Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    Hakura

    @Hakura_Y

    A-B
    Aは初出順
    Aが同じ=同じ世界線の話
    A’はAから分岐した世界線の話
    BはA内での初出順
    (必ずしも作中時系列順ではない)

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 33

    Hakura

    ☆quiet follow

    Webオンリー展示用

    割といつものいちゃらぶハイノイ
    前半にはチャさんが登場します
    年齢制限シーンはありませんが、ほのめかす表現があります

    0309

    Is he a wolf「お前、大丈夫か?」
     食堂の片隅で昼食のうどんをすすっている最中に声を掛けられた。相手は見なくても分かるが一応顔を上げれば、思った通りチャンドラが立っている。
     口の中を空にしている間にチャンドラは正面の席に唐揚げ定食の乗ったトレーを置いて座った。表情を見るに、どうも本気で心配しているようなのだが。
    「何の話だよ」
    「ハインライン大尉だよ」
     最近は内勤ばかりで危険な任務もなく、体調も良好。心当たりが全くないので正直に聞き返せば恋人の名前が出てきた。
    「? 何かトラブルでもあったのか?」
    「そうじゃなくて、お前無事なのかって」
    「?」
     アークエンジェルの後継艦建造の為にオーブ長期滞在中の彼の身に何かあったのかと思えば、あくまで俺自身のことらしい。ますます分からなくなって首を傾げる。
     俺の様子を見たチャンドラがため息をついた。
    「大尉と付き合いだして三ヶ月だよな?」
    「ああ」
    「でも普段ほとんど別行動だろ?」
    「そうだな」
    「たまーに休憩時間に一緒にいても仕事の話しかしてない」
    「うん」
    「何か閃いたのか、大尉が急に立ち去ることも多い」
    「まあな」
    「かと思えば休みの日は二人で部屋に篭って出てこない」
    「あー……」
     そこまで聞いてやっと分かった。
    「お前、大丈夫なの?」
    「……」
     つまり、身体目当てな上に無体を働かれているのではと心配されているのか。このタイミングで聞いてきたのは今日の夕方から揃って二日間休みだからだろう。
     お節介だとは思うが、確かに第三者にはそう見えるかもしれない。
    「大丈夫だ」
    「だってお前ら全然そういう雰囲気ないじゃん。あっちは技術職とはいえコーディネーターだし、みんな心配なんだって」
    「だから……」
     はっきりと否定したのに食い下がるので、もう一度言おうとして不穏な言葉に気が付いた。
    「〝みんな〟?」
    「〝みんな〟」
    「……どこまで?」
     付き合っていることは別に隠していないが、どこまで話が広がっているのか不安になる。
    「クルー全員とオーブ軍のよく会う奴らとモルゲンレーテの関係部署まで。あとコノエ大佐とうちの首脳陣とその周り」
     むせた。
    ―本当に全員じゃないか!暇なのか?!―
     どうして成人同士の交際でそこまで心配されているのか。頭が痛くなってきた。
    「……大丈夫だ」
    「ほんとに?」
    「しつこいな。問題ないって」
     根拠がないのが不満らしくチャンドラも引き下がらないが、こっちとしても極めてプライベートな、しかも相手のいる話をそうそう明かせるはずがない。
    ―というか、言えるか。あんな……―
     つい思い出してしまい顔が熱くなる。
     そこでチャンドラの表情が変わった。目を細め、口角が上がる。お互い様とはいえ付き合いが長いとこういうところが厄介だ。
    「これ以上は言わないからな!」
    「え~」
     さっきまでと違う、からかう声音に腹が立つ。
    「そもそもお前着替えの時に見てるんだから傷も痣もないの知ってるだろっ」
    「いや~、あの技術大尉殿ならその辺上手くできちゃうんじゃな~い?」
    「ない」
    「操舵士が座れないなんてことになったら大変よ?」
    「な、い!」
     それだけはありえない。そのまま数秒睨み合い、引いたのは向こうだった。
    「大事にされてるわけね」
    「まあ……うん」
     大事にはされている。チャンドラの想像とは違うだろうが。頷けば柔らかく笑って俺の手元に視線を落とす。
    「あ、うどん伸びてるぞ」
     他人事のように言いやがるので唐揚げを一つ食ってやった。
     
     
     
