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    nnsit75

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    nnsit75

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    学パロ💛💜 舞台は日本 捏造過多

    #mafiyami

    「ルカ、また明日」
    「シュウ!また明日!!」
     今日も授業が終わり、俺たちは談笑をしながら教室を出る。周りのみんなはそのまま一緒に校外へ出て行くけど、俺たちは下駄箱で足を止めて別れの挨拶をする。そのまま真逆にある校門へとそれぞれ歩いていく。
     本当はもっと一緒にいたいし一緒に帰りたいけれどしょうがない。
     俺たちは家が真逆にあるし、お互い習い事や塾や家業などで寄り道をする余裕もないんだ。
     それでも少しでも長く話していようと下駄箱までは一緒に帰るほど俺たちは仲がいい。

     始業式が終わり、まばらに帰る人達の中で校舎の1番近くにある桜の木の下で綺麗に咲くそれを見上げているシュウを見かけて、やけに気になって声をかけたのが俺たちの始まり。
     そこから趣味の話からくだらない話まで何かとウマがあって一気に仲良くなった。
     休み時間はわからなかったところを教えあったり、雑談したり、昼休みは一緒にご飯を食べる。体育祭だってぐちゃぐちゃになった閲覧席の中でずっと隣にいて俺たちのクラスが勝った時には一緒に盛り上がった。
     出会ってまだ3ヶ月だけれど俺たちは親友と言っても問題ないぐらいには仲良くなった。

     それなのに学校の外で会うことはない。
     休日に外出してもお互いの家は真逆にあるため意識して向かわない限り偶然会うことなんてない。もちろん連絡先を交換してチャットや通話をしてはいるけど、俺はシュウと色んなところへ遊びに行きたいし、きっとシュウもそう思ってくれているはずだ。

     でももうすぐ夏休みがやってくる。小学生から何度も経験した長期休みだし元々大好きだけど、今年は今までにないぐらい楽しみにしている。
     だってシュウとたくさん遊ぼうって約束しているんだ。もうすでに遊べる日も決まってる。その直前に期末試験なんてものがあるけど、それすら苦にならないほどもう今から楽しみでしょうがない。

     ちなみに教室の席だけど、おれの苗字は金城、シュウは闇ノ……つまり教室でも真反対の席に座らされてる。ここまで来たら俺たちの中を引き裂く謎の力とか働いてたんじゃないか?それでも仲良くなってやったけど!POG!
     来る長期休暇に向けて上がりきったテンションのまま心の中でそう叫んで1人寂しく家へと足を進めた。
     でも近いほうが嬉しいから早く席替えしてくれないかな。


     そうしてやってきた夏休み。
     なんと初日からシュウと遊べる事になった。そのために早朝から、女の子とのデートでも重要な会合でもないのに……いやある意味重要な会だけど……俺は何を着ていくのか迷いに迷ってクローゼットをひっくり返してプチファッションショーを開催した。
     付き合ってもらった部下には苦笑いをされたし揶揄われたけどおかげで、ゆったりとしたシャツにパンツという無難な格好で待ち合わせ時間に向かうことができた。

     浮かれに浮かれきっているため、待ち合わせ場所には1時間前に着いてしまった。
     因みに今日は2人の家の中間にある、少し栄えてる駅前で遊ぶ予定だ。
     こんなに早く来ていることがバレたら引かれるかな、いや、シュウなら「なにしてるの」って笑い飛ばしてくれるに違いない。心の中のシュウ(制服の姿)が笑ってくれる想像をしながら少し口角が上がってしまう。いけない、このままだと周りから見ると変人だ、と口を手で押さえるといつの間にか目の前に本物のシュウ(私服の姿)が立っていたので心臓が飛び上がる。
    「こんなに早く来てニヤニヤして何してるのさ。ルカ」
    「シュ……シュウ!?」
    「なんて、僕も早く着いちゃった。楽しみすぎて」
     そう言って笑うシュウはなんだか眩しく見えた。シュウのパーカー姿を初めて見たから?学校の外で初めて会うから?それとも夏日が強いから?思考を巡らせていると返事をしようとした口が急に渇いてきて
    「お、俺だって楽しみにしてたんだよ!」
    なんて勢いよく口走ってしまう。
     まて、その前にシュウは今日を楽しみにしすぎて早めに着いたって言った?俺と全く一緒ってこと?
     状況に頭が全く追いついてこない。心臓はまだバクバクとシュウにも聞こえちゃいそうなほど大きな音を立てている。
    「んはは、一緒だ」
     考えてることも一緒だよ、とは口から出てこなくて、かろうじて「そうだね」と返す。
     どうして俺はこんなに緊張しているんだろう。隣に立って笑うシュウは相変わらず眩しくて、一緒にいる時が1番落ち着く瞬間だったのに。
    「ルカ?どうしたの、行かないの?」
     立ちすくんでシュウを直視できないでいる俺に、流石に様子がおかしいと思ったのかシュウが顔を覗き込んでくる。心臓がこれ以上ないほど軋むのでやめて欲しい。
    「ど……どこにいくんだっけ?」
     もう何もわからなくなってしまってそう言えばシュウは盛大に吹き出した。
    「えぇ??ゲームセンター行こうって話したじゃない。本当にどうしたの?暑さでやられちゃった?」
    「ゲームセンター!POG!そう言えばそうだったね」
     シュウも早く来たとはいえ真夏に1時間も早く来たから、暑さでやられたんだ、そう。
    「来る時にお水買ったから良かったら飲む?飲みかけだけど」
    「……いや、大丈夫」
     だから、普段は気にしない飲み掛けもなぜか気になって断ってしまった。


