いまさら仕方ない。彼女はあの教会に来なかった…自分は彼女に選ばれなかったのだ。
未練がましく今でも思い出す。彼女ともあの頃つるんだ友人達とも連絡は取らなくなってしまった。それでいい…いつか自然に笑えるようになったら会いたいと思う。
「とか何とか言いながら…まだこの夢をみるか」
起き抜けのわりにずいぶんと高い自分の声。学生時代を引きずって俺は日々を生きている。
「あ~今日の仕事なんだっけ…」
ベッドから降りようとして気付いた…細い脚にふわふわとしたショーパン…なんだコレ?こんなの持ってないぞ?
そして何故気付かなかったのかと思うほど主張している胸の膨らみ…
「はっ?」
顔にかかる長い髪…俺、女の子だったっけ?
壁を見るとはば学の制服
やはり女物だった…考えると記憶が上書きされるように思い出してきた。
俺は「七ツ森実・17歳・女性・はば学では地味な七ツ森・仕事はモデルNanaとして活動中」起きた時の記憶の七ツ森とほぼ同じ記憶…性別と高校を卒業した記憶以外は…
「なんで…」
いつまでも未練がましく昔を思い出してたから?
「平日?だよな…学校行く準備しなきゃ…」
引き出しを開けるといつもなら男性用の下着が鎮座している場所にいたってシンプルなブラとパンティ
「……女子力とは」
そんな事を考えながら朝の支度をしていく…ブラは何の飾り気もないが胸の形をキレイにキープしてくれてる。記憶の中で事務所から目立たない格好をしたいのはわかるけど体型はきちんとキープするように言われていたので、胸は潰さないタイプの物を選んでいた。鏡越しに下着姿の自分を見る。女子の身体になっても別にドキドキとかはなかった…スタイルはいいけど自分だしな。
髪の毛は2つに分けた大きめの三つ編みにいつもと同じ分厚い眼鏡…
学校に行けばあの娘に会えるだろうか?
今の自分とも友達でいてくれてるのだろうか?
上書きされた記憶に彼女はいなかった…
学校について周りを見渡しても彼女はいない…こちらの世界(?)では友達になれなかったのだろう。彼女はとても人気があったから。
「おはよう、実ちゃん」
「えっ…」
目の前には背の高いピンクの髪の毛の男子
「浮かない顔してる…ちゃんと寝れてるの?」
優しく頬を撫でてくるこの男子は…
「小波…くん」
「また名字で呼んだ、名前で呼んでって言ったのに」
「だって…」
彼女なのか?俺が女の子になってるなら彼女も男になっていてもおかしくはない…
考えが纏まらなくて視線を彷徨わせていると
「実…くん?」
「えっ…」
「もしかして男の子の記憶がある実くん?」
内緒話をするように耳元で囁かれた
「…なんで」
「やっぱり!僕もね「美奈子の記憶」があるんだ」
聞けば彼は「小波湊(みなと)」性別が違うだけでほとんど変わりはないと言われた…
「…カザマとは?」
あの日、彼女を諦めた最大の理由。最強の幼馴染み様…彼は彼女を想い日本に帰ってきたのだ。しかしこの世界の彼女は男なのでカザマの初恋相手ではないのだろう。
「日本に帰ってきたよ?初恋の相手を探しに」
「えっ…だって」
「玲太くんね、昔の僕の事女の子だと思っていたみたい…」
悲しそうな顔…そうか初恋の相手にいざ会ったら男でしただなんて正直耐えられない。女の子の記憶もあるならカザマの優しい性格を考えるとツラいだろう。俺は別に本人同士がよければ同性でも構わないと思うけど…
「仲…悪いのか?」
「関係は良好だよ。玲太くん優しいしね。実ちゃんとも仲いいよ?」
「そうなのか?」
「関係は変わらないよ…ただ実ちゃんが女の子だから玲太くんの心配性は実ちゃんに向いてる」
「えー」
「スカート短いとかしょっちゅう言われてる」
「短い?コレ標準丈じゃないの?」
「実ちゃん女の子でも背の高い方だから余計にそう見えるみたいだよ?僕からも言わせてもらうけど…何故採寸をせずに既製服を買ったのか理解出来ないね」
そうだ…もう身長が止まってるからいいやと既製服を買った。ジャケットとワイシャツは胸が大きいのでワンサイズ大きいのを…正直スカートはワンサイズ小さいのを買えば良かった。
「とにかく。今は女の子なんだから気を付けて…お昼は一緒に食べよう?」
「…うん」
教室に入るといつも騒いでるメンバー。
「おっはよう!七ツ森」
「…はよ」
「お前ちょっとは笑えよ~」
「無駄じゃん」
「辛辣!」
通り過ぎ様目の前に何か転がってきた。
「わりぃ!イヤホン転がしちゃった 七ツ森取ってよ」
「も~」
ニヤニヤしてるクラスメート…足元に転がっているイヤホンを上半身を折り曲げて取ろうとした時、後ろに人の気配
「おはよう。七ツ森」
「……はよカザマ」
「(いい、お前は取るな。俺が取るから)」
「(へっ?何で?)」
「(スカートの中覗かれてたぞ)」
「……////!?」
「ほら高い物なんだろう?気を付けろよ」
カザマが拾い落とした奴に渡す
「…あっああ!悪いな、風真ありがとう」
「イタズラで済まされる範囲の事にしろよ…」
カザマにすごまれた男子は青ざめながら頷いた。
「ありがとカザマ」
「常に言ってるだろ?スカート短すぎでーす」
「うっ…気を付けマス」
「(お前、自分が地味だからって何もないなんて思ってないだろうな?)」
「(……思ってマシタ)」
呆れた顔をしてから頭に手を置かれる。一撫でされて
「昼休みに迎えにくるからな」
と優しい笑顔をして自分の教室に戻っていった…わざわざ朝の挨拶にきてくれて庇ってくれたの?やること成すことイケメン過ぎない?
