Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    tms_nam

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💙 💜
    POIPOI 5

    tms_nam

    ☆quiet follow

    あん🌟友創

    バレンタイン 大嫌いだ。
     部屋の片隅のソファで小さくなった友也は、手に持っていた物を乱暴に投げ捨てた。
     がさっと音を立てて落ちたのは、ターコイズブルーの包装紙に綺麗に包まれた小箱だ。
     送り主は、スカイブルーの綺麗な髪の毛の愛おしい幼馴染。
     そんな彼から受け取った包装紙の中身はチョコレート。なんで知っているかというと、今日が二月十四日、バレンタインデーだからである。
     幼馴染、紫乃創から手紙を受け取ったのは3日前だった。
     『明後日の放課後、一緒に帰りませんか』
     こんなこと直接言ってくれればいいのに、と彼に伝えると、優しげな顔はほんの少し困ったように笑っていた。
     ほのかにラベンダーの香りがするメッセージカードに綴られた小さな文字は、彼の性格をそのまま写しているように見えたものだ。
     一緒に帰ろうと誘われた日、明後日がバレンタインであることは、超健全普通男子の俺は気づいていた。それに、いつの頃からか、バレンタインには創からチョコを受け取り、ホワイトデーに返すのが恒例行事となっている。
     いつも、見た目にも可愛く丁寧に手作りされた創からのチョコを楽しみにしている。
     こんなに楽しみにしていたのに、なぁ。
     ひとりぼっちの部屋で呟くと、言葉は宙に消えて溶けていった。
     
     
     結果から言うと、放課後、俺と創は一緒に下校しなかった。
     六時限目は、美術系の選択科目だった。創は音楽を選択していて、俺は書道を選択しているため別の教室で授業を受けることになっている。
     片付けに時間がかかってしまい、俺は少し慌てて教室に戻った。創がいつものように、席で本でも読みながら待っていてくれているだろうと思って・・・。
     
    「創?ごめん、待ったよね?」
     勢いよく教室の扉を開けると、そこにいたのは葵ひなただった。
    「あ、友くん。おかえり〜」
     ひらひらと手を振っているひなたに、創は?と聞くと、そうそう!と大きな声を出した彼に小さな手提げ袋を渡された。
    「なにこれ?」
    「創くんからの、預かり物?友くんに渡して欲しいってさ。」
     そう言うと彼は、愛しのゆうたくんがまってるからと教室を駆け出していってしまった。
     
     なんなんだ。
     ひなたが自由なのはいつものことだ。一緒に帰ろうと手紙を渡してきた本人はおらず、クラスメイトにおつかいを頼んでおいて、なんの音沙汰もない。
     ぽとりと、心に一滴の墨が落ちた。それはじわりじわりと、広がっていく感じがした。俺は、かばんを引っ掴んで、教室から飛び出した。
     
     
     ここまでが今日、俺に起きたこと。
     創からのチョコレートを乱暴に扱って、一人で散々怒って少し冷静になってきた。
     落ち着いて考えると、創は急に仕事が張ったのかもしれない。もしかしたら、校内のお手伝いを頼まれて、断れなかったのかもれない。
     何に対して俺は怒っていたのだろう。
     そうだな、きっと、創が俺のことを優先してくれなかったから。
     子供みたいな理由だ。
     
     コンコン。
     控えめに、部屋のドアを叩く音がした。きっと、彼だ。
     なんだか居心地の悪い気持ちになりながら、少しドアの開けた。
     綺麗なパープルの目をした彼が、申し訳なさそうな顔をしてそこに立っていた。
    「友也くん・・」
    「創。」
     彼の顔を見たら、なんだか、よく分からないけど涙が溢れてきて頬が濡れた。
     目の前にいる、可愛くて大好きな幼馴染は、慌てた顔をして、それから、俺を抱きしめた。
     俺よりも、細いけれど、力強い腕の中で、意味も分からずワンワン泣いている。
     ふわりと俺の頭を撫でる手に心地よさを感じながらも、一度暗く曇った心を青空には戻せなかった。
    「友也くん、ごめんなさい」
    「なんで、、なんで、ひなたに頼んだんだよ。
     一緒に帰ろうって言ったじゃんか。」
     ごめんなさいね、と彼は何度も何度も繰り返している。そんな彼に、ばか、だとかなんだとか繰り返した。
     ひとしきり騒いだ後、俺の涙が収まってきたのを確認するように顔を覗き込まれた。一筋の涙を指で掬われると、居た堪れなくなって彼から目を逸らした。
    「友也くん、ごめんなさい。クラスの子が、お仕事で使う衣装を教室に忘れているのをみつけてしまって、、ぼく、放っておけなくって。」
     ついついその場にいたひなたくんに、チョコレートをお願いしてしまいました。友也くんの気持ちも考えずに。
     ほら、創は誰かのための行動をしていたんだ。俺ばっかり恥ずかしい。嫌んなっちゃう。
    「俺、創が、俺を一番にしてくれなかったのに嫌だった・・」
     小さな声で呟いて、それから、床に投げてしまった彼からのバレンタインチョコレートを拾い上げた。
     そんな俺の姿をみて、ふふっと、大好きな彼が笑った。
    「友也くん、嫉妬してくれたんですか?」
    「もう、言うなよ。」
     ターコイズブルーの包みを開けると、ボンボンチョコレートが四つ綺麗に並べられていた。
     彼は、そのうちの一つを手に取ると、
    「友也くん、あーん、して?」
     言われたままに、口を開けると彼手作りの甘いチョコレートが口の中で溶けていった。
     
     大嫌いなんて、嘘だ。
     大好きだよ、創。
      
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works