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    mahoy_asa

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    mahoy_asa

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    16年かけてくっつく曦澄4話目。
    あの日の約束を持ち出す曦臣と、押しに弱い江澄。

    #曦澄
    #MDZS

    曦澄④「雲夢の蓮の景色は、どんな絶景にも負けないと魏公子が自慢げに話しているのを聞いて、是非見てみたいと思っていました」
    「……そうですか」
    「彼はよく雲夢のことを話してくれます。名所や銘菓の話から、幼少期に貴方と二人で壁に描いた落書きの話、師姉殿の作ってくれたスープの話まで……」
    「なっ…それは失礼した。アレは非常識なやつだから、話すべきこととそうじゃないのとの区別がつかんのだ」

     魏無羨のやつ!と叫び出したくなるのをやっとの事で堪えた。蓮花塢を褒めるのはいいとしても、過去のあれやそれをよりによって藍曦臣に話しているとは。幼き日の話をされる恥ずかしさはもちろんあったが、それ以上に興味のない話でも無碍にすることもできずに聞いたであろう藍曦臣の心情を思えば申し訳なくなった。

    「いえ、私の方が頼んだんです。彼の話はいつも面白くて聞いているだけで楽しくなります。……幼き日の話をたくさん聞いたこともあって、雲夢や貴方に勝手に親近感を覚えてしまいました」
    「……アレの話は半分以上嘘だと思って聞いてくれ」
    「はは、じゃあ江宗主は船の上に寝転んでぼんやりして過ごすのが好きというのは嘘ですか?」
    「……嘘だ」

     たしかに昔は好きだった。一人で船に乗ることも無くなって長いので、そう答えることにした。
     魏無羨の知る過去の自分と、今の自分は随分変わった。

    「なんだ、そうなのですか。一緒に寝転がってみようと思ったのに」

     藍曦臣は残念そうにいうと、江晩吟の返事も待たずに櫂を船に立てかけ、その場に寝転んだ。突然のことに船が揺れ、江晩吟は慌てて船の淵を掴む。

    「こんな汚いところに横になったら、服が汚れるぞ!」
    「構いません。服の汚れなど洗濯すれば落ちますから。それよりとてもいい天気で気持ちがいい……せっかくだから、隣に来ませんか?」

     小舟とはいえ、門弟達が宗主のためにと用意した船はそれなりの大きさがある。大の男が一人横になっても、隣には十分なスペースがあった。

    「……」

     断るのは簡単だった。
     けれど、せっかく楽しそうにしているところを台無しにしてしまうのも申し訳ない気がして、江晩吟はどう答えるべきか一瞬言葉に詰まった。聡明な沢蕪君がその迷いを見過ごすはずもなく、気がつけば腕を引かれていた。

    「おいっ」

     細腕に見えて驚くほど力が強い。有無を言わせぬまま藍曦臣の肩に頭を乗せるようにして隣に寝転ばされていた。いきなりの接触に慌てて顔を上げる。添い寝のような体制を意識しているのは自分だけだったようで、真隣の藍曦臣は気持ちよさそうに目を閉じていた。

    「蓮の芳香に癒されます」
    「……それはよかった」

     抵抗するのも馬鹿らしくなり、江晩吟はその場に寝転んだ。
     寝転ぶとせっかくの蓮は見えなくなるが、その分甘い香りが際立って感じられるから不思議だった。青い空に流れる雲を眺めていると、穏やかな時間の流れが感じられて確かに気持ちがいい。
     こんなふうに過ごす昼下がりがあっても、たまには悪くないかもしれないと思う。

    「江宗主……ひとつ、お願いがあります」
    「なんだ?」
    「手を……握ってもいいですか」

     空をぼんやりと眺めていたところで、藍曦臣がおかしなことをいう。揶揄われたのだと思い睨みつけたが、藍曦臣は今までに見たこともないような真剣な顔をして江晩吟を見ていた。それがどうしてか、一縷の望みに縋り付く迷子のように見えて、江晩吟は否定の言葉を失った。

