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    はとこ

    エリよす専用垢。キスブラの4000字前後の短編を収納予定。

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    はとこ

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    テレビを見ていて、キスブラ屋台のラーメン屋でグラス酒飲みながらなんの日でもないのに乾杯やってくれんか……というのを自家発電。けど……食べても飲んでも乾杯もせず終わってます……

    キスブラ『酒の肴』――さみぃから、暖かいモン食いに行こうぜ

    数時間前に告げられた言葉を受けて、俺は今イエローウエストの道をキースと並んで歩いている。愛車は生憎メンテ中で、今日は歩きになるぞ。そう告げた時のキースの顔は思い出すだけでも笑いが出る。なんだその絶望顔は。

    「あ~~~……さみぃ……だりぃ……もうどこでもいいから入ろうぜ」

    へっくしゅん。と、字にしたらこんな感じになるだろう典型的なくしゃみをして、キースは鼻をすする。完全に人頼み。車で悠々ぬくぬくと、どこぞの目的地に行くつもり満々だったと思われるキースは、エリオスから支給されているジャケットを羽織っただけの、防寒としてはだいぶ心許ない服装でやってきた。
    対して俺は、同じくジャケットに以前サウスの面々からもらったマフラー、今年は冷えるとオスカーに言われて買った防寒用の肌着、去年も使用した厚手の手袋をしている。完全武装だな、とはキースの言だ。

    「もう少し我慢しろ。直、目的地に着く」
    「って、おまえさっきもそう言っただろ~?いつになったらその目的地ってのは見えてくんだよ」
    「今日はこのあたりで店を出すと言っていたが……」

    と、辺りを見回した俺の目に、赤い提灯の光が飛び込んでくる。それはキースも確認したらしい。その赤い提灯がなんの店であるかを俺より熟知しているキースは、さっきまでダラダラと歩いていたくせに。目の色を変えて足早にそこへと吸い寄せられるように近付いていく。なんなら振り返って早く来いと急かす。その身の変わりようはなんなんだ。

    「いらっしゃ……あぁ、ブラッドさん」

    キースと共に暖簾を潜った俺を見て、店主の男が破顔する。最近知り合った店主は空いた席に座るよう俺とキースを手で促す。

    「へぇ……おまえがこんなとこ知ってるなんて意外だな」

    こんなところ……道の端で食べ物を出す店、いわゆる屋台である。ここはアキラに聞いて最近知った店だった。ホットドッグ以外にも食べるんだな、と聞いた時のアキラの顔は今も忘れられない。

    「こんばんは。今夜は冷えますね~おかげでこっちは繁盛してますが」
    「こんばんは。そのわりには客がいなかったようだが……」

    それは言いっこなしですよ!と笑いながら店主は俺から隣のキースへと視線を移す。

    「これは……メジャーヒーロー二人がこうして足を運んでくれるなんて、俺の店も有名になったもんですな」
    「オレのこと知ってるのか?」
    「知ってるもなにも、超有名人じゃないですか!嫌ですね~ジョークのつもりですかキースさん?それとも、もう酔っ払っちゃってるんです?」
    「いや……」

    はっは!と豪快に笑うさまは見ていて心地がいい。彼は明るく人懐っこい。俺をヒーローとして見るのではなく、ブラッド・ビームス個人として見て、接してくれる。そこがまた気に入っていた。聞けば彼はアキラの知り合い……元不良仲間の一人だという。今は屋台の主をやりながらニューミリオンをぐるりと回っているらしい。

    「ここ……ラーメン屋か?」

    店内……目の前の使い込まれたのがわかる木製の長テーブルは磨き込まれていて汚れ一つ見受けられない。
    はい、とキースの問いに答えながら店主は目の前にグラスを置く。寒空に気を遣ってか、中身は水ではなくほわりと湯気をあげる白湯のようだった。そのグラスにも汚れはない。潜った暖簾は端が少し擦りきれているが、良く手入れがなされている。

    「ふーん……じゃあラーメン二つ。酒は扱ってんのか?」
    「はい。と言ってもビールは切れちゃいまして……日本酒というのになりますがって、ブラッドさんと一緒にいる人なら説明はいらないですよね」
    「ぶっ!!」

    暖まりたかったのか。両手でグラスを握り、白湯を流し込んでいたキースが大袈裟に噎せる。汚い。

    「げふ!おま、」
    「え?一緒につるんでるって聞いたんで……俺、変なこと言いました?」
    「言い方が悪すぎんだろ!?」

    拗ねたように唇を尖らせるキースに見えないよう……店主が悪戯っぽい笑みを浮かべたのを見たが見なかったことにしよう。

    「なぁ、」

    店主が鮮やかな手付きで麺を茹でる手際を眺める俺の横で、思い出したようにキースが声をかけてくる。そうこうしている間にも、目の前では美しいラーメンが作られている。ザルに入れられた麺が、店主の手の返しに合わせて踊るように湯を切られていくのをじっと見つめる。何度見ても素晴らしい技術だ。

    「なんだ」

    白いだけの、飾りもなにもないどんぶりは中身が冷めないように予め暖められている。ほかほかと湯気をあげるどんぶりには、既に黄金に光るスープが麺を待って静かにその水面を揺らしている。

    「最近、どうなんだよ」

    湯を切られた麺が、すっと音もなく黄金に沈んでいく。差し入れられた箸が、麺を掬うように持ち上げ、折り畳むように再び沈めていく。

    「どう、とは」

    ほうれん草、メンマ。自家製の厚く切られたチャーシュー、味付け卵も自家製だと言っていたのを思い出す。

    「その、仕事だよ。このところ一段と大変だろ?だから、その……」

    お待ち、と目の前に出された美しい手際から生み出された美しい料理。これを前に、どんな無粋も許されることではない。それが例え――キースという男が見せる、俺への心配や労いだとしても。ここにいるのはヒーローでもなんでもない、ただ一人の男、なのだから。

    「キース」
    「へ?」

    続いてテーブルへと置かれたのは、これも暖かな湯気をあげる……だが、白湯ではなく酒だ。

    「酒の肴にもならん話をするな」

    熱い日本酒はお猪口で飲むのが一般的だが、こういう言い方は悪いが雑なのも風情があっていい。形ではなく、要は楽しめればそれでいいのだから。
    グラスを持ち上げ、目の前で物言いたげな男に向ける。

    「ここに旨い酒と旨い飯がある。ならば、俺たちがすべきことはただそれを楽しみ、笑い話をすることだ」

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    recommended works

    和花🌼

    DONE夏祭りワードパレットを使用したリクエスト
    7 原作
    ・帰り道
    ・歩調を落として
    ・特別
    ・あっという間
    ・忘れられない

    暑苦しいほど仲良しな二人を楽しんでいただけたら嬉しいです。
    夏祭り 7(原作) 夏祭りといえば浴衣を着て、友人や家族、それに恋人なんかと団扇で顔を仰ぎつつ、露店を横目で見ながら、そぞろ歩きするのが醍醐味というものだ。それに花火も加われば、もう言うことはない。
     だが、それは祭りに客として参加している場合は、である。
     出店の営業を終え、銀時が借りてきたライトバンを運転して依頼主のところに売り上げ金や余った品を届け、やっと三人揃って万事屋の玄関先に辿り着いた時には、神楽はもう半分寝ていたし、新八も玄関の上がり框の段差分も足を上げたくないといった様子で神楽の隣に突っ伏した。そんな二人に「せめて部屋に入んな」と声をかけた銀時の声にも疲れが滲む。暑いなか、ずっと外にいたのだ。それだけでも疲れるというのに、出店していた