彼女に対していたドキドキが今のカザマにもしている。俺ってこんなシチュに弱かったんだなぁ…
ヤダなぁ…こんな感情にまた振り回されるなんて。早く元に戻りたい…
あれから何度か夜を越えたが、元に戻ることはなかった…また高校生をやるのか?不得意だった勉強をしなきゃならないなんて苦痛過ぎる。俺の記憶は正確なようで昔やったはずの授業はいまでもちんぷんかんぷんだった…
「おはよう実ちゃん」
校門を過ぎた時に後ろから声を掛けられる。
「おはよう小波」
「また名字~」
少し頬を膨らませて拗ねる姿はやはり彼女の面影があって嬉しくなる。
「だって名前で呼ぶと女子が怖いんですよ。できれば学校じゃ話し掛けないで欲しいくらい」
「酷い~」
そう彼女はやはり男子になっても人気があるのだ。もう一人、例の最強の幼馴染み様と一緒になって俺のそばに寄ってくるのだから女子からの熱い嫉妬混じりの視線が怖い。俺はこの世界でも地味で無口な七ツ森がいい…
下駄箱について靴を履き替える。そんな時はいつも小波かカザマが俺の後ろにたつ…スカートが短いと散々注意をするくせに買い直せとは言わない二人に甘えて今日もスカートの中が見えないようにボディガードをまかせる。
見えても平気なようにペチパンツを履いていると言ったが二人に「見せていいパンツがあるものか」と言われた。見せてもいいパンツだとは言ってない。
しかし今日は朝から下っ腹?辺りが痛い…何か変な物食べたっけ?無意識にお腹をさする姿を小波が見ていた事には気付かなかった。
昼休みになりお腹の痛みはピークに達する…原因はわかった。休み時間に俺のところにきた小波が俺の鞄を勝手に漁りピンク色のポーチを出して俺を連れて教室を出た。
何処に行くのかと聞くと無言で人気のない階のトイレに連れていかれ
「お腹痛いんでしょ?たぶん生理になると思うからつけてきて」
「……………はっ?」
「ナプキン。つけ方は覚えてる?さすがに僕が一緒に入ってつけてあげる事は出来ないからね」
「いやさすがにそれは…今も男の記憶が強いだけでちゃんとわかってますけど…」
えっ…いくら女の子の時の記憶があるとは言え本人より先に気付くもん?困惑している俺を無視して目の前でポーチを漁る小波
「あれ?薬きらしてるじゃん。ちゃんと補充しておかなきゃダメだろ」
「…ゴメンナサイ」
「薬の事は玲太くんにも聞いておくから先にコレね」
とポーチを渡される。待って…同級生に生理の周期を把握されてるとは何事?
「あの…」
「なに?待っててあげるから急ぎな。休み時間終わっちゃうよ?」
「…俺達、付き合ってるわけでは…?」
「……残念ながら。僕は付き合ってもいいけど」
「はっ!?」
付き合ってもいいって言った!?
「ほら時間ないよ」
「う、うん」
慌ててトイレに入る。
「抜け駆けしたら玲太くんに殺されちゃうよ」
小波の呟きは聞こえなかった。
それからいくつかの授業を受けての昼休みだったのだが、痛くてダメだ…動きたくない。保健室に薬を貰いに行きたいのに…
机に枕代わりのタオルを敷いて突っ伏してると名前を呼ばれた…えっ…もう授業始まるの?
「七ツ森…動けるか?」
「…カザマ?」
「悪い、今日は俺も薬を持ち合わせてなかった。次からは気をつけるから保健室に行こう」
「うん…でも今は動けないから…後で行く」
「そんなに痛いのか?」
「痛いし、貧血…」
「そうかーー」
あ~何で俺同級生男子に生理のツラさを言っちゃってるんだろ…恥ずいじゃん
「ほら、七ツ森。俺の首に腕を回して掴まって」
「……へっ」
「保健室連れてってやるから」
「………やめて…殺されちゃう」
「なんだ?それ」
その後は無理矢理抱っこされ保健室に連れていかれた…教室を出て保健室に着くまでの間、女子達の悲鳴は続いていた…てか何でこんなに俺に構うんだよ…ひとまず身の安全のため意識のないふりをした…
保健室について先生の許可を得て薬を貰いベッドに横になる。先生は会議の準備だか何かで出て行ったけど理由は聞きとれなかった。
「少し寝ておけ。また迎えにくるから」
「うん。アリガト…カザマ」
「何だ?他に何かして欲しい事あるか?」
「制服…脱がせて」
「…はっ?」
「シワになるのヤダ…だいじょぶ…ペチパンツ履いてる…から」
薬が効いてきて意識が睡魔に支配される。
一時間ほど眠り、起きたら制服のジャケット、リボン、スカートは脱がされベッド横の椅子に畳まれて置いてあった。
ペチパンツは…履いてなかった…
ごめん…カザマ