口付 ルガディンの口元をヴィエラの指先がなぞる。目を閉じてされるがままの彼から手を離した彼女がむぅ、と呟いて鞄の中を漁った。目を開いた彼が鞄から取り出されたポーチ内を探る彼女の指先を眺めていると、まだダメだよ、と彼女が悪戯っぽく笑う。小さく溜息を付いて肩を竦めた彼が目を閉じて少しすると、唇に柔らかな何かが触れた。唇をなぞる柔らかな感触の正体を予想しながら、彼女の動きが止まるのを待つ。
「……リップクリーム?」
動きを止め口元から離れたものの正体を告げて目を開く。当たり、とにんまり口角を上げた彼女がリップクリームの蓋を閉じていた。微かに漂う香りと口元の質感に違和感を覚えつつ、彼は数回頷く。荒れていたか、と独りごちた彼に割とね、と返した彼女がポーチを鞄に仕舞う。
「ちゃんとケアしないと痛いよ?」
歌うように諭してきた彼女に善処する、と答えると、こちらを振り返った彼女が続ける。
「そっちも、こっちもさぁ」
そういう意味か、と苦笑した彼の首に腕を回した彼女が笑って顔を近付けてきた。