どうだ!羨ましいだろ!本日は数ヵ月ぶりの休み。何事にも邪魔をされず自室のベットで惰眠を貪れる筈だった。
しかし今、俺は自室のベットではなく本部の倉庫にいる。「倉庫の片付けをしろ。暇だからいいだろ」と、アホ上司の命令で片付けをする羽目になったからだ。
「はぁぁぁ...。何で貴重な休日を返上してまで、片付けなんぞしなけりゃいけねぇんだよ....」
「仕方ない、上からの命令だ」
俺が愚痴を言うと、No.836がすました顔で諭してきやがった。こいつも俺と同じく休みであったにも関わらず倉庫の片付けをさせられている筈なのだが。
「テメーだって休みだったんだろ。嫌じゃねぇのかよ」
俺がそう言うと、No.836はきょとんとした顔でこう答えてきた。
「いや、全く。常々ここの片付けをしなければと思っていたからな、むしろ好都合だ」
「はぁ!?マジで言ってんのか、それ...」
No.836の答えに俺は思わずドン引きした。仕事人間だとはつくづく思っていたが、まさかここまでとは...。
「ほら、早く手を動かせ。貴重な休みがどんどん過ぎていくぞ」
ドン引きした俺を見てNo.836は呆れたように言い放つと、黙々と片付けをし始めた。
少しでも寝る時間を確保するため、俺もNo.836に続き片付けをパパッと終わらせようとした。
しかしNo.836の奴、俺のやり方にいちいちケチを付けてきやがった。
「こんなぐちゃぐちゃに入れたらダメだろ!」やら「もっと丁寧に扱え!」やら滅茶苦茶うるさい。
しかも、ケチをつけるだけなら未だしも「ほら、やり直せ!」とやり直させてくる。そのせいで、何時まで経っても片付けが終わらない。
溜まっていた鬱憤が吹き出し、俺の堪忍袋の緒はブチ切れた。
「だぁぁぁ!いちいちうるせぇんだよ、テメー!
ちんたらやってたら終わんねぇだろ!」
「お前がちゃんとやらないのが悪いのだろう!」
「あ"あ"っ!?片付けなんて適当にパパっとやりゃいいだろが!」
「良くない!だいたい、お前はいつも」
十中八九No.836が俺の悪口を言い出そうとした時だった。あいつのスーツのポケットから急にグレッグルが飛び出し、俺達の間に割って入ったきたのだ。
突然のことにお互いに唖然として、先程までの口論はピタリと止んだ。
少し間を置いて、はっと我に返ったNo.836がグレッグルにこう訳を尋ねた。
「どうしたんだ、グレッグル。急に出てきたりして...?」
No.836の問いかけに対し、グレッグルは荷物を運ぶような仕草をした。
その仕草にNo.836は「ううむ...?」と首をかしげた。が、直ぐに「ああっ!」と閃いたような表情でグレッグルにこう問いかけた。
「もしかして...、片付けの手伝いをしようとしてくれたのかい」
No.836の問いかけにグレッグルは「グー!」と笑顔で鳴いた。どうやら正解だったらしい。
「そうか!ならばよろしく頼むぞ、グレッグル!」
「ググー!」
「という訳だ、No.000。グレッグルが手伝ってくれるからお前は帰っていいぞ」
己の手持ちの献身さに癒されたのか、No.836は俺の方を向いて気前よく言ってきた。
普段の俺なら有り難く帰らせて貰うとこだが、今回はそうもいかない。何故なら、グレッグルが小馬鹿にするような笑顔で俺を見ているからだ。
あいつは俺のことが気に入らないようで、俺が何かやらかす度ニヤニヤと笑ってくる。しかも、必ずNo.836から見えないところでやるのでタチが悪い。
そのため、俺はNo.836にこう言ってやったのだ。
「...文句ばっか言って悪かった。だから最後までやらさせてくれ」
俺の発言にNo.836は一瞬眼を見開いて驚いたが、嬉しそうな顔になってこう言った。
「そうか!ならよろしく頼む。それに、俺の方もすまなかった。きつく言いすぎたな...」
「いいってことよ。じゃあ、片付けの続き始めっぞ」
「ああ!」
俺が片付けに意欲を見せたことが嬉しかったのか、No.836は鼻唄を歌いながら片付けを再開した。
すると、グレッグルが主人に気づかれないよう俺を恨めしそうに睨んできた。
俺はいつもグレッグルにやられているニヤニヤとした笑みで奴を見つめてやった。
それから、片付けを再開して一時間程で、倉庫は綺麗に片付いた。グレッグルが俺に対抗して、てきぱきと作業したことで非常に早く終わったのだ。
「ありがとう、グレッグル!君のお陰で早く終わったよ」
No.836は御礼を言った後、グレッグルの頭を撫でた。グレッグルは嬉しそうに「ぐー」と鳴き、眼を細めて気持ち良さそうにしている。
(微笑ましいねぇ...)
そう思いながら、この1人と1匹のやり取りを見ている時だった。
ふいにグレッグルが俺の方に顔を向けてくると、勝ち誇った顔で見つめてきたのだ。
おまけに「ケッ!」と鳴いて、挑発するように頬袋を何度もぷくぷくと膨らませてきやがる。
腹が立ったのでその頬袋を潰してやろうかと思ったが、直ぐに思い留まった。
グレッグルの頬袋には毒が含まれているため、安易に触ればこちらの手が大惨事になる。
(くそっ!覚えてろよ、クソガキ!)
そういう思いを込めながら、俺はグレッグルを睨みつけることしか出来なかったのであった。