出会いは突然に
『本を買ってあげるから!』
自身の入学式の買い物すら面倒くさがる私に、母は最後の手段というように
突き付けた条件に一も二もなく頷いたのを少しだけ後悔しつつ、アレがイイかしら?それともこっち?とはしゃぐ母には人酔いを理由に外で待っている旨を伝えて外に出て、近場のベンチに座る
春特有の温かい日差しが噴水の水面で反射するのを、なんとはなくぼんやりと眺めていた
その時だった
「まひろ?」
呼びかけられた声に振り向けば、グレイの詰襟を着たひょろりとした青年はどこかうわごとのように私の名前を呼んだ
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前世の事を覚えている
策略を練り、陥れ、傷つけ、その上に胡坐をかいて望月をと嗤った己が居た
恥の多い人生でしたどころではない自らの所業を、いっそ忘れてしまえたら楽になれる事は分かっていたけれど
それでも持ち続けたのは、それらの痛みや苦しみ、悲しみも温かさも、すべての起点である『かの人』をひとひらでも―それが記憶の中であろうとも―失う事は耐えられなかっただけなのだけれど
(今生では会えるかもわからない相手に恋をしているなど、我ながら執念深い)
15歳まで待ったけれど、それでも会えない彼女などイマジナリーが過ぎると
自嘲はすれども、それが自分なのだからしょうがないのであろう。
そう分かってはいるのに
身内の結婚式に出ては、幸せそうに笑う姉の姿に打ちのめされた自分を何とか誤魔化したくて外に出れば
噴水前の小さなベンチ
そこに彼女が居た
初めて会った時と同じように彼女が居た
「まひろ?」
思わず零れた声は疑問形をとっているけれど、確信であった
だってどんな辻でだって俺がまひろを見つけられなかったときなんて無かった
ふわりと小さな頭が振り向き
大きい瞳と視線がかち合って
そうして
彼女は言った
「三郎?」
と