     ゲームセンターに入ると騒がしい音楽と共に冷房の心地よい風が頬を掠める。訪れたのは大きめのゲームセンターで、1階から3階まで様々なゲームコーナーがあるらしい。
    「ルカは何が好き?」
     フロアマップを眺めながらシュウが尋ねる。
    「俺は……実を言うとあんまり来たことが無いから、一旦全部見て回るのはどう?」
    「賛成。僕もそこまで来た事ないんだよね。だから聞いたんだ」
     シュウはそう言いながら笑う。それはそうだ、家が真反対とはいえ中間にあるこの駅には放課後や休日に来ようと思えば遊びに来れたがお互いその時間が取れない日々を送っていたから、夏休みに入ってようやく二人で来れたのだから。

     先ずは入口すぐにあるユーフォーキャッチャーコーナーから見ていくことにした。大きなぬいぐるみからお菓子まで様々なラインナップがあるのを眺めて、ふと、シュウが一つのショーケースを見ていることに気が付く。それは小さなライオンのマスコットだった。
    「シュウ?それ欲しいの?」
    「いや、なんかルカっぽいな~って思って見てた」
    「えぇ?そう?それならこっちのバナナのマスコットのほうがシュウっぽいよ」
     聞いてみると思ってもなかった言葉が返って来て俺は驚いた。その時ふとその隣のケースを見るとサングラスをかけたゆるいバナナのマスコットが並べられていたので、それとシュウの髪を交互に指さして言う。
    「よし、じゃあ僕はルカを取るからルカはバナナを取ってよ。どっちのほうがはやく取れるか勝負ね」
     そう言ってシュウはすでにお金を入れている。
    「わっ勝負なら負けないよ」
     すかさず俺もお金を投入して機械を操作し始める。そして突然真剣勝負が始まった。
     ガラスの向こうにいるマスコットと睨めっこしながら俺たちは真面目に、たまに惜しい〜!と叫びながらプレイしていく。
     結果を言うと先に取れたのは俺。でも使ったお金はシュウの方が少ない。
    「これってどっちが勝ち?」
    「う〜ん、決めてなかったや。ルカ、はい」
     シュウはけらけら笑いながら手に入れたライオンのマスコットを渡してくる。
    「え?」
    「ルカっぽいからルカに持っててもらおうかなって」
    「いいの?」
    「最初からそのつもりだったし」
    「じゃあこのバナナはシュウのだね」
    「わあ、ありがとう」
     俺たちは手に入れたマスコットを交換してシュウはウエストポーチに、俺はリュックに付けた。全く違うものなのになんだかお揃いみたいで少しドキドキする。
    「よし、次のゲームで決着つけよう!」
     勝敗にこだわりがあると言うよりも、シュウとゲームセンターを楽しむために提案してシュウの手を引っ張って奥の対戦ゲームコーナーへと進む。返事を聞いてなかったけど抵抗はされないからどうやらオッケーらしい。

