センチネルバースとは ざっくり説明
一般人・センチネル(五感が発達した能力者)・ガイド(センチネルの能力を抑える能力がある)という3つの人種がいるよ!という設定
センチネルとガイドには相性があるよ
ゾーンアウトとは:センチネルの能力が暴走して生死に関わるような状態
ガイディングとは:ガイドがセンチネルの能力を低減する行為のこと
詳しくはこちら
https://www.pixiv.net/artworks/76321614
(今回こちらに記載がある元設定からだいぶ端折った設定で書いています)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
薄暗い雑木林に迷い込んだルカは、ぐるぐると回る頭を抱えながら壁に寄りかかる。目が少しの光りを認識して脳が焼ききれそうになる。遠くの布切れの音すら耳が広い鼓膜が破れそうに痛い。鼻は煤けた空気の匂いを敏感に捉え、壁に触れている手はデコボコした壁面を細かに認識している。それらの情報を処理しきれず、ルカの頭の中は子どもが好きに落書きをしたようにどれも理解が追いついていない。
やがて情報が嘔吐中枢を刺激し、胃から何かが込み上げて来る。だが出したところで過敏になった五感が拾い上げる情報が減るわけでもなく、次々に押し寄せる情報量に立っていられないほど押しつぶされる。
ふと、わずかに感じたお香のような香りを嗅ぎつける。確かこの辺りには大きな寺が建っていた気がする。寺とはいえ、死を齎す自分が歓迎されるとは思えない。ここを離れようと後ろへ歩みを進めようとしたとき、ルカの耳は後ろに迫りくる足音を捉えていた。
「誰……?こんなところでどうしたの?」
男の鋭い声が届く。おおよそ歓迎されてはおらず、不審がられていることがその声音から痛々しいほど伝わってきた。
ハンマーで殴られていると錯覚するほどの頭痛に襲われる。このままではゾーンアウトによって自分の命は無くなるだろうことが嫌でもわかった。
それなら、一つの賭けに出てみるか。
ルカはその声を聞いた瞬間に感じた違和感を確かめに後ろを振り返る。
そこには長い黒髪を高い位置でまとめて特徴的な金と紫のメッシュが入った男が立っていた。その目は驚いたように丸く見開かれているが、切れ長で強い意思が見て取れる。その男が一歩後ろに下がった時、ふわりと先ほど感じたお香の香りが漂ってくる。
それに導かれるようにルカは手を伸ばし、その男に触れる。男はビクリと身体を揺らしてルカの腕を引き剥がそうと腕を掴むが、それよりも先にルカがその男を胸に抱き留める。
「へ!?あ、あの……?」
困惑した男の声がくぐもって聞こえる。お香の香りが強く鼻に届いて抱きしめる腕の力が強くなる。
ルカはその男が発するすべてが心地よかった。脳内で続いていた小さな爆発がこの男の声によって止められたように感じた。直に触れればそれは更にルカの調子をよくさせた。
「っ……もしかして、君……」
未だ困惑しているらしい男は、それでもおずおずと手を伸ばす。そしてその手がルカの頬に触れた途端、ルカの騒がしかった脳内は途端に静かになり、あれだけ収まらなかっためまいと吐き気がピタリとおさまった。
それだけではなく、むしろ普段以上に頭がスッキリとした気がする。身体の調子も良く、今なら何でも出来そうだと錯覚するほどだ。
「……良くなった?」
腕の中で男がふわりと微笑む。
「まさかこんなところでガイドと出会えるなんて、ラッキーだった。ありがとう」
「ううん、僕も助けられて良かったよ」
ルカは男を開放して一歩後ろに引く。ずっと触れていたいほど心地よかったが、相手もそうだとは限らないとわかっているからだ。
「俺はルカ・カネシロ。よかったらお礼をしたいから名前を教えてくれないか?」
「僕は闇ノシュウ。お礼は大丈夫だよ」
「いや、命を助けて貰ったんだしお礼はさせてくれないかな」
「うーん……でも僕はそのためにいるからなあ……」