     夕方になり、仕事上がりにそのままアルバートの部屋へ向かう。呼び鈴を鳴らすが反応がない。時々あることなのでパスを入力して勝手に扉を開けると、アルバートがそれほど広くない部屋の中をあっちへこっちへうろうろしていた。
    「アルバート?」
    「!」
     中に入って声を掛けて、ようやくこちらに気が付いた。飛び上がるように振り向いて駆け寄る。
    「すまない、気が付かなかった。手間をかけた」
    「別にいいけど。どうした?」
     これまで呼び鈴に気付かなかったのは作業をしていたからで、こんな風にうろついていることなんてなかった。いつもなら俺が来れば笑顔を見せるのにそれもない。不思議に思って尋ねてもアルバートは首を横に振る。
    「いや、なんでもない」
    「どう見てもなんでもなくないだろ」
    「う……」
     目を逸らした状態で言われても説得力がない。嘘が下手すぎる。
     誤魔化せないと悟り、俺と床を何度か交互に見てから恐る恐る口を開いた。
    「アーノルドは、その……僕といるのは退屈だろうか」
    「は?」
     昼のチャンドラといい、今日はよく分からないことを聞かれる日だ。
    「どうした、急に」
     またも心当たりのない質問をされて聞き返す。
    「……艦長からメッセージが来た。〝折角オーブに滞在しているのだから、ノイマン大尉に案内してもらったらどうだ〟と」
     明かされた事情に心の中で頭を抱える。そういえば〝みんな〟の中にはコノエ大佐も入っていた。
    「それで、君とどこかへ出掛けたことが一度もないことに気が付いた。恋人になれば普通は二人で出掛けるものだろう。思い返せば僕は君と一緒に居られることに浮かれて自分の興味のある話をするか君を質問攻めにするばかりで君が何をしたいのか確認したことがなかった。だから、もしかしたらこれまでつまらない思いをさせていたのではないかと、思って……」
     アルバートは大佐の言葉を提案ではなく、正しく苦言として受け取ったようだ。肩を落として窺ってくる様子がなんとも心細げで、安心させようと頬に手を伸ばせば擦り寄ってくる。
    「お前、最初にちゃんと話してくれただろ」
     これまで二人で出掛けたことがない理由は大きく分けると二つある。
     一つ目はアルバート自身が見られたくない、ということ。
     以前、仕事上どうしても必要な顔繋ぎの為にパーティーに参加した際、いつもの仏頂面ではまずいと注意されて愛想笑いをしたそうだ。結果、顔繋ぎは上手くいったが他の参加者――女性や、娘を持つ親達に目をつけられ囲まれてしまった。同席していたコノエ大佐の協力で何とかその場は切り抜けたものの、翌日から関わりのない者に声を掛けられたり、仕事用のアドレスにお誘いのメールが来たり、仕事終わりに待ち伏せされたりと散々な目にあい、コンパスへ出向となったことでようやく完全に収まったのだそうだ。以降、普段から関わりのある者以外の前では笑わないと決意した、というのも仕方のないことだと思う。
    ―顔がいいのも善し悪しだよな―
     これまではそれで支障なかったのだが、俺と付き合うようになって問題が生まれた。基本的にアルバートは感情が顔に出る。前述のパーティーの時はかなり頑張っての愛想笑いで、日常的に笑顔になるような性格でもなかった。ところが、俺と一緒にいると嬉しくて楽しくて顔が緩んでしまうのだという。
     そして今回は初めての長期滞在で、周囲に見知らぬ者がいる場合も多い。笑った顔を見られたくない。でも俺といると笑ってしまう。だからなるべく人前で一緒にいないようにしているのだ。
     二つ目はアルバートが俺を見せたくない、ということ。
     恋人を作るどころか恋愛自体未経験、興味なし、むしろ邪魔だと思っていたので当然これが初恋。
     色恋に興味のなかった自分を目覚めさせた程に魅力的な人なのだから、他の人間も惚れてしまうのではないか。特にプライベートで恋人として見せるリラックスした姿は特別で、いつもドキドキしてしまう程だから危ない。誰に横恋慕されても絶対に手放す気はないが、万一自分より上の相手が現れたら奪われてしまうのではないかと心配なのだそうだ。
    ―ないわ……―
     初恋に浮かされて目が曇っているとしか思えない。こちとら外身も中身もごくごく平凡な一般男性である。アルバートと違ってそれなりに恋愛経験はあるが、彼ほど熱烈に口説いてきた相手はいなかったし、複数から言い寄られたこともない。完全に杞憂である。
     そもそもアルバートより上の相手とは一体何者だ。設計局の一つと同じ姓を持ち、コーディネーターからも神と呼ばれ、実績十分でその成果の資産もあり、容姿にも恵まれている。難点の人当たりの悪さも改善しようとしている様子が見られる。あとは社会的地位だが俺に権力志向はない。金や権力に飽かせて……という場合には使えるコネを全て使って抵抗するつもりでいる。
     何より、俺のことが好きで好きでたまらないというのがだだ漏れの目と、一緒にいられるのが嬉しくて幸せなんだと丸わかりの緩んだ顔。これ以上の愛情なんて想像できないし、これ以外欲しくもない。アルバート以上の相手などいるわけがないのだ。