    「……それが客人の望みなら、叶えないわけにもいくまい。……好きにしろ」
    「ありがとう」

     誰に向けたともしれない言い訳を重ねた了承に、藍曦臣はホッとした顔をして微笑んだ。そうして、寝転がる江晩吟の手のひらに自分の手のひらを重ねる。
     誰かと身体を触れ合わせることなどなかったせいで、大きく骨張った手に手が触れた瞬間思わず体が強張った。藍曦臣の手は、何かを確かめるようにしばらく江晩吟の手の甲を撫でていく。感触がしっくり来るかを試しているかのような動きに、江晩吟の方が緊張してしまった。
     しばらくそうした後で、手のひらが江晩吟の手を包み込んだ。江晩吟から握り返さなかったから、手を繋ぐというよりは手を握られたという表現がピッタリ来るふれ方だった。

    「しばらく、このまま……」

     藍曦臣は満足そうにそういうと、ゆっくりと目を閉じた。

    「おい…?」

     思うままにさせていたが、藍曦臣が静かに寝息を立て始めた時にはさすがにギョッとした。手を繋いでからまだ10分も経っていない。

    「どうなっているんだ…」

     まさかそのまま寝るとは思っていなかった。説明もなく手を握りそのまま碌に話すこともないまま眠るとは、いくらなんでも無作法だ。ぞんざいに扱って起こしてやろうと思ったが、藍曦臣があまりにも心地よさそうに寝ているせいで気が削がれた。
     夜狩の帰りとも言っていたから疲れているのかもしれない。起こすのは忍びないだろうと結論づけて、その代わりにすうすうと規則正しい寝息を立てる顔をじっと眺めて時間を潰すことにする。
     人の美醜にさほど興味のない江晩吟ですら目の前の男が美しいのはわかる。長いまつ毛、高い鼻梁、毛穴ひとつ見当たらない滑らかな頬、薄く小さな唇。どこをとっても非の打ちどころの無いパーツが、絶妙なバランスで配置されている。顔の作りは藍忘機と瓜二つだが、眠っていても醸し出す雰囲気の違いはわかる。

    「呑気なもんだな」

     姑蘇藍氏の宗主藍曦臣のここまでの無防備な姿を見たことがあるものなど、世の中ひろしと言えどそうはいないだろう。そう思うとなんだか悪くない気分だった。


    「江宗主、江晩吟……起きてください」

     肩を揺すられながら名を呼ばれてゆっくりと目を開ければ、美しい顔をした男が自分のことを覗き込んでいる。一瞬何が起きたか分からずに目を見開いたが、すぐに先ほどまでの出来事を思い出した。どうやら自分まで船の上で寝てしまったらしい。
     どのくらいの時間寝ていたのか。高いところにいた太陽はすっかり沈みかけていた。

    「もうすぐ日暮れのようです。戻らないと貴方の師弟達が心配するのでは」
    「……ああ」

     そうだなと身体を起こしかけて、いまだに手が握られたままなことに気がついた。久方ぶりの接触に改めて心臓がおかしな音を立て始める。
     江晩吟の視線に気がついた藍曦臣は「失礼」と短く詫びて、手を離した。その仕草がびっくりするほど名残惜しそうで、江晩吟は思わず小さく笑った。

    「沢蕪君と名高い藍の若君は随分と人恋しいんだな」

     からかうつもりで、軽く言っただけなのに、その言葉を聞いた瞬間、藍曦臣の顔から表情が消えた。何か地雷を踏んだしまったのかと考えて、そういえば男がつい最近まで閉関していたことを思い出した。

    「その通りです」
    「藍宗主、すまない。あんたを貶めるつもりはない」
    「……わかっています」

     気まずい沈黙が流れた。失言で相手を侮辱してしまうことも多い江晩吟だが、そんな時に怒らずに悲しい顔をされるとどう反応していいか分からなくなる。何も言わないまま、藍曦臣のそばに立て掛けられていた櫂を奪い、蓮花塢に向かって漕ぎ出した。

