年齢 変わらないな、とルガディンが掠れた声で呟いた。微かに白色が混じった黒と赤の彼の頭を見上げたヴィエラは嫌味?と悪戯っぽく笑う。
「いつまでも綺麗って事だ」
「そんなこと言えるようになったんだ……!」
恥ずかしげもなく言い放たれた言葉に絶句している彼女を、楽しそうに彼は笑った。目を閉じた彼が外した眼鏡のレンズを拭う。とうとう伊達ではいられなくなった、と彼が笑っていたのは何年前だったか。彼の顔に刻まれた皺は深いが、その中に刻まれているものが苦難だけではないと彼女は知っている。
「そっちは増えたね、白髪」
「ロマンスグレーとか言うやつだ」
悪くないだろう、と微笑んだ彼に彼女はつい吹き出してしまう。
「誰かさんみたいに染めないと駄目か?」
「あ、またそういうこと言う」
彼の太腿を軽く小突く。再度彼の頭を見上げ、見えないからわかんない、と彼女は唇を尖らせた。こうしたらいいか?と座り込んだ彼の脚に腰を下ろし、向き合う形で彼を頭上から見下ろした。まだ大丈夫じゃない?と頭を撫でた彼女にそうかと彼は頬を緩める。
「家系的に髪には恵まれているからな。色とか薄くなったりしにくいとは思う」
遠くを見つめながら彼が独りごちた。冒険者として生きている内に、親族よりも彼女と過ごしている時間の方が長かった気がする。大変ではあったけれど、楽しい時間だった。
頭頂部から自身の頬に移ってきた彼女の手を取る。白く柔らかく、滑らかな手を辿って彼女の顔を見つめる。端正な顔立ちも手と同じ感触の肌も昔と変わらないように感じた。初めて会った時には綺麗で大人びて見えていたが、こんなに幼く可愛らしく見えるようになったのはいつからだっただろう。彼女の頬を両手で包み込む。じっと何かを期待するような目で見つめてきた彼女の額に、自身の額を押し付けた。
「少しは追いつけただろうか」
「とっくに追い越されてるよ」
小さく呟き目を閉じた彼に、彼女が笑って返した。