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    はとこ

    エリよす専用垢。キスブラの4000字前後の短編を収納予定。

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    はとこ

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    完成したらこれにくっつける…かもしれないです。
    ちょっと…4万ピースにちょっと折れかかってしまったので景気づけに…。
    ルビ振れないとキの渾名が……

    雰囲気話。可哀想なモブ視点。

    キブ🀄キのパロその通りには近付くな、ある人物に出会ったら己の運のなさを恨め。だが、もしその人物を仕留めることができるのなら、これ以上もないほどの称賛と力を得られるだろう。
    なんて、脅しとこちらの欲とを見透かされたような忠告を受け、一度は引けた足をなんとか奮い立たせて件の通り、その入り口に立っている。見た限り普通の裏通り…いや、普通ではないか。なにせ昼間だというのに人っ子ひとりいやしない。おまけに薄暗い。所謂裏通りというものだが、それにしてはゴミもない。吐瀉物もない。日当たり不良という点を除けば、なんなら表よりクリーンかもしれない。それがかえって不安をあおるし不気味だ。
    ここはビームス家という、この辺りの人間は知らない者がいないほど大きなマフィアが仕切っている。もちろん、この通りもそのひとつ。なんなら、この通りのどこかにアジトだか根城にしている店のひとつ、ふたつはあるだろう。そこに、余所者が足を踏み込めばどうなるか…理解はしていても、止めることはできない。きっと、俺はここへ来るように仕向けられてしまった。逃げてもどのみち追われるような気がする。なら、進むしかないとここへ来たが…早計だったかもしれないと僅かに後悔している。
    俺になにかと忠告してきた男は、おそらくは対立しているか様子見をしている奴ら、いずれにしろビームス家を良く思っていないファミリーの人間だろう。それくらいはなんとなくわかる。俺だって多くはないが暗殺で生計を立てている人間だ。同じ世界の人間の臭いはわかるつもりだ。
    ビームス家は最近、先代が隠居して新しいボスが立ったと聞いた。代替わりの時期はどのファミリーも殺気立つ。
    ふと、知り合いの情報屋が言っていたことを不意に思い出す。新しいボスの男は驚くほど美しい男だそうで、そういうのに目がないファミリーのボスが手を出して…やれ何人もの奴があの世に逝っただの、一日で壊滅させられただのと言われている。その話の出所だった男もそれきり姿を見ていないから、あの世に逝った一人になったんだろう。

    「……緑一色」

    この話が眉唾ものの噂でない大きな理由。たった一日でファミリーが壊滅するなど、本来ならよほど巨大な権力、もしくは力がなければ無理な話だが…ビームス家は違った。いや、ビームス家というより…ボスが抱えている配下だ。その一人が、緑一色なんてふざけた通り名の男だ。俺でもその名前に覚えがある。そして、それがぶら下げている尾もヒレも付き放題のとんでもない話の数々も。どれが嘘で本当かわからない話の中で、唯一はっきりしていることがある。
    ――殺しの道具が、麻雀牌である。それだけだ。

    「そこのニーサン」
    「っ!?」

    脳内に、以前聞いたことがある例の緑一色の風貌を描き始めた、時。不意に横から声をかけられ身構える。安易な変装…かけたサングラス越しに見えたのは、地面に座り込んだ男だ。くしゃくしゃな髪はくすんだ緑、いや金なのかもしれない。顔の横で三つ編みにして流しているから長いのかもしれない。
    派手な龍の模様が縫われたよれたシャツ、その胸ポケットにはやはりよれた煙草の箱が無理矢理押し込んである。
    聞こえてる~?と、やる気がなさそうにぷらぷると振られた右手にはごつい指輪がいくつかと、そして――

    (麻雀…牌…!)

    ごくり、と唾を飲む。よろけるようにして、けどなんとか後ろに退くことは耐えた。どうしてか、この場から動いてはいけないと直感したからだ。その勘は外れてはいなかったらしい。耐えた俺を見て、男は少しだけ表情を変えた…ような気がした。

    「ふーん…」

    ゆらり、と。影のように男が立ち上がる。先ほど発していたやる気のなさは消えて、代わりにこちらを値踏みしているような。舐めるように俺を見ている。
    背は、俺より少し高い。だけのはずなのに。ちろちろと、まるで蛇の舌先のように少しずつ、少しずつ。こちらを締め上げるようにして殺気を滲ませてくる。その気配が大きすぎて、今すぐ尻尾を巻いて逃げてしまいたい。だが、恐らく一歩でも動けば確実に俺は死ぬ。
    男は、細身ながらしっかりと鍛え上げられているのがわかる。それは、よれたシャツなんかじゃ隠しきれない。ブラフだ。この風貌も、先ほど見せたやる気のなさも緩い言動も全部。
    それに匂い。気付かなかったが、辺りに酒の匂いが強く、漂っている。つい先ほどまではなにも感じなかったのに。澄んでいた、綺麗だった。この男が現れるまでは。それは…つまり、音も気配も匂いさえもこちらに一切感じさせずに男が現れたということを意味する。次元が違う。格が、生物としての存在が違いすぎる!