     そうして俺が選んだのはゾンビを銃で撃ち抜くゲーム。二人プレイは協力して進めるものだけど、最後にそれぞれの撃破数が表示されるらしいので選んだ。
    「やったことはないけど多分俺得意だけどいい?」
     心の中で本物とゲームの銃は違うだろうけど、と付け足しながらシュウの様子を伺う。
    「得意なゲームを選ぶなんて大人気ないなぁ?でも僕もヴァロラントなら得意だから戦えると思う」
     シュウは笑いながらパソコンのFPSゲームの名前を挙げる。マウスとこのゲームで必要なエイムって全然違くない?なんてツッコミは入れないでおく。
     本当は勝負よりも俺が全部倒してかっこいいところを見せたいんだ。
     コインを入れればチュートリアルが始まり、撃ち方やリロードの仕方を学ぶ。銃を横に向けただけでリロード出来るのは便利だけどなんで?なんて思っていればゲームが始まる。
     四方八方からゾンビが俺たちを目掛けて襲いかかってくる。全然怖くはないけど思ったより数が多くて全部俺が倒すなんて無理だった。それでもなんとか2人で戦い抜いてなんと初見で最終ステージまでクリアできた。
     リザルトが表示されれば俺の方が圧倒的に倒した数が多く、実際プレイ中にリロード中のシュウを助けたりかっこいいところを見せられたはず。そう思って横を見れば一見いつも通りの顔をしているが少し不満げな雰囲気を出しているシュウがいる。
    「シュウ?」
    「……もう一回やろう」
    「え、良いけど」
    「次は勝つからね」
     どうやらシュウは意外と負けず嫌いだったみたいだ。ゲームの話題はよくしていたけど一緒にやることもなかったから知らなかった。拗ねてるらしい横顔に思わず笑みが溢れる。

     結局ゾンビゲームではシュウは一度も俺に勝てず、レースゲームやホッケーなど様々な対戦ゲームを巡って勝ったり負けたりを繰り返した。
     俺も負けず嫌いな部分はあるので勝負はかなり白熱し、夢中になって気がつけば夕方になっていた。
    「あ〜遊んだ!」
    「もうへとへと」
    「……もう帰らないとだね」
     夏休みに入っても相変わらず各々の用事がある2人は夕方解散が暗黙の了解になっていた。
     予定を立てた時はそれまでたくさん遊べるのだから大丈夫だと思っていたが、たくさん遊べたから寂しさが強くなってしまった。
    「まだ夏休みは始まったばかりだよ。また遊ぶ日はあるんだからそんなにしょんぼりしないの」
     俺の顔を見たシュウは軽く吹き出しながら言う。そんなに寂しそうな顔してた?寂しいけども。
     今度は俺が拗ねながら出口へと向かっていく。そうすればふとあるポスターが目に入る。
    「夏祭り……」
    「ルカ?」
    「シュウ!夏祭りだって!この辺でやるみたいだよ」
     8月の末にこの近くにある神社でかなり大規模な夏祭りがあることが書かれたポスターを指差す。
    「夏祭り!いいね」
    「ちょうど遊べる日だよ!POG!」
    「いろんな屋台があるみたいだし楽しみだね」
     賑やかなポスターを2人で眺めながらアレしたいこれしようと屋台巡りの計画を立てる。
     さっきまでの寂しさはどこかへ吹き飛んで俺の頭の中は夏休みを満喫することでいっぱいになった。


     それから俺たちは遊べる日は毎日遊んだ。
     ある日はカラオケに行ったり、ある日はショッピングモールでぶらぶらとウィンドウショッピングをしたり、ある日はシュウの家にお邪魔して夏休みの宿題を終わらせたり。
     シュウは実は家から出るのがあんまり好きじゃないらしいけれど俺があそこ行こうよ!と提案すると予定がない限り毎回頷いてくれたので、海や山へも連れ出して遊びまわった。
     気が付けば夏休みももう終盤に差し掛かっていて、俺たちが自由に遊べる時間ももう少ない。でもどの予定も全力で楽しんで来たから不思議と寂しさはなかった。夏休みが終わっても学校で会えるし。久しく見てないシュウの制服姿を思い浮かべる。