    「江宗主」
    「……なんだ?」
    「貴方のいう通りです。私は、寂しい。寂しくて、つらくて、時々全てを投げ捨ててしまいたくなる」
    「……」
    「江宗主、江晩吟…今日は貴方に頼みがあってここにきました」
    「なんだ?」
    「時々でいいので、今みたいに手を握らせてもらえませんか」
    「……は?」
    「あの日から、うまく眠れないんです」

     あの日というのが観音堂での一件を指すのだと、鈍い江晩吟にもすぐにわかった。
     観音堂での一件はすぐ隣で見ていたから、藍曦臣がどんな目にあったのかを聞かなくても知っている。義弟が義兄を謀り、その義弟を自らの手で下した。事件直後、全てを失ったの藍曦臣の表情は悲壮そのものだった。

    「全く眠れないというわけではないんです。でも、一人になるとあの時のことが思い出されて、夢でまたあの体験をするかもしれないと思うと眠るのが怖くなる」
    「……」
    「初めは別に眠れなくても良いと思い、霊力で疲労を軽減させてなんとかここまでやってきました。しかしいつか宗主として重大な失敗をするかも知れない。このままではいけないと、最近になってやっと思えるようになり……誰かに相談するなら、貴方がいいと今日ここへきたのです」

     行くべきか行かぬべきか最後まで悩んで、夜狩終わりに勢いで蓮花塢まできたのだという。
     藍曦臣の話は理解できた。
     たしかにいかに霊力が高いとはいえ、不眠のまま仕事をしていればいつか大きな失態を犯すかもしれない。誰かに相談して気が晴れるなら、そうした方がいい。
     そこまではわかるけれど、その相手が自分だというのが解せなかった。
     事件後、藍曦臣が閉関し世を偲んでいると風の噂で聞いた時、あれだけ傷付けばそうなるのかもしれないなと思った。彼ーー金光瑤の死は、藍曦臣にとってはそれほど重いものだったのかと胸の内にどす黒い何かが湧き上がりそうになるのが怖くて、なるべく彼の話が耳に入らないようにしてきた。
     一年ほどたって宗主として再起したと聞いた時ですら、彼の容態については深く考えないように心がけた。他人にかまける暇のなどなかったし、自分にはもう関係のないことだと思った。

     藍曦臣の真意を掴もうとしてその表情を眺めながら、今更になって事件以前の彼よりも、目の前の男は少しやつれていることに気がついた。先日会った時は魏無羨の道侶騒ぎに気を取られそんなことにすら気づかなかったのだ。こんなに鈍感な自分に、私事の秘密を話す理由がわからなかった。

    「……俺以外にも適任がいるだろう」

     取り繕っても仕方がないので、そのまま尋ねてみる。藍曦臣は困ったように眉を下
    げながら笑った。

    「……苦しくて仕方ない時、昔あなたと話したことを思い出しました。覚えていますか?私が苦しい時には、あなたが手を握ってくれると言ったことを」
     
     覚えている。
     彼が自分を支えてくれた時、どうにか恩を返したくて子どもじみた提案をした。

    「すまないが、覚えていない」
    「……そうですか」

     覚えている、と認めてしまえば、自分の中の気持ちも一緒にこぼれ落ちそうで、江晩吟はわざとぶっきらぼうに答えた。藍曦臣が傷ついた顔をしたことには気づかないふりをする。

    「あなたが覚えていなくても、私にとってあの言葉は支えでした。実際、先ほど、本当に久しぶりによく眠れました。貴方にこうして手を握ってもらえれば、これからも眠れる気がします……」
    「船の揺れが気持ち良かったからかもしれないぞ」
    「いえ、確かにあなたのおかげです。だから……お願いします。お互いの立場上頻繁にとはいかないでしょうけれど、あなたさえ良ければ時々、私に付き合ってください」
    「……」
    「理由が必要なら、あの時のお返しをしてください」
    「……案外卑怯な物言いをするんだな」

