こぽり
こぽり
こぽり
口からは空気が漏れて海面に上がっていく
両手も両足も、ばかばかしいぐらいに重いというのだけが分かる意識が見せる走馬灯
走馬灯は一種の生き延びるすべを脳が検索する機能らしいが
むしろトドメをさそうと走馬灯を見せているんじゃないかと思う程度には
私の人生の軽さをまざまざと突き付けてくる
兎角弱く産まれた私であったので、祖父の持つ城で親族に囲まれて何不自由なく必要なものだけではなく、消費しきれないほどの娯楽ですらも与えられるままに暮らしてきた。
沢山の料理器具に食材、各分野の書物や裁縫道具一式、近頃は各種ゲーム機に必要な世間でも評判がいいゲームソフトまでセットにしたものまで諸々と
そうして持参した父は心配そうに眉を下げて言うのだ『城に一人で退屈ではないかい?』と。
それに毎回のように私は笑って『何も心配いりませんよ』としか答えられなかった
それが愛情深いこの人を悲しませる事だとしても
だって欲しいものなんて、本当に何一つないのだから
本当に思い返すだけでクソったれだなぁ、としか思えないのだけれど
まぁ、それもまた人生であろうと
徐々に落ちてくる瞼にさせぎられた視界に写った、すうるりと夜の海でも輝く赤銀の鱗の尾の上半分は細くはあるが白い引き締まった肌。
波に遊ばせているのは月の光を集めたような白銀の髪とそれに似合いの整った顔立ちの中にある蒼穹の瞳
綺麗すぎる生き物がそこにいた。
それが余りに綺麗すぎて、先程まで最期を覚悟していた身の上であるのにも関わらずに手を伸ばさずにはいられなかった。
それほどにこの存在が欲しいと思った。この存在が手に入るなら他の何もいらないと思った。
その行為を綺麗なイキモノは多少青い目を見開いた後で、痛みをこらえるように笑ったと思いきや
伸ばした手を引っ張られては胸の中に抱き込められたと思いきや海水面に上昇をしていく身体
違う
そうじゃない
やめてくれ
君と、一緒に居させてくれ
いっそ、君のそばで最期を迎えるのであれば、それでも構わないから
要らない、要らないから
君以外いらない
言いたい言葉は彼の上昇速度によって音として発することすらできずに、薄れゆく意識の中でいやだいやだと頑是ない子供のように抱きしめてくる体を引っ掻けば、耳元でささやかれる言葉
「助けるから。大丈夫だから。」
それが君との最後の記憶になった
***
ワルド・ドラルクの一生はあの定まったと言っても過言ではい。
14の時、親族の策略に見事にズッポリとハマって海の藻屑となることを覚悟した夜の海に出会った、夜の海でも目立つ銀の髪に白い肌、青い瞳に赤い鱗の、畏怖を感じさせずにはいられないほどの美貌の人魚。
砂浜に打ち上げられていた自分を泣きながら抱きしめた両親の腕の中で、同じくらいに泣きながら心に決めたこと
ー君が私の幸せを願ったんだから、君が責任を取るべきなんだよーと
さて、餠は餅屋というのであるならば、吸血鬼に関わるのならば吸血鬼の職に就くのが一番であろうと、一族の仕事を蹴って吸対に就職をした。
だってあの子をどうしても手に入れたかったんだ。
大海原にいる吸血鬼
この惑星の8割が海であるというのであれば、その広大なる海からたった一人の吸血鬼を見つけることは難しいであろうことは想像に難くない。それでも欲しいのだもの
しょうがないじゃないか。だから国家権力を有し他国情報も入ってくる場所を選んだだけであるし、役職を拝命したのだって、権力を持てば、あの子を探しやすくするためだけのもの。
「だったはずなんだけどねぇ・・・・」
数日ぶりに帰宅をした海が臨めるマンションの一室のベランダに座りビールを煽る
日々の仕事は増えていき
仕事は増えれども君の情報は増えずじっと手を見る日々がすでに20年
いざとなったらな今からでも入れる転化、という保険があればこそ平静を保っていられるのであるけれどさぁ
だけどさぁ
「君があの時助けたんだからさお伽噺の人魚姫を見習って押し掛け女房とばかりにきてくれてもいいんじゃないのかい?」
いっそ押し掛け女房で来てくれたらその日のうちに仕事なんて辞職したると思ってるし
マイホームはきっと水槽が必須だから特注だな、って考えてるし
子育て(照)というか、子ができそうなことだってもちろんしたいと思ってるし
「幸せにするのにねぇ」
※この後で大侵攻のΔロ君と合って
「君!?人魚じゃなかったの?!!!!」
「・・あ~~~~アレは・・・ほら・・蘇る一貫でさ・・チャレンジ精神だよ!!!!」
ってなる