安楽椅子探偵に憧れて「……しぐれ探偵、なんすか。それ」
探偵助手である水凪が探偵事務所に戻ると、昨日までなかったものが部屋の中心で存在感を放っていた。
水凪の視線の先――安楽椅子にゆったりと腰掛けたしぐれ探偵が、ひどく上機嫌な様子で水凪を振り返った。
「あ、おかえり自由! 見てこれ、良くない?」
「いや……いいとかじゃないんすけど……え、普通に邪魔じゃないっすか。部屋のど真ん中に、そんなん」
「そうかなあ?」
心底不思議そうに首を傾げるしぐれ探偵に、水凪は非難するような視線を向けたたみかける。
「なんで買ったんすか、それ」
「え? ……なんだ、自由知らないの?」
「何がっすか」
「安楽椅子探偵。椅子に座っているだけで真実を言い当てる、素晴らしい探偵さ」
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