無題そう言ってロジェール達は少し前を歩く。
二人の微笑んでいる姿を見て、私は少しだけ歩く速度を落としやや離れて二人を見守る。
心が苦しくなる訳でもない。
かと言って気にならない訳でもない。
ただ幸せそうに微笑んでいる二人を見て、自然と一歩引いて見守ってしまう。
「…良いのか?」
不意に小さな声でDが言う。
彼なりの配慮なのだろう
こちらを見るでもなく、ただ前にいる二人を見ながら話しかけてきた。
「私そんなに顔に出てた?」
「いや、出てない。出てたら俺よりロジェールが先に気が付く。あいつは敏いからな」
(その敏い人より前に気が付くDも大概なんだけど)
そう思うが口には出さない。
「…良いとか悪いとかじゃなくて何ていうか幸せそうな二人を見ると、自然と見守ってしまうんだよ。癖だね」
「自分の幸せより他人の幸せを優先する事がか?」
「違う」
私が間髪を入れずに否定したせいか、数秒沈黙の後に、微かな溜息と供に「そうか」と言う返事が返ってきた。
彼は相変わらず前を向いたまま私に合せて歩く。
(他人の幸せを優先するとか綺麗なものじない。ただ疲れたくないだけ。どろりとした自分の感情を曝け出して自己嫌悪に陥りたくない、嫌われたくないだけ)
気を使ってくれた彼に心の中で謝りしつつ、私は再びロジェール達を見た。
気のせいかも知れないけど、二人を見てもさっき
より気持ちが少し軽くなった様な気がする。
どちらにしろDには気の毒な事をしたので
次の日お詫びに彼にある事をしたが
まさか全力で逃げ出すなんて、此時の私は想像すらしていなかった。