酒乱の鬼先天鬼パロのルジェです。
盗賊仲間がやられていく。
「おい!斧を持て!全員でかかれ!」
「ダメだ、歯が立たない!」
「死にたくない!!」
鬼との戦で何度も逃げ延びた臆病で腰抜けの俺は、林に隠れながら
奥の岩場で横たわり酒を呑んでいる線の細い鬼を観察した。
戦いになんてまるで興味が無いみたいに、ひたすら村人から奪った酒を飲んでいる。
鬼の周りには空き瓶が10数本転がっていた
あいつが戦っているところを俺は一度も見た事がない。
前線では大柄な鬼が嗤い声を上げながら人間をぶん投げている。
思い切り殴られ骨を砕かれた者、岩に打ち付けられ気絶した者、川に投げ込まれ流されていく者、辺りは阿鼻叫喚だ。
雑木林の中を掻き分け、密かに鬼の背後に回り込む。
髪の長い鬼は、その辺の藪から千切った草筒を酒瓶に差し込み、ちうちうと酒を啜ってはニンマリ笑っている。
「ぶはぁ…堪んねぇ、ヒッく…やっぱりこの村の酒は極上だなァ〜…ひっく。…んふふふふっ…善〜い、気分だぁ…うっく…」
掌に乗せた蛙相手に、にこにこと微笑み話しかけながら
一人でひたすら酒を飲む、黒髪の鬼。
近付いてまじまじと観察すると、線が細いなんて事は全くなく、こいつも筋肉質で強そうだ。
奇襲をかけて一撃でやるしかない。
「覚悟…ッ!!」「あっ?」
俺の振り上げた刀が鬼に襲いかかる
刀は、すんでのところで止められた
「オレがぁ、酔っ払ってっから弱いと思ったなぁ?人間は本当に馬鹿で可愛いもんだ…ひっく」
乱暴に刀を振り落とされたのち、
鬼が覆い被さってきて身動きが取れない。
不謹慎だが俺は、つい、その人間離れした美しさに目を奪われた。
紅を引いた唇、吊り上がった目、赤く上気した頬…まるで姫君を思わせるような美貌。
「重たいだろお、鬼はな、人間なんかよりずぅーっとな、ヒック、力持ちなんだぞぉ。」
「くっ…!は、離せ!」
「離したら殺そうとしてくるだろ、にゃははッなぁおい、お前の血肉は…ひっく…どんな味がすンだろなぁ〜?」
鋭い爪で針のようにぷつ、ぷつと
胸部の皮膚に小さな穴をあけられる。
「んべ…鉄の味!鬼に喰われながら死ぬのは苦しいぜぇ?…ひゃはっ…いただきまー…ぐぇっ」
「杰米!!お前!!そんな物食うな!!」
「んあ卢克…もう終わったのかよぉ。」
「テメェ、杰米にちょっかいかけられやがって…ブッ殺す!!!!」
視界が回ったかと思えば次の瞬間、俺は滝にぶん投げられていた。こんな死に直面したのは生まれて初めての事だった。
必死で泳いで逃げ延びて、そして二度と鬼の出る村なんか襲わないと誓った。
「ジェイミー!!何でお前、襲われたらすぐに俺に言わないんだよ!」
「ん〜、オレさま子供じゃないぜえ、ひっく」
「子供じゃなくても!お前は俺の物だ!!俺の許可無しに人間の血を啜るなんて許さないからな!!」
「おお、怖い怖い。なぁに怒ってんだか、なぁ?」
ゲコッ。蛙が返事をする。
気が済んだので川のその辺に蛙を放った。
泳いで去っていくのを眺め、ため息をひとつ。
「…さて、うるさいルークのせいで酔いも覚めちった、オレも帰ろうかね。」
「あっ、おい。待てよ話は…」
「あーあー聞こえない。お説教は勘弁してくれよなぁ」
「おい!言い過ぎたなら謝るから!ジェイミー!」
「うるせえよ、黙れっての。」
「ごめん、本当ごめん!謝るから!仲良く一緒に帰ろうぜ!」
「わーかったよ!!うるさいっての!黙れ!」
ぎゅ、返り血に濡れた手を握ると、安堵の表情を浮かべるルーク。
「…お前は、まるで赤子だな。オレがママみたいだ」
「お前に冷たくされるのは耐えられないんだよ」
「はいはい。ママと一緒に帰ろうなぁ。」
大量の酒を荷車にのせ、それを片手で牽くルーク。力仕事はこいつの担当だ。
「帰ったら一緒に酒、のもうなぁ、ルーク。」
「おま…まだ飲むのか。」
ルークは呆れ笑いしながらオレの額にキスした。
終劇