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    @owari33_fin

    アズリド/フロリド同軸🆚
    ここに上げたお話は、大幅に加筆してpixivに置いてます→pixiv https://www.pixiv.net/users/31202925

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    ミーティア3️⃣ Az-9 『指輪』

     リドルと揃いの指輪をはめて出社したその日、挨拶してすれ違う面々がギョッとしたり二度見して、コソコソと部屋の隅で僕の話しをしている。僕は、その鬱陶しい視線を無視して、本日の掘削計画表に目を通した。この馬鹿みたいにアナログな職場は、毎日部署の面々に掘削計画表が紙で手渡される。いちいち紙にプリントなんて……と最初は思っていたが、すぐさま理由がわかった。
     この部署で行っている仕事は、毎朝配られるこの計画表に目を通し、その後現場に向かってそこの監督と本日の掘削角度を入念に話し合い、ガス状のエネルギーがあるであろう場所に向かって人力で井戸を掘り進めていく。その地中深く電波の届かない場所では、スマートフォンやタブレットといった媒体は全く使用できないから、いまだ紙を使用していた
     昔は、陸上大型リグで垂直に掘削作業を行っていたが、このエネルギーはまるで意思があるかのように目標ポイントから逃げた。そのせいで垂直掘削では目標を捉えられず失敗を重ねたようだ。なおかつ、その大型リグの年間使用ライセンスがバカ高く、何度も掘削に失敗したせいで、例え国を上げた事業であっても、割に合わなければ簡単に融資する側は手を引く。商売なんてそんなもんだ。
     そうやって融資も、国から与えられる予算も年々減って、かつては二〇〇〇人が働いていた現場も、今となっては掘削作業をしているのは五〇名と少しだ。この人数でローテーションで掘削したとして、硬い岩盤を避け、フラフラと動く新エネルギーまで到達するなんて一〇〇年かかっても無理だ。すでに傾斜堀で斜めに掘削して、蟻の巣のようになっている。ここまでしても捉えられないなんて、本当に新エネルギーなんてあるのだろうか?
     しかし、国がこの事業から撤退しないのは、もしこの新エネルギーを掘り当て活用できたら、夕焼けの草原はこのツイステッドワンダーランドで世界有数のエネルギー大国になる。その僅かな可能性にすがり、切ることが出来ず、ちまちまと掘り進めているのはいかがなものかと、僕は思わずにはいられなかった。
     僕に与えられた業務は、現場から上がってきたエネルギー波形の座標ポイントを書き出し、前日掘り進めた部分の地図の書き換えや、掘り進めることが出来ないポイントを大きな地図に直接書き足していく。そして、流動するエネルギーが次どのポイントに移動するか予測を立てる。仕上がったら資格を持った人間に渡しチェックしてもらい、OKが出たら必要枚数をコピーする。それで終了だ。
     もし時間を持て余してしまったら、現場に引っ張り出されて、掘削で出た土や石を外に運び出す作業に駆り出される。僕が見た目と違い力があると知られたせいで、朝から現場に引っ張り出されて、パンパンに詰まった土のう袋を地上に捨てに行くトラックに積み込む作業をさせられた。
     土のう袋の重さは問題ないが、地中の温度は凄まじく熱く、人魚の僕には耐え難かった。なんとか魔法で冷気をまといながら作業しても、土のう袋が積まれた場所からトラックまでそれなりにある距離を何十往復すれば疲れは溜まる。二時間ぶっ続けで作業した日、目を回して倒れれば、現場監督に「これだから、お坊ちゃま学校の軟弱な人魚は……」と呆れられた。
     思い出すだけで腹が立つ。いや、ここに来てから腹が立たなかった瞬間なんて一瞬もない。僕をバカにしやがって、今に見てろ……!!!
     呪いのように心の中で繰り返して、今日も渡されたデータを元に地図に書き込みをしていると、後ろから伺うように声をかけられた。
    「アーシェングロット、お前さぁ……その指輪って、まさか結婚してるとか言わねぇよな?」
     この部署で一番年若い男が、先輩にグイグイと背中を押されて、指輪のことを聞いてこいとでも言われたのか、彼らにしては控えめに聞いてきた。
    「まだ正式に籍入れていませんが、結婚は承諾してもらっています」
     僕の言葉に、聞き耳を立てていた連中が一斉に席を立ち僕を見た。
    「結婚って、お前まだ学生だろ!?」「どこで知り合ったんだ!? 写真はないのか!?」「相手は美人か?」「年下に先を越されるなんて!」
     口々に話す奴らにうるさいと感じながら、義父が送ってきたリドルが子供たちを抱き上げた写真をチラリと見せれば、整ったリドルの容姿を羨ましがり、同時にリドルの腕に抱かれた小さな双子の新生児に皆が驚いた。
    「おまえ……こんなちっせぇガキまで……しかも二人も」
     この時の僕は、彼らの反応が何を指すのか、獣人の文化をそこまで理解していなかった事もあって、まだよく分かっていなかった。
     彼らの中では、日々僕への評価が変わっていたようで、それなりに能力値が高いのに、どうして獣人でもない、夕焼けの草原に縁もゆかりも無い人魚が、インターン先にここを選んだのか……どれだけ考えても謎だった部分が、まだ学生なのに生まれたばかりの子供が二人もいる、というそれなりにセンセーショナルな事情を知り、各々勝手に妄想を膨らませているようだ。
     その内容と言ったら、古めかしいドラマのあらすじのようで、後に聞いた僕は声を上げて笑ってしまった。
     その内容は、お坊ちゃま学校に通う僕が、同い年の少女と恋に落ち、若気の至りで妊娠させてしまうも、この歳で子供を産むことを周囲に猛反対され。僕に至ってはは、この不始末に家族から勘当され。見かねたこの国の第二王子が、本年度から所長兼代表取締役に収まったこの事業に、僕の能力を見込んで紹介した……という筋書きだ。
     けれども、どうして第二王子がこんな、いまにも取り潰されそうな場所を紹介したのか? 次に浮かび上がった疑問に、その場にいた全員が首をひねる。
     僕はこれを良いチャンスかもしれないと、とびきりの笑顔を顔に貼り付けた。
    「それは、レオナさんが皆さんを信じておられるからですよ。皆さんの知識と技術を総動員すれば、きっと回りが不可能だと言ったエネルギーを掘り出すことに成功する……『オレは皆を信じてるんだ』と僕に熱く語ってくださったんです」
     この言葉に、今まで死んだ魚のような目をしていた彼らの目に炎が灯された。第二王子は、自分たちのことを信じていてくれているんだと……
     この僕の打ったひと芝居を知ったレオナは、きっと嫌そうに眉を顰め、嫌味のひとつやふたつ言ってくるだろう。が、そんなこと知ったことか。仕事内容で騙した借りだとばかりに、その名で士気を上げる手助けぐらいすればいい。
     リドルと揃いの指輪をはめてから、なんだかツキが回ってきた気さえする。もしかしたらリドルは、僕にとって本当に幸運の女神なのかもしれない。
    (リドルさん、どうか待っていてください、四年どころか、もっと早くあなたを迎えに行きますから……)
     僕はそう、心の中でリドルに誓い。目の前に積み重なった作業に戻るのだった。
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