     どこに行ってもシュウは輝いて見えて、流石の俺も自分がシュウの事を好きなんだと気付いた。
     最初は親友的な意味で好きなんだと思っていたけれど、それにしてはシュウの一挙一動に合わせて跳ねすぎる心臓に恋心を自覚するしかなかった。
     それに俺の隣で笑うシュウは特別可愛くて綺麗に見えて、シュウも同じ気持ちだと良いな、と思う気持ちが会うたびに募っていった。
    「花火一緒に見たいな……」
     夏祭りのチラシを見ながら呟く。夏祭りは俺たちが夏休みの最後に一緒に過ごす時間になる予定だ。
     チラシの端には当日の夜には花火大会が開催されることが書いてある。ここら辺では一番大きな規模の花火大会らしい。そうなればシュウと一緒に花火を見たいし、あわよくばその場で告白をしたい。それってすごくロマンチックだと思うから。
     でも俺たちはいつも日が落ちるころには解散しなければいけないから見ることは叶わないだろう。それでも何か奇跡が起きればと思って俺は部下に圧をかけてこの日は絶対夜の花火大会を見て帰るから、となんとか時間をこじ開けた。
     そこまでして一緒に見たかったの?と言われたら恥ずかしいからシュウには言えてないけれど……。だからきっとシュウは夕方には帰っちゃう。無理を言って残ってもらうわけにはいかないし。
     だからただ俺は一人の自室でこの夏休みに貯めまくったシュウとの思い出の写真を眺めながら一緒に花火を見てロマンチックな雰囲気になる想像をしてため息をつくことしかできないんだ。



     夏祭り当日。屋台は早い時間からやっているため、それに合わせて待ち合わせ時間も早くなる。今日も俺はファッションショーをした後に2時間前に待ち合わせ場所に着いた。何回外で会ってもドキドキしっぱなしの俺はこうやってはやめに着いて待っている事で心の準備をするんだ。
    「ルカ、お待たせ」
     それでも待ち合わせ時間の1時間前に来るシュウにまた心を乱される。
    「シュウ......それ、浴衣!?」
    「そう。夏祭り行くって言ったら着せられたんだ」
    「すごく似合ってる!」
    「そう?んはは、ありがとう」
     やってきたシュウは紫と黒のシンプルな浴衣を着ていて、いつもは降ろしてる髪を高い位置でまとめてポニーテールにしていている。なんというか妖艶な雰囲気があって、今までで一番ドキドキする。あぁこのシュウと花火見れたらな……なんて一瞬思う。というか、今から浴衣を着たシュウと夏祭りを回れるの?それってもうデートじゃん!POG!そんな思考でここ最近で一番頭が回転している気がする。心なしか体温も心拍数もどんどん上がっている気がする。シュウは俺の心を乱す天才だ。
    「浮いたらどうしようって思ったけれど結構盛り上がってるみたいで良かった。僕たちも行こうよ、ルカ」
    「そ、そうだね、人が多いからはぐれないようにしないと」
     シュウの浴衣姿に感動していたら早く行こうと急かされる。この夏休みの俺たちはずっとこう。待ち合わせ場所で俺はひたすら動揺してその場から動けず、シュウを困らせる。
    「……じゃあ手でも繋ぐ?」
    「えぇ!!?!?」
    「流石にリードは持ってないからさ」
    「まって俺の事犬扱いしてる!?」
    「ルカは犬でしょ」
    「ライオンじゃないの?」
    「あ~どちらにせよルカがはしゃいだら僕はついていけないからさ」
    「そこまではしゃがないよ!」
    「どうだか」
     そう言ってシュウに手を取られる。手をつなぐことで決定してしまったみたいだ。犬扱いされたとかそれどころじゃない。どうしよう、手汗とか……心音とか聞こえてないかな、大丈夫かな。そんな俺の心配をよそに「まずは射的行こうよ、ゲームセンターでのリベンジさせて」なんて言いながらシュウは俺の手を掴んだまま人込みへと歩み進めていく。
     本当に困らせられているのは俺だったかも……。

