「だろうな。いつもより昼飯の時間が遅えからよ」
そう言った後ハンサムの方を見ると、こいつは愛おしそうにニャースを見ていた。まるで自分の子どもを見ている母親のように。
長い付き合いだか、こんなにも優しい表情をしているハンサムを見るのは初めてだった。ついその表情に見とれていると、ハンサムの声が聞こえた。
「どうした、クチナシ? 私の顔なんか見つめて...?」
こいつの疑問はもっともなので、馬鹿正直に答えてやった。
「お前がニャースを見ているときの表情がな、あんまりにも優しそうでよぉ。つい、見とれてたんだ」
「みっ、見とれていただと!?」
ハンサムの頬はみるみると赤く染まっていった。照れているのが明白だっだ。
「あぁ。それに子どもを見てる時の母親のようにも見えたなぁ」
「せっせめて、父親と言ってくれ!俺は男だ!」
「くくっ、分かったよ」
俺がそう言い終わると「みゃあ!」という嬉しそうなニャースの鳴き声が聞こえた。ニャースの方を見ると、にっこりとした笑顔で俺達を見ていた。昼飯を既に平らげたようで、たんまりと入っていた皿は空になっている。
「ふふっ、いい笑顔だ。ご飯がおいしかったんだな」
ハンサムはそう言って、ニャースの頭を撫でた。ニャースも頭を撫でられて嬉しそうにしている。
あぁ、幸せだ。俺はそう思いながら1人と1匹の様子を見つめていたのだった。