シュウのその言葉にルカは眉を顰める。それはセンチネルに飼いならされているガイドが言いそうな言葉だからだ。
世間ではセンチネルが好き勝手に能力を使い、それを飼いならされたガイドが暴走する前に抑えるというのがよくある構図だ。だがルカはそういったセンチネルとガイドの関係性が嫌いだった。自分たちはガイドがいなければ能力を使ったところで命を落とす可能性があるというのに、自分たちの能力を驕ったセンチネルはどうしても気に食わなかった。
そしてどこかで良いように使われているガイドの存在を思うと、せめて自分はガイドのお世話になった時はなるべくそのお礼をしたいと思っていた。
だからそうしたいというのに、目の前の男はそれを拒む。そして自分はセンチネルの命を救うためにいると言った。ルカにはそれがどうしても気に食わない。
「シュウは……誰かと契約しているの?」
誰かがシュウにそう思わせているのなら、そのセンチネルの顔をぶん殴ってやりたい気分だった。シュウのガイディングは他のガイドのそれと比べてかなり穏やかで優しく撫でられているような気分だった。それは絶対にシュウという人間の素質であるとルカは確信していたため、そんなシュウに歪んだ思考を押し付けているやつがいたらと思うと許せなかった。
ただ命を助けられたからというわけではなく、ルカは既にシュウという人間に触れて大きな好意を抱いていたのだ。
「パートナーはいないよ」
「そうなの?」
「うん」
ルカはシュウのその言葉に目を丸くさせた。では、なぜ彼はそんな思考を持っているのだろうか。
ガイドの中にはセンチネルに心の底から優しい人間もいるが、そういった人たちはたいていセンチネルとの関わりが薄い。つまりガイディング経験に乏しいガイドたちだ。
だがシュウは違う。触れただけでルカがゾーンアウトを起こしていることに気づき、優しく治してくれた。これは経験を積んでいないと出来ないことだ。
では、契約はしていないが過去にそういった傲慢なセンチネルと出会ったというのだろうか。勝手にそのセンチネルを想像しては舌打ちをした。
「僕とパートナーになりたいの?」
「なってくれるの?」
「いや……」
シュウは首を振った。
「でも初めて言われたかも」
「え?シュウほどガイディングが気持ち良いガイドはそういないから今までもなりたい人はいたんじゃないの?」
シュウの言葉にルカは心の底からそう返す。その言葉を聞いたシュウは少し顔を赤らめた。
「そんなこと無いと思うけど……でも僕自身誰ともパートナーになるつもりはないから」
「そっかあ……」
ルカは残念そうに口を尖らせた。ルカは仮パートナーでも良いから自分と契約してずっと彼にガイディングをしてほしい気持ちでいたが、シュウがそれを望んでいないのなら無理に話をつけようとするのは避けた。それこそルカが嫌っているセンチネルと同じになってしまうから。
「もし僕の力が必要なときがあったらお寺においで」
「寺……?」
「そう、この近くにあるから」
「シュウはそこに住んでいるの?」
「うん。僕だけじゃなくて他のガイドもいるからきっとルカの力になるよ」
他のガイドもいる、という言葉を聞いたルカは嫌な予感がした。シュウがやってきた方に目を向けると、暗闇の向こうに佇む寺が微かに見えた。ルカの良すぎる目はその中にいる人影を数人捉えることが出来た。
数人の子供が座禅を組んで座っており、そこを一人の大人が取り囲むように歩いている。ルカの嫌な予感は益々増えていく。
「もしかしてだけど、その寺で育った……とか?」
「そうだよ。よく気付いたね?あそこは実はガイドを育てている養護施設なんだ。僕たちはそこで小さい頃からセンチネルのために育てられたんだ。だからみんなきみの役にも」
その言葉を聞いた瞬間、ルカはシュウの手を掴んだ。
「ル、ルカ……?」
「シュウ、君はもう子どもじゃなさそうだけどまだそこのお世話になっているの?」
「え、うん……僕はまだ未熟だから修行をしたほうが良いって」