    「そうビビんなって。でも、まぁなるほどな。腐ったチーズに騙されちまったネズミくんにしちゃできるな」

    なにを納得しているのか。男はうんうん、と一人で話を進めている。俺は、口が渇いてなにひとつ言葉を発せられないというのに。

    「あ?わかんねぇってツラしてるな。だってあんた、オレがなんなのかちゃんと視えてんだろ?」
    「み…え…?」

    やっと絞り出した声は震えていた。もしかしたら、最期の言葉になるかもしれないのに。男の言葉の意味が、意図が欠片もわからず告げられた言葉の一部を繰り返した。
    目の前にいる酒臭い男が恐ろしい。威嚇されているわけでもない。得物を見せられているわけでもない。目だ。この男の、色のついた丸い、おもちゃみたいな眼鏡越しに透けて見える目。元の色はわからない。知らない。それが、きゅっと。愉しそうに歪むのを見た。

    「えらいえらい」
    「は――」

    男の、舐めるような低音はすぐ耳元で聞こえた。それはそれは愉しそうな。言葉とは裏腹に、心臓を潰すような冷えた声だった。



    暗い廊下をゆっくり進む。最低限の灯りしかつけてないそこを歩く度に、ピカピカに磨き抜かれた硬質な床がコツリコツリと音を鳴らす。タップダンスでも踊りゃさぞかしいい感じに響くだろう。残念ながらそんな余裕も暇もねぇけど。
    真っ直ぐ伸びた廊下の終着点。現れた重厚な扉の両脇に控えたゴリラみたいな黒服が、オレを見て門番よろしくその扉を開けてくれる。

    「遅い。なにをしていた」

    キース。と、カチカチの温度のない声がオレを呼ぶ。
    中へちゃんと入ったことを確認して、外の門番共が扉を固く閉じる。これで、ここから勝手に出ることはできなくなったわけだ。目の前にある床より数段高い階段の上…そこにある玉座にいる腹が立つほど絵になった男。長い両足を組んで王様…いや、俺にとっちゃこいつは暴君さまだ。腰かけた男の赦しがなければ出ることも、煙草を吸うこともできねぇ。けど、どう見てもクソ怒ってるから簡単にゃ出してもらえないだろうことは容易に想像がつく。来た瞬間お小言コース決定とか萎えるわ~。

    「あー…そんな怒るなよ。眉間に谷底できてんぞ」
    「キースさん、軽口は控えて下さい。貴方に床を舐めさせたくはありませんので」

    すっ、と。オレと玉座の男との間に別の男が滑り込む。顔つきはまだ幼さも残ってるってのに、これなら少し怖く見えますか?と、最近かけ始めたサングラス、そしてパッと見ただけでもゴツさが伝わってくる体格の良さで十分、この世界の住人なんだとわからせてくる。ご主人サマに合わせて、俺は怒ってますってオーラ全開で凄んでくるし。
    確かにこの男…玉座の男を唯一としているオスカーは忠犬どころか番犬で、あいつの蹴りを食らって何度か医者に世話になってる。さすがに気合いと根性となけなしのプライドで床に這いつくばることだけは避けたけど。マジで加減も冗談も知らねぇから、手加減ってのを教えとかねぇと最悪、背骨が逝って寝たきりか即死するわ。

    「下がれオスカー。今はその時ではない」
    「申し訳ありませんブラッド様!」

    後ろから名前を呼ばれて、オスカーが腰を直角に曲げて暴君に向かって頭を垂れる。ってか声デカ…。
    オスカーが音もなく定位置に戻ると同時に、暴君さまは深いため息をつくと組んでいた足を外し、視線だけで人を凍らせられるんじゃないかってほど冷めた視線を投げて寄越す。ひえっひぇのピジョンブラッドに心底肝が冷える。

    「それで?貴様にはネズミの始末を任せていたはずだが」
    「ん?あぁ。食いついたチーズが腐ってるとも知らずに可哀想なヤツだったよ。オレが手を下すまでもないってやつ」
    「…ネズミが減って、犬が増えたと聞いたが?」

    うっわ、耳早いな相変わらず。べぇ、と舌を出して見せるとそれがまたオスカーの血管をいくつかぶち切ったのか、こっちをギラギラした目で見てくるから見ないフリをする。見たらションベンちびっちまう。

    「あ~…どうしようもねぇ駄犬だったらオレも拾ったりしなかったって。ほっといてもどうせ始末されちまうし、ならオレんちで養ってもいっかなって。結構お利口だからお前も気に入るんじゃね?」

    ま、悪さしたら捨てるからダイジョーブ。と、言葉を重ねればまたか、と深いため息をつかれる。またって、そんな頻度高くねぇけど…って文句は口にせずお口にチャックをしておく。今は別に本題がある。

    「ボス。そろそろあの腐ったチーズ、処分してもいいんじゃねぇのか?いくらチーズは腐ってた方がウマイったって、潮時だと思うぞ」
    「…そうか。では処理は任せていいな」
    「げぇ…マジかよ。クセェじゃん」
    「緑一色」

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