     夏祭りは大盛り上がりで色んな人が行きかっており、男二人が手をつないで歩きまわっていても誰の注目を浴びることはなかった。
     射的はお互い1ヒットずつで引き分けになった。俺は駄菓子、シュウはぴろぴろ吹く玩具を手に入れて、シュウはぴろぴろと玩具を吹きながら祭りの風景を見渡して歩いている。
     俺は駄菓子を二口で食べきって、そんなシュウの横顔を盗み見ては普段は隠れてるうなじがちらりと覗いたりしてドキドキし続けている。
     もう宿題は終わった?まだ、後ちょっとだけ残ってる。早く終わらせなよ。なんて会話をしながら屋台をめぐってはおいしい物を食べたり、綺麗なビー玉を掬ったり、二人で大きな綿あめを半分こしたり、かき氷を食べては頭を痛めたり。シュウと遊ぶ夏祭りは楽しくて、気が付けば日が落ちかけて周りの提灯に日が灯り始めていた。
     日が落ちても祭りの電飾や喧噪によって周りの明るさは変わらない。シュウには迷惑をかけたくなかったけど、このままシュウが時間に気付かないで花火大会まで一緒に居れたらいいのに、とそんな事ばっかりを考えてしまう。
     でもやっぱりシュウが家族に怒られたり、そういうのは嫌で、でも自分から時間だよとは言いだしたくない。花火大会のこともあるけれど純粋にもっとシュウと夏祭りを楽しみたかった。
     そんな俺の葛藤を知らないシュウは俺の手を掴んだまま「あ!たこ焼きあるじゃん、食べようよルカ」なんて笑いかけてくる。
    「シュ、シュウ……」
    「?どうしたの?ルカ?」
    「あー……まだ食べるの?さっき焼きそばも食べたじゃん」
    「んはは、じゃああっちの金魚すくい……」
    「おーけい、いいけど……」
     ぐいぐいと俺の手を引くシュウの顔をちらっと覗けば少しバツが悪そうな表情をして、少し頬が赤く染まっているように見える。シュウの様子がおかしい。先ほどからまるで何かから逃げるようにどこかの屋台へ行こうとしている。
    「シュウ、何かあった?」
    「えっいや……んはは」
     聞いてみても目をそらして笑うだけ。そしてその視線の先を追えば少し顔を出し始めた月が見えた。これはもう気付いてて、俺と同じでまだ夏祭りを満喫したくて気づいてないふりをしているんだろう。なんてかわいいんだろう。でも気付いてるなら話は別。折角の楽しいデートで迷惑をかけるわけにはいかない。
    「シュウ、もう帰る時間じゃない?」
    「……っそう、なんだけど……」
     また聞いてみれば今度は下を向いて何やらもごもごし始める。シュウの弧を描いた特徴的な口が開いては閉じてを繰り返す。
    「そんなに楽しかった?俺も楽しかったけど。また来年くればいいじゃん」
    「うん……いや、そうなんだけど……」
    「?」
     何を言ってもシュウの口はもごもごし続けている。どうしたのだろう。こんなシュウは初めて見るので少し戸惑う。
    「……っていうかルカこそ時間大丈夫なの?」
     急に俺の目を見て聞いてくるものだから、今度は俺が目を逸らすターンだ。君と少しでも長く一緒に居たくて部下や家族に泣きついてきました。なんてかっこ悪くて言えるわけがない。
     なんて返そうか、考えていれば通行人にぶつかってしまう。
    「っと、通路のど真ん中じゃアレだから端っこに行こうか」
    「うん」
     じゃあ帰ろう、にならなかった辺りはどうやら時間は大丈夫らしい。移動中ちらっとスマホで時間を確認すれば花火大会の時間ももうすぐに迫っていた。

    「俺は……実は今日遅くまで居れるんだよね」
    「そうなの?なかなか帰らないなと思ってた。僕も実は時間気にしなくて大丈夫なんだ」
    「本当?じゃあ花火も見て帰る?」
    「うん」
    「やった!俺、シュウと花火見たかったんだ!」
     シュウと花火が見れるといううれしさで、人混みから離れても繋ぎっぱなしだった手をぶんぶんと振り回す。そんな俺にシュウも笑う。
    「僕もだよ」
    「え?なんて?」
     ぶんぶんと腕を振り回して喜んでいたらシュウが何かをぽつりと呟いたけれど聞きそびれてしまった。
    「やっぱりルカは犬だなあって言っただけ」
    「え~!?!?」
     また犬扱いされてしまった。でも良いんだ。シュウと花火が見れるだけで嬉しいから。しかも今日のシュウはいつも以上に素敵で、しかも今は暑さからかほんのり顔が赤く見えて、かわいくて。そんなシュウと一緒に夜遅くまで遊べる喜びももちろんあるし、俺の計画も上手くいきそうで心臓は破裂しそうなほど大きく動いている。
    「そうと決まれば良いポジション探しに行こうよ!たしか向こうから上がるって書いてあったはず」
    「わ、ルカ!待って!」
     今度は俺がシュウの手を引っ張って走り出す。神社の階段を上って人気が少なくて見晴らしのいい場所を探し回る。

