湯浴 グリダニアで用事を済ませたついでに、久々にヴィエラの家に向かっている時だった。ぽつりぽつりと降ってきた滴がやがて大雨になる。チョコボに跨ったルガディンは空を見上げ、小さく溜息を吐いてチョコボにレインコートを被せた。
「え、そのまま来たの?」
ずぶ濡れの彼が扉を開けると、たまたま室内に居た彼女が困惑した表情を浮かべた。頷いて答えると風邪引くよ、とタオルを渡される。
「身体は丈夫だからな」
タオルを頭に載せ、荷物が濡れていないか確認している彼にそういうわけじゃなくて、と彼女が手を伸ばした。
「心配してるんだよ」
心配。自身から程遠い言葉を投げかけられ、一呼吸置いてから彼はそれは悪かった、と謝る。
「まぁここなら風呂もあるからいいかと思ったのもあるが」
持ち歩いていた砂糖や小麦粉が濡れていない事を確認し、安心しながら呟いた彼が顔を上げると既に彼女の姿はなかった。少し声を張り上げ風呂を借りても良いか了承を得ると、地下からいいよぉ、と同じくらいの大きさで返される。床や家具を濡らさないよう気を付けながら、地下へと向かう。
「お湯、張っといたよ」
耳を揺らして自作のユニットバスから出てきた彼女がにっこりと微笑んだ。礼を述べ、浴室のドアを閉める。溢れないよう適度に満たされた湯に浸りながら、思わず彼は声を漏らした。
「湯加減どう?」
「ばっちりだ」
歌うように確認してきた彼女に上機嫌で返すと良かった、とドア越しに聞こえる。声が近いな、と思った瞬間、
「お邪魔しま〜す」
開いたドアからバスタオルを巻いた彼女が乱入してきた。お前は何を、と声をかけるより早く流れるような仕草でタオルを解き、浴槽内の彼の足の間に彼女はすっぽりと収まる。
「狭くない?」
「それよりも気にすることがあるんじゃないか?」
見上げて来た彼女から目を逸らすよう天井に視線を向けた彼が問い返す。今更でしょ?と首を傾げてから、ふふ、と楽しそうに彼女が笑った。
「お湯張ってる内に入りたくなって、そっちの声聞いてたら一緒に入りたくなっちゃったから」
聞いてもいないのに理由を述べられた。それを言うのはずるいだろう、と天井を見上げたまま顔を覆った彼は溜息を吐いた。