師が走ると言われている12月は
師だけではなく皆どこかあくせく、または浮かれた雰囲気になっていて
御多分に漏れず、二学期も終わりに近づく今日この頃では生徒会メンバーも何かと忙しく。
だって終業式と始業式の準備をこなしつつ
3月の卒業式の前準備をそろそろ始めておかなければならない期間なわけで。
なので各部活動に配布する用のプリントの原案をああでもない、こうでもないとパソコンとにらめっこをしすぎたことに溜息一つを落としたときに彼女は言ったのだ
「ねぇ三春君、最近サンタクロースおじさんが出没する話聞いた?」
サンタクロースオジサンの語彙が強すぎる
そりゃあ本家本元のサンタクロースだっておじさん?おじいさんだっただろうけれど
志乃ちゃんが言うのはそういうのじゃないだろうし
「変質者??の事??」
「あ~~~やっぱセンパイは知らねえっスよねぇ」
ガバリと後ろから抱き着いてくるカイザー君(驚くことにコレが本名だったりするのだけれど)に「邪魔」と軽く肘でつつけば「外が寒かったんで温めてくださいっすよ。センパイ子供体温っぽいし」なんて笑ってるし
「子供体温じゃありません~~~。あと買い出しお疲れ様!ついでに俺が知らなそうってどういうこと?」
べりりと背中に張り付いたカイザー君を今度は力を入れて引きはがそうとすれば
するりと腰に巻き付いていた腕は離れるから慣性の法則でぐらりと傾く身体を
鉄平君が「危ないよ」と支えてくれた上で志乃ちゃんに必要な荷物を渡しているのが分かった。
(余談だけれど袋の中には志乃ちゃん専用のお菓子まで入っていたのがマジで抜け目ない男子だし。ソレにちゃんとお礼を言ってる志乃ちゃんが可愛すぎる)
「だってセンパイそういうこと疎そうじゃねぇっスか」
「鉄平君ありがとう。あとお疲れ様。そして。カイザー君は一回俺に怒られればいいよ」
「え~でも俺も志乃ちゃんも知ってるのに、センパイ知らないっしょ?」
鉄平さんは?なんてカイザー君が聞くのを
「俺は、うっすらとは聞いたけど?アレだろ?顔のないサンタクロースのコスプレした男が「私は何に見える?」って聞いてくるんだよね?」
・・・・
・・・・・・・
「え!!!?????何それ????」
一瞬思考停止したけど
想像以上の怖さだろそれ???
変質者であっても怖いし
バケモノであっても怖いとか
おもわず二の腕をさすりだせば
「まぁ、ただの噂だろうけど」
なんて冷静な鉄平君の声に「まぁ、そうだけど」
そうなんだけど
だけど
「気を付けたほうが、いいよね」
思わず口をついて出た言葉に
「そっすねぇーー!特にセンパイは『顔無くしちゃったんですか?一緒に探しましょうか?』とか言いそうっすもんねーーー」
「カイザー君は本当に一回俺にがっつり怒られればいいと思うよ!!!」
***
そんなことを思い出したのは
クラシカルなコートに身を包んだ、やけに見目麗しい(なんというか、綺麗とか美人という形容詞より麗しい、と言った方が正しいような)人形のような顔をした男に手首を掴まれているからであって
思いっきり不審者なのに、それでも怖くはなかったんだ
だって、長い銀髪から伺える瞳は途方に暮れた迷子の眼だったから。
少しでも助けになりたくて、ならなければいけないような気がして、「Can I help you」と拙い英語で話しかけたと同時に、腕の中に閉じ込められる。
ぎゅうぎゅうと
必死で縋りつくような体に驚かなかったわけじゃない
驚いたのだけれど
嫌悪感はなかった
だから
「Don’t warry」
「本当?」
心配いらないと伝えた俺を抱き込みながら、分厚いコートに邪魔されても、それでも分かる耳にしっとりと滑り込むような声がおずおずと日本語を紡ぐ。
それが余りにも、迷子だったから
どうしようもないほどに迷子だったから
「本当。とりあえず離してくれないかな?」
「離したら、どこかに行ってしまう」
「どこにも行かないって。」
ぽんぽんと少しでも安心できるようにと背中を撫でて
そうして、はてさて、この迷子を交番に行ってちゃんと道案内をしてもらったほうがいいだろうとして思い至る異常さ
―この道は、こんなにも薄暗かっただろうか?―
曲がりなりにも住宅街、本来であれば家から漏れ出る明かりや、それこそ個人宅のイルミネーションで夜道も明るいはずなのに
―この道は、こんなにも静かだったろうか?―
何時もであれば、急いで帰る人の姿や、それこそ各家庭から聞こえる声がある筈なのに
、まるで耳鳴りすらしそうなほどに静かすぎる
そして何よりも
俺を腕の中に抱き込んだ男が、心底嬉しそうに笑って言った
『やっと見つけた、僕のサンタクロース』と
響きはどこまでも、にこやかで華やか
そして子供の無邪気さを孕んでいて
「・・・お前・・・何???」
頭の中に警鐘が鳴り響くままに身体を捩り逃げ出そうとすれども、目の前の男は、細身の、一見ひ弱そうに見える身体は少しも揺らぐことは無く
「離せ!!!!」
「え~???なんで?三春君はどこにも行かないって言ってくれたでしょ?」
三春
俺の名前
「なん・・・で、俺の名前を知ってる??」
頭の中がぐちゃぐちゃになりそうなほどの恐怖を、何とか飲み込んで
起死回生の一手になるように、顔を上げれば
交差したんだ
視線が
「・・・・・くね・・ひと?」
「やっと思い出してくれた?」
ふふ、と心底嬉しそうに≪黒いサンタクロース≫は笑って
そして
「迎えに来たよ、赤いサンタクロース」
さらさらと雪が降る
12月という時期に雪が舞って
そして
後に残ったのは
真っ白い道
ただそれだけ
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攫われちゃったENDですね☆
バッドエンドかなぁ?どうかなぁ????