Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    spring_lifelock

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 6

    spring_lifelock

    ☆quiet follow

    特に続かないラジイズの馬鹿話
    コトビの料理ネタ(調理開始まで行ってない)

    コトビが料理します(してない)コトビは激怒した。かの邪智暴虐のマグロを見返さねばならぬと決意した。コトビには料理がわからぬ。コトビは良家の坊ちゃんである。両親と自分はピアノを弾き、家事はお手伝いさんが担う家で暮らしてきた。けれども馬鹿にされることに対してはヒト一倍に敏感であった。

    自分は家事ができない訳ではない。少し経験が足りないのだ。
    やれば出来る。自分はそういうミューモンだ。ただ、今まで必要がなかったから上達しないまま来ているだけで。今後も特に経験を積む緊急性がないだけで。
    自分という存在に絶対の自信があるコトビは、誰に言うでもなく心で呟き頷いた。

    ちなみに、これらは全てコトビの主観であるため、他のミューモンから見れば虚偽の申告である。
    コトビは料理どころか音楽以外に出来ることを探す方が難しい男だ。良く言えば音楽に全てを捧げた男。悪く言えば音楽以外の全てから裸足で逃げられた男である。
    そんな彼が特に苦手としているのは家事労働。中でも料理は失敗が見た目と味の双方に出てくるためわかりやすい。
    今回、彼の料理に付き合うことになった、バンドメンバーのルイードの目は澱んでいる。

    そもそも何故こんな事になっているのか。
    発端は、前日に遡る。





    ルイードが、とある番組出演のオファーを持ってきた。
    ネット配信限定の小さな番組だが、比較的人気がある部類のものらしい。しかし、内容が問題だった。音楽番組ではない。料理番組なのである。
    最近勢いのあるバンドを呼んで即興でお題通りの料理を作らせるという、コトビとしてはどこの層に需要があるのか理解できないものだ。
    そもそもコトビにはバラエティに出る気などサラサラない。作った料理に合格点が貰えれば、番組の最後に演奏披露の時間が取られるらしいが、前振りの料理という茶番に付き合うのなら、その時間に練習をして別のキチンとした音楽番組に出られるように努力した方が余程良い。
    ルイードも一応正式なオファーだからメンバー全員に共有しているだけで、受けるつもりはないだろう。

    おおよその概要を説明したルイードが、それで、と口を開く。

    「サンプは今日仕事があるって言ってたから、事前に連絡しておいた。『おまえらが出るなら出る』って。どうする?」
    「アイツが乗り気なのめっずらし。見えてる地雷なのに」

    マナツが驚いたように目を見開いた。
    確かに、普段であれば『遠慮する』『嫌だ』『おまえらだけで良いだろ』と、拒否の一点張りだろうに、珍しいとルイードも思っていた。しかし、バンド活動に前向きなのは悪いことではない。その変化に嬉しく思うのも本音だ。その活動内容が明らかにヤバいものであっても。

    ちなみに、彼らは知らないが、最近になってやっと正式加入したサンプは割と浮かれていた。長年燻っていた複雑な感情が晴らされ、やっと素直に友達だと言えるミューモンが出来た。バンドに加入し、仲間も出来た。そんな彼は現在、友達となら何をやっても楽しい時期である。浮かれついでに強固すぎた危機管理能力をちょっと捨てた。ガードがゆるゆるになっており、それが今回の返答に繋がったのであった。

    閑話休題。

    「マ、料理とかムリだろ」

    あっけらかんとマナツが結論を出した。頭の後ろで腕を組み、ギッと音を立てながら背もたれに体重をかける。話し合う気は初めからゼロである。

    まぁ、だろうな、とはルイードも思う。
    そういえば、サンプはコトビが音楽以外クソということを話には聞いていても、実際に見たことはあまりなかったかもしれない。
    思い至って、やけに気軽に返事が来た理由がわかった。もし知っていたならこんなに軽々了承しないだろう。せっかくサンプのやる気が出たのに、この機会を逃すのは非常に、非っ常に残念ではあるのだが、正直なところ断った方がお互いのためだ。

    「僕も断るのには賛成ですが、お前が否定的なのは意外でした。面白そうって言って勝手に受けそうなのに」

    今回のオファーは見送り、と意見が一致したことを確認したコトビが言えば、『お前』と指されたマナツはパチ、と一つ瞬きをした。
    無言のままルイードと視線を合わせ、彼が頷いたのを見て、自分も了解の意を示す。
    長年の付き合いがあればアイコンタクトで会話など造作もないのだ。

    「コトビが居るのに料理番組とか、ただの放送事故になるだろ。オマエ破滅的に家事できないんだから。昨日でレンジ爆破何回目よ」
    「なんっで言っちゃうんだよ いま余計なこと言うなって意味で頷いたんだわ!」
    「エッマジ? 全部言ったれってことじゃねェのかよ」

    訂正。ミューモンとは自分の意思を正確に伝えるために言語と音楽が発達したのだ。それ以外のコミュニケーションなどは邪道である。

    ギャアギャアと喧しく言い合うふたりを他所に、コトビはフツフツと煮立っていた。
    確かにコトビは ”まだ” 料理があまり得意ではない。しかしながら、初めから出来ないと断じられるのは、はなはだ心外だ。

    (まだ経験が足りませんからね、多少の失敗はするかもしれません……が、『放送事故』? 『破滅的に』……?)

    「はぁ 馬鹿にしないでください! 僕だって料理くらい出来ますが」
    「ほらもう面倒臭くなってるお前ホント責任取ってくたばれ」
    「くたばったら責任取れないでしょうに。マァ取る気もねェけど」

    怒りが爆発したコトビは、さながら昨日炎上騒ぎを起こした電子レンジのようである。そんな直近に例えがあって欲しくなかった。
    コトビにとってレンジは知らぬ間に爆発するものであり、料理下手の証左ではない。自覚のない破壊神ほど厄介なものはない。
    マナツとルイードが今回のオファーを断るつもりであったのは、コトビが番組セットを炎上させる放送事故を防ぐため、という至極真っ当な理由である。ラジイズの炎上はネット記事だけで良い。なんならネット記事も炎上しなければなお良い。

    自覚のない破壊神、しかもプライドが雲より高い男が、馬鹿にされたことで負けず嫌いを発揮したらどうなるか。

    「明日の夕飯は僕が作ります! 上手く出来れば番組出演、出来なければ蹴る! 明日の結果を見て精々僕への認識を改めるんですね!」

    こうなる。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works