鯉の導く先これは夢なのかと疑うほど自分の意識ははっきりしていた。だが、辺りは真っ黒で何も見えない。しかも、目の前にいる男はかつて拳を交えた兄弟でありライバルで、己へのケジメをつけるために死んでいった筈だった。
それなのに何故、自分の前に立っているのだろうか。前と変わらぬ姿で。
死人が夢に出てくる時、生者に訴えかけたい事があるのだといつぞやの占い師が言っていたのを思い出した。
「兄弟」
男ははっきりと声に出して言った。真っ直ぐ、尚且つ鋭く自分を見据える目は死しても変わっていない。
「錦、なのか…」
「寝ぼけてるのか?」
フン、と馬鹿にしたように鼻で笑う錦山。オールバックにした髪を撫でるようにして自分に向き直るとニヤリと口を歪ませた。
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