新しい命──────繋がりが欲しかった。
単純に身体の繋がりじゃない。
もっと深く───まあそうだ、端的に言えば
…この男の遺伝子が欲しかった。
オレの身体は、寝ても覚めてもずっとルークを求めていたんだ。
「ジェイミー…ゴム取ってくれるか」
「ん…ちょっと待ってな。」
オレの長い髪を掻き分けて、うなじに優しく、
そして執拗にキスを落とすルーク。
そういうのは好きな奴だけにしとけ…って
何回も言ったんだけどな。一向にやめないもんだから、今は諦めてる。
ルークに…好きな男にキスされると、ゾクゾクする。こんな憎たらしいゴムなんか投げ捨ててもっともっと深く繋がりたいって…そう、思ってしまう。
ちょっとした出来心で、オレは先程まで辮髪を纏めていたネジピンの先端を…スキンに突き刺した。
「おっ…着けてくれんだ?」
「へへ、好きだろ?こういうの。」
咥えたゴムを、するすると唇で根元まで下ろして、そのまま少しフェラチオしてやる。
「ん…ジェイミー、もう良い…続きしよう」
「ああ…いいぜ…来いよ…♡」
何度も腰を打ちつけて、舌を絡めてキスする。
こうしてSEXする、この瞬間だけはルークが
オレの物になったみたいで…胸が熱くなる。
「ジェイミー…っ出る…っ♡」
「来い…♡一番奥で…♡♡あっ…ぁ♡♡♡」
何となくいつもより熱く感じた気がした。
萎んだそいつに纏わりついたゴムをさりげなく
ティッシュに包んでゴミ箱に投げる
「はぁ…ジェイミー…ジェイミー…♡♡♡」
「ん…♡気持ち良かったぜ…ルーク…♡」
低くて掠れた甘ったるい声で名前を呼ばれる。
恋人みたいに錯覚してはイタい自分を嫌悪する
いつも通りだ。いつもと一緒。
「…嘘だろ」
あの一回で…?
どんだけの的中率だよ。っつーか、普段ちゃんと避妊出来てたって事だ…すげーなゴムって。
孕んじまった後のオレの行動は早かった。
紅虎路の事を大姐に任せて、街のイザコザはエドに一応声掛けた。あいつは面倒だのクソだの
口は悪いが意外と善人なんだ。勿論、ラシードにも事情を伝えて(ガキが出来たことは…言わなかったけど) 皆と最後の別れを惜しんだ。
ルークは……ルークには、会えなかった。
マタニティブルーってやつ?
よくわかんねぇけど、ルークの事を考えると…胸が苦しくなって、言葉が出ない。
あいつの働くバックラー社を眺めて…とうとうあの重たい扉をノックする事はできなかった。
あんなに気軽に何回も遊びに行ってたのにな。
「あばよ…もうこの街には来ない…よなぁ。」
澄んだ空を見上げる。メトロシティを、こんな風に見上げたの初めてだ。オレが眺めてたのはずっと夜の景色で…日中はゆっくりこの街を
眺める機会なんて無かったからなぁ。
今更惜しくなったってしょうがない。
オレは新しい命と、新しい街で、ゆっくり暮らすんだ。子供が大きくなったら…一緒にトラブルバスターやってもらおうかな。なんて…まだ
性別もわかってないのに、呑気に腹を撫でた。
ジェイミーが俺の前から忽然と姿を消して、
5年が経過した。
春麗やラシード、エド、マスターズ、サー、それから……ああ、数え切れない。当てつけみたいに俺以外の全員に、別れを告げて出ていったらしい。
俺は…ジェイミーの事がこんなにも好きなのに
ジェイミーはそうじゃ無かったんだと思うと…
悲しいとか悔しいとか、もうそれを通り越して怒りすら湧いて来る。どうしてだジェイミー。
俺を嫌いになったのか?俺以外に好きな奴が
出来たとか?俺らさ、ラブラブだったじゃん。
情報屋、探偵、そういったものを頼っても…
何処かで情報がブロックされているかのように
ジェイミーの居所は掴めなかった。でもやっと
依頼した内の1人がそれらしき情報を掴んだ。
俺は連休を取って飛行機で1時間半の場所へと向かった。この街で、あいつが見つかれば
良いんだけど…地図とスマホのメモを頼りに
目印の公園を探す。はしゃぐ子供達の声の中、
よく通る愛しいあの声が混じっていたのを、
俺の耳は聞き逃さなかった。
「おい!ジェイク!あんまり走ると転ぶぜ!」
「きゃ〜っ!!妈妈!!」
「うりゃっ、捕まえたぁ!」
「きゃあ〜!!」
「ん〜、この!悪ガキめ!」
「やぁ〜っ!」
ジェイミーは…ママ?…ママっつったよな、
あの子供…?は?…?……えっ?
その場に倒れ込みそうになって、リュックを
地面に下ろした。なんか眩暈がする。
なんだこれ?なんだ?何なんだ。ママ…?
あの子供、ジェイミーには似ても似つかない、
ブロンドの髪の色で…遠くてよく見えないけど
顔は?顔…俺は確かめなくちゃいけない。
ジェイミーを孕ませたのはどこのどいつだ。
許せない。