初対面 生来抜けたところがある。普段なら体格の良いルガディンなので注意していたが、油断してしまっていた。マーケットボード横に立っていたララフェルが知人に似ていたのでそちらに気を取られている内に、肩にトン、と何かがぶつかった。それがマーケットボード前に立っていたアウラの肩だと認識するより先に、ドスの効いた声で怒鳴られる。
「ドコ見て歩いてやがんだクソがッ!」
サングラス越しに鋭い三白眼で睨みつけられ、余所見をしていた後ろ暗さや自身の非もあり反射的に謝罪する。冒険者らしく、素早く避ける間もなくネクタイに掴み掛かってこられた。こちらを威嚇するように覗き込んできた彼の口が開く。
「デケェ図体して、」
重なるように響いた重量級の腹の虫にかき消されたが、その部分だけは聞き取れた。空腹で苛立っている所に鈍臭いルガディンにぶつかられたら、それは気分を害しただろう。両手を軽く上げて害意がないことをアピールしながら、あの、と遠慮がちに切り出してみる。
「もし良かったら、何か食べに行きませんか?」
美味い店を知ってるので、と付近でヴィエラに連れて行かれた店を思い出しつつ提案すると、一瞬動きを止めた彼が大きな舌打ちと共に胸元の手を離してくれた。
「テメェの奢りなら付き合ってやらァ」
ぐぅ、と間延びした腹の虫と共にじとりと睨み付けてこられる。少し雰囲気が和らいだように見える彼が、満足できる味とボリュームの近場の店に思い至りルガディンは安心したように息を吐いた。いつの間にか彼の頭上に止まっていた雀はそんな一部始終を微笑ましく見守っていた。
とりあえず酒と肉なら外さないだろう、と美味いそれらを提供していた酒場にアウラを誘ったのは間違いではなかったようだった。流れるようにジョッキを煽り両手にジャーキーなどを忙しく掴んで口に運んでいる様子から、相当な空腹だったんだろうと察する。彼の食べるスピードや表情から口に合ったようで安心したように、ルガディンもソフトドリンクのグラスを傾けた。
「ん」
皿の上の燻製盛り合わせを平らげた彼が何かを放って寄越してきて、反射的に受け取ってしまう。手の中で彼のトームストーンが振動していた。着信に出ろ、という意味だろう。トームストーン越しの不安気な相手の声にあの、と応じる。
「すすすすすみません!!ウチの31歳児がご迷惑をおかけして!!」
立板に水というのか流暢な謝罪に面食らう。目の前で骨付き肉に手を伸ばす彼の威圧感などから勝手に歳上だと思い込んでいた点を反省しながら、こちらにも非がある旨を伝える。
「すぐお迎えに行くのでッ!!本当に申し訳ありませんでした!!」
「ァ……いえ、保護者の方と連絡取れて、私としても安心しました」
丁寧な相手の言動に釣られてこちらの背筋も伸び、見えてはいないだろうにお辞儀までしてしまった。今すぐ行きます、と通信が切れたトームストーンを彼に返す。受け取ってから乱雑に片付けた彼が、メニューを指差してきた。先程も頼んでいたはずのこの店名物のステーキが記されており、おかわりを要求されているらしい。先程耳にした31歳児という表現がなぜかしっくりくるような、愛嬌さえ感じられるような彼なりのおねだりに苦笑して頷いた。嬉しそうに口角を上げた彼が店員に手を振る。迎えが来るまでにメニューの大半を制覇されそうだなと、財布の中身を思い出しながら彼の保護者を待った。