     土地勘のない俺たちは結局人がまばらに居る境内で花火を待つことにした。出来れば人が居ないところで二人っきりで見たかったけど今日は良しとしよう。来年は絶対に二人っきりで花火を見るんだ、と心に決めて空を見上げる。
    「もうすぐだよね」
    「うん……あのさ、シュウ。俺、本当にこの1ヶ月シュウとたくさん遊べて嬉しかったんだ」
    「んは、急にどうしたの?僕も嬉しかったよ」
    「だって今日で夏休み終わっちゃうし……俺にとっては夢見たいな日々だったんだ」
    「んはは、大袈裟。夏休み終わっても学校で会えるじゃない」
    「だって思っていた以上に学校で会うのと外で遊ぶのとは全然違ったんだよ。シュウは違う?」
    「んーまあ……すごく楽しかったよね」
    「でしょ!でも俺にとってはもっと特別な日々で…だって…それは……」
    「あ!ルカ、花火始まるみたい!」
     精一杯の勇気を振り絞って気持ちを伝えようと言い淀んでいるうちに、空に一輪の花火が打ち上がる。それはどんどん数を増やしていって、大きな音と共に華麗に咲き、辺りを一瞬明るくして散っていく。
     言うタイミングを逃した…と肩を落とす間もなく豪勢に咲き乱れる花火たちに釘付けになる。
    「綺麗だね」
     花火の声に負けないようにさっきよりも近い距離でそう笑ってくるシュウはその瞳にキラキラと火花を反射させて魅入っていて、本気でそんなシュウの方が花火より綺麗だと思った。
    「……綺麗だね」
     それでも君の方が綺麗だよなんて言える勇気は出てこなくて。
     あんなにも気持ちを伝えるシミュレーションをしていたのにいざ本番になると言葉が出てこないのがもどかしい。
     また口を籠もらせていれば、気がつけば肩と肩が触れ合うほど近くにシュウが来ていた。
    「本当に綺麗だね。実は今日どうしてもルカと花火が見たくて家族に駄々捏ねちゃったんだけど、来てよかった」
     それなのに君は花火の合間に俺にだけ聞こえる距離で、んへへ、と少し照れたように笑いながら言うから。
     思わず肩を掴んで少し赤い頬に手を当てて弧を描く唇に自分のそれを重ねる。
     すぐに顔を離せば大きく見開いた輝く紫の瞳には俺だけが写っている。そして花火の光によってシュウの真っ赤になった顔が夜道に浮かび上がる。
    「〜〜〜ッ!?ルカ!?」
    「ふはは、シュウ真っ赤だ」
    「っそういうルカこそ!」
     俺もそんなシュウに負けず劣らず真っ赤になっているんだろう。耳が燃え上がるほど熱いのを感じる。これはきっと夏の暑さなんかじゃない。
    「俺も、シュウと花火が見たくてわがまま言ってきた!本当に来てよかった!!」
     開き直ってそう笑えばシュウはも〜〜……と呆れたような声を出しながら花火にまた目を向けたので、俺も空を見上げる。
     繋ぎっぱなしだった手に力を込めればシュウも握り返してくれて、俺は想像していた何倍も幸せな花火大会を噛み締めながら、片方の手で小さくガッツポーズをした。


     花火大会が終わって俺たちは帰り道に向かう。ただその会話はどの花火が好きだったかとか、綺麗だったねとか、また夏祭り来ようね、なんてたわいの無い内容だけ。
     何か言われるかと思ったけどシュウは何も聞いてこないし、俺も何も言わなかった。
     でも俺たちの手は別れ道ギリギリまで繋いだままで、俺はそれだけで良かった。
    「じゃあまた学校で!」
    「またね」
     
     結局最後まで言葉にはできなかったけれどお互いの気持ちは痛いほど伝わったし、伝えられたと思うからきっとこれで良いんだろう。
     ただ、いつかは絶対言葉にして伝えたいので、花火中のあの勇気と勢いをまた出せるように、残りの夏休みはイメージトレーニングをして過ごした。



    「ルカ、また明日」
    「シュウ!また明日!!」
     今日も授業が終わり、俺たちは談笑をしながら教室を出る。そしていつも通り下駄箱からは別々の方向へと帰っていく。
     ただ夏前よりも距離感が縮まったのはきっと気のせいではないだろう。
     あの夏休みは蜃気楼や夢なんかじゃなくて、2人で作り上げたたくさんの思い出が積もっている。
     その証拠に、振り返ればシュウのスクールバックにはあの日取ったバナナのマスコットが揺れていた。
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