ハイスピードラブソング/ルクジェミ「フラれた……」
「……は?」
心底訳が分からないと言う表情で短く聞き返してきたジェイミーに、俺だって分からねえよと言いたくなる。ああもう、泣きそうだ。
「フラれたって、……先月付き合い始めたって言ってたあの娘だよな?」
「……うん」
「上手くいってるって言ってたじゃねぇか」
「そう思ってたのは俺だけだったのかも……」
げっそりと落ち込んでいる俺に、ジェイミーも困ったように眉を下げて話を聞いてくれている。呆れたり、めんどくさそうにしながらも、結局はこうして親身になって相談に乗ってくれるジェイミーが好きだ。だからコイツには1番最初に打ち明けたかった。
「私は貴方のお人形じゃないの、って言われてさぁ……そんなつもりなかったんだけど」
「知ってるよ、お前がちゃんとあの子のこと好きだったことくらいは」
「うん……。それで、俺のどこに不満がある? って聞いたら、そういうところが嫌い、とだけ言われて」
「っ……、」
「……おい、何笑ってんだよ」
「ああ、いや、ワリィ……随分ハッキリ言うなと思って……ふはっ」
口元に手を当てながら肩を震わせるジェイミーに少しムッとする。つまり、お前も彼女と同じことを思ってたわけ?そもそも、そういうところってどういうところだよ。ハッキリ言ってくれよ。
ひとしきり笑った後、ジェイミーはまた真面目な顔に戻って、俺の背中をぽんぽんと叩いた。じっと此方を見つめるジェイミーの射抜くような瞳が、別れ話をしていた時の彼女と重なってびくりとする。何、だよ。
「つまり、だ、ルーク。お前はそのままでいいんだよ」
「……は?」
「ルークのその性格は簡単に変わるとは思わねえし」
「だから、どんな性格だよ」
問い詰めてみると、ジェイミーは珍しく言いにくそうに目を泳がせる。そんなに性格悪いのか俺は。再び落ち込み始めた俺に、ジェイミーが少し慌てたように口を開いた。こいつはなんだかんだでお人よしで、とても人がいいのだ。
「あー……、言い方は悪いけど端的に言えば、盲目的っつか……」
「もーもくてき?」
「よく言えば正直者、だけどよ。自分の欲望に忠実っつー感じか。彼女に対しても、自分の好きなように愛でてたんじゃねえの?一方的に可愛がってたり、よかれと思って無意識に振り回してたり」
そういうのに疲れたのかもな、と続けて、ジェイミーはそこで話を終えた。俺はと言えば、ジェイミーの発言と考察に返す言葉もなく、ただひたすら心の中で彼女に謝っていた。
そんな俺を察したのか、ジェイミーがまた困ったように笑う。
「んな気にすることねーって」
「……」
「お前が彼女を好きだったのは事実だし、ちょっとした擦れ違いってヤツだろ。ルークばかりが悪いわけじゃねえと思う、俺はな」
「でも、俺、」
「俺はわりと好きだぜ、お前のそういうとこ」
まあ鬱陶しい時もあるけどな、と笑うジェイミーの優しげな瞳に、思わず縋りたくなってしまう。こいつは人を弱くする、自分が弱いことを自覚させられる、そんな人間だと感じていたけど、同時に強くもしてくれる。前にボシュが、あの人ってすぐ兄貴ヅラするよなとか俺には意味不明な言葉を吐いていたが、その意味を今更ながら理解した。
「そのままのお前を好きになってくれる子を探せよ」
な?と、いつもとは少し違う優しい笑みで背中を押され、うん、と返事をする。今まで当たり前のように与えられてきたジェイミーからの友愛が、今はとても尊いものに思えて、同時に少し歯痒かった。
こいつの優しさは万人に対するもので、俺だけのものじゃないのだ。独り占めしてみたい、そう漠然と思ってしまう。そんな権利、俺にはないのに。
「はー……、俺って独占欲強いのかも」
「ははっ、だろうな!」
見りゃ分かるっつの、そんなに愛される子も実は結構幸せだよな。そう、目を細めて言われて、どくんと胸が高鳴る。
ダメだ、絶対に、ジェイミーだけは。
そう思うのに、高鳴る胸は治まらない。ああ、もう、こうなったら割り切るしかない。こんな些細なきっかけで恋をするなんて、俺けっこーちょろいのかも。しかも、男だぜ、こいつ。馬鹿みたいだ。
ため息混じりに笑った俺に首を傾げたジェイミーの切れ長な瞳を見ながら、さて、どうやってオトそうかなと思った。