     そんなふうに頼まれて、断れるはずもなかった。
     藍曦臣がいう「あの時」が何を指すのかはわからない。静心音のことか、それとも抱いてもらった時のことか。どちらにせよ、それを言われれば江晩吟に返せる言葉は一つしかない。

     江晩吟は小さく頷いて、すっかり止まっていた船を漕ぐ手を再開する。動き出した船の上で藍曦臣は「ありがとう」と笑う。その笑顔が自分に向けられているのだと思うと、なんだか無性に気分が良かった。
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    PROGRESS恋綴3-2(旧続々長編曦澄)
    転んでもただでは起きない兄上
     その日は各々の牀榻で休んだ。
     締め切った帳子の向こう、衝立のさらに向こう側で藍曦臣は眠っている。
     暗闇の中で江澄は何度も寝返りを打った。
     いつかの夜も、藍曦臣が隣にいてくれればいいのに、と思った。せっかく同じ部屋に泊まっているのに、今晩も同じことを思う。
     けれど彼を拒否した身で、一緒に寝てくれと願うことはできなかった。
     もう、一時は経っただろうか。
     藍曦臣は眠っただろうか。
     江澄はそろりと帳子を引いた。
    「藍渙」
     小声で呼ぶが返事はない。この分なら大丈夫そうだ。
     牀榻を抜け出して、衝立を越え、藍曦臣の休んでいる牀榻の前に立つ。さすがに帳子を開けることはできずに、その場に座り込む。
     行儀は悪いが誰かが見ているわけではない。
     牀榻の支柱に頭を預けて耳をすませば、藍曦臣の気配を感じ取れた。
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    PROGRESS長編曦澄17
    兄上、頑丈(いったん終わり)
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    「あなたは怪我人なんだぞ、勝手に動くな」
     かくいう江澄もまだ左手を吊ったままだ。負傷した者は他にもいたが、大怪我を負ったのは藍曦臣と江澄だけである。
     魏無羨と藍忘機は、二人を宿の二階から動かさないことを決めた。各世家の総意でもある。
     今も、江澄がただ水を取りに行っただけで、早く戻れと追い立てられた。
    「とりあえず、水を」
     藍曦臣の手が江澄の腕をつかんだ。なにごとかと振り返ると、藍曦臣は涙を浮かべていた。
    「ど、どうした」
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    「見ての通りだ。もう左腕も痛みはない」
     江澄は呆れた。どう見ても藍曦臣のほうがひどい怪我だというのに、真っ先に尋ねることがそれか。
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    PROGRESS恋綴3-5(旧続々長編曦澄)
    月はまだ出ない夜
     一度、二度、三度と、触れ合うたびに口付けは深くなった。
     江澄は藍曦臣の衣の背を握りしめた。
     差し込まれた舌に、自分の舌をからませる。
     いつも翻弄されてばかりだが、今日はそれでは足りない。自然に体が動いていた。
     藍曦臣の腕に力がこもる。
     口を吸いあいながら、江澄は押されるままに後退った。
     とん、と背中に壁が触れた。そういえばここは戸口であった。
    「んんっ」
     気を削ぐな、とでも言うように舌を吸われた。
     全身で壁に押し付けられて動けない。
    「ら、藍渙」
    「江澄、あなたに触れたい」
     藍曦臣は返事を待たずに江澄の耳に唇をつけた。耳殻の溝にそって舌が這う。
     江澄が身をすくませても、衣を引っ張っても、彼はやめようとはしない。
     そのうちに舌は首筋を下りて、鎖骨に至る。
     江澄は「待ってくれ」の一言が言えずに歯を食いしばった。
     止めれば止まってくれるだろう。しかし、二度目だ。落胆させるに決まっている。しかし、止めなければ胸を開かれる。そうしたら傷が明らかになる。
     選べなかった。どちらにしても悪い結果にしかならない。
     ところが、藍曦臣は喉元に顔をうめたまま、そこで止まった。
    1437

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