ルカは大きくため息をついた。嫌な予感は大当たりだ。外したことのほうが少ないが、今回ばかりは外れてほしいと願った。
「シュウ、さっきも言ったけど君のガイディングは素晴らしくてとても未熟なんかじゃないよ」
「え、いや……」
「そうなの!だから……だからお願い、俺と一緒に行こう」
シュウの腕を掴むルカの手に力が入る。シュウは反射で自分の手を引こうとするが、びくともしないルカの手に足が竦んだ。
「ど、どこに……」
シュウの声には確かに恐怖が滲んでいるがルカにはそんな事は構わなかった。それよりも、おそらくシュウに歪んだ思想を埋め込んだ場所から一刻も早く離れてほしかった。
「どこでも!」
ルカはシュウの腕を引っ張る。しかしシュウはそんなルカに怯えているためそれを拒む。
「僕……僕、もう寝る時間だから帰らなくちゃ」
「シュウお願い。帰るなら俺のところにしよう」
「なんで!」
シュウは力を込めてルカの腕を振り払う。
本当ならこのまま連れ去ってしまいたい。だがシュウの心はルカとともにあることよりも、あの寺に戻る事を望んでいる。無理やり連れ去ってもいいが、それはルカが望む世界ではない。それでもどうしてもシュウの心が自由になってほしいと思った。
ガイドにはセンチネルを助けなくてもいいという選択肢がある。それはガイドがセンチネル相手にできる唯一の自己防衛手段だ。センチネルに襲われたとしてもガイドがガイディングを拒めばセンチネルは自滅していく。それによって世間ではガイドの自由はなんとか保たれているのだ。
だがシュウはその選択肢を持っていない。そんなことは危険なのだ。たまたま自分で良かったものの、これが他のセンチネルだったらシュウは無理やりボンドを結ばされて手籠めにされる未来もあるかもしれない。そう思うとルカは居ても立っても居られなかった。
そしてシュウをそうした原因から離してやりたかったし、そうしないかぎり彼には自由は訪れないことが今話しているだけでも十分に理解できた。
しかし今のルカにはシュウが寺を離れる十分な理由にはならない。それが無性に悔しかった。
「……無理言ってごめん」
「う、うん……」
シュウは掴まれていた手を自分自身に引き寄せるとそのまま一歩後ろへ下がった。完全に警戒されているらしい。
「ごめん、シュウ。次はお礼をしに来るから」
ルカは笑顔を作ってそう言った。
「だからお礼は……」
「じゃあ友達にならない?一緒に買い物とか行こうよ」
「……それなら」
ルカの提案にシュウは少し悩んだ後控えめに笑った。シュウが笑ってくれたことにルカも安心してほっとした表情を浮かべる。
「それじゃあまた今度来るね」
「うん」
「今日は本当にありがとう」
「ううん」
「絶対に迎えに来るから」
「へ?」
ルカは小さくそう呟くと振り向いて雑木林を抜けて繁華街へと向かっていく。途中まで背中にシュウの視線を感じて、今からでも引き返して連れ去ってやろうかと何度も思う。しかしその気持ちをこらえてルカは自分の家へと帰った。
家に着くとルカは汗で濡れたシャツを脱ぎ捨て、自分の部下に連絡を送る。内容はあの寺について調査をしろというものだ。誰がなんの目的でセンチネルに従順なガイドの育成なんて事をしているのか、知って、鉛玉をプレゼントしてやろうと思った。
そしてその日までにシュウの心を手に入れて、彼には安全な世界をプレゼントしてあげたい。
こんな気持は初めてだった。今まで会ったどのガイドにも感謝をしているが、こんなにも一人のガイドに気持ちが持っていかれたことはない。
ただシュウにもっと笑ってほしい。それもできれば自分の隣で。そう願っているだけなのだ。
ルカはそれを恋と呼ぶことに気付いてはいなかった。
こんな感じで、施設にセンチネルに従順になるように育てられてるシュウをそこから連れ出すルカ
この後シュウは施設の命令で元凶センチネルとボンド(精神の契り)を結ばされそうになってルカがそいつをぶっ飛ばしてハッピーエンドです たぶん