     それでも恋人が不安だと言うのを無下にするほど薄情者ではない。ということで休みの日はどちらかの部屋で過ごすという今の形になったわけだ。
    「確かに一緒に行きたいところもあるけどお前に我慢させてまで行くもんじゃないし、こうして二人でいるのも好きだよ」
     もう少し時間が経ってこの関係に慣れれば気持ちも落ち着くだろうし、お互い納得してのことなのだから問題ない。
    「退屈だなんて思ったこともないから安心しろ」
    「アーノルド!」
     途端に顔を明るくして勢いよく抱き着いてくる。
    「ありがとう、大好きだ」
    「俺もだよ」
     嬉しくなるとくっついてくるのも語彙が単純になるのももう慣れた。あやすように背中を軽く叩いてやれば逆効果だったようで軽々と抱き上げられ、そのままベッドの方へ歩き始める。
    「待て、靴!靴は脱がせろ!」
    「解った」
     右肩に担ぐようにして重さを分散し、左手一本で器用に靴を脱がして床に落とす。自分は雑に脱ぎ捨て、俺を抱えたままベッドに乗り上げると奥の壁を背にして座った。長い脚の間に降ろされたところでアルバートに背を預けるように座り直すとすかさず脇の下から腕が出てきて腹の前で交差する。最近アルバートが気に入っているバックハグの体勢だ。
    「君を退屈させていたら、とメッセージを見てから気が気でなかった。良かった」
    「退屈だったら寝てる。そりゃ、俺じゃついていけない話もあるけどさ。楽しそうに話してるお前を見るのは俺も楽しいよ」
    「アーノルド……」
     また感極まっているらしく腕に力が入り、頭が首元に埋まる。その柔らかい金髪を撫でてやれば頬に頬を擦り寄せてくる。
    ―犬っぽいんだよな、こいつ―
     俺を見つけると目を輝かせて寄ってくる、嬉しいと抱き着くし擦り付く、撫でられるのが好き、などなど。全部顔に出るのもそれっぽい。
    ―自分よりでかい年上の男が可愛く見えるんだから俺も大概だよな……―
     ふわふわした感触を楽しみながら苦笑する。全身で好きを表現するアルバートもだが自分もなかなかに重症で、そろそろ尻尾の幻覚でも見えそうだ。
     ちなみに。現在俺をぬいぐるみのように抱きかかえてご満悦のアルバートくんとは、テイクアウトした夕飯を一緒に食べた後、それぞれシャワーを浴びて並んで眠る予定になっている。
     そう、実はアルバートが初心過ぎて、まだ唇へのキスもしていないのである。チャンドラに聞かれて具体的に答えられなかったのはそのせいだ。三十前後の男二人が密室にいるのに引っ付いておしゃべりしているだけなんて、こっ恥ずかしくて言えるわけがない。
    ―まあ、あいつが納得したなら大丈夫だろ―
     少ないとはいえ人目のある食堂でのやりとりだったし、これ以上大きな噂にはならないはずだ。今回は本格的にアルバートに悪いイメージが付く前に聞いてもらえて助かった。
    ―確かになぁ、周りからはそう見えるか……―
     アルバートと長い付き合いであるコノエ大佐でさえ気にしていたくらいだから、今の様子は誰にも想像がつかないのだろう。考えてみれば、俺も初めの頃はもっとあっさりした付き合いを想像していた。慣れとは恐ろしいものである。
     ただ、慣れたからこその問題が一つ。
    「…………」
     寄り掛かっている背に感じる、弾力のある柔らかさ。技術大尉という階級のイメージと異なりきちんと筋肉が付いている気配がある。手の甲も筋張っているし、腹に回っている前腕もそれなりに太い。
    ―無いからどうってわけじゃないが……やっぱりある感じだよな―
     成人男性を軽々と抱き上げ、短時間とはいえほぼ片腕だけで支えていたことを考えれば腕力は十分。ハグした感じも決して薄くない。そして肩幅に比べるとウエストはそこまで違わないので、案外締まった身体をしているのでは。
     あのおキレイな顔に鍛えられた肉体が繋がっていたら。かっちりした制服の下にバキバキに割れた腹筋が隠されていたら。その凹凸に沿って汗が流れ落ちる様はさぞかし……。
    「アーノルド?どうかしたか?」
     いつの間にか手が止まっていたらしい。
    「……良い恋人持ったな、って」
    「君がそう思ってくれるなら生きてきた甲斐があった」
     適当なごまかしを全力で打ち返され苦笑するしかない。
    「さすがに大袈裟だろ」
    「本当だ。アーノルドに出会えたことは僕の人生で最大の幸福だ。疑問の余地があるのならば今日はその点について説明しよう」
    「分かった分かった。疑ってはいないから」
     アルバートの説明は細かい。いつもの調子で語られては堪らないので何とか意識を逸らさなくては。
    「……俺もアルバートに出会えて幸せだよ」
     囁いて頬に口付ければ空色の瞳を真ん丸にして固まった。顔は真っ赤になり、頭はきっと真っ白だろう。
     チャンドラの心配が現実になることはなさそうだ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💞💞💞💘💙💚🇱🇴🇻🇪💝💖💖👏💝💖💖💖💖💖💖💖💞💯☺💞❤💞❤❤💖💖👏👏❤❤❤👏💖💞💖💖💖💖💖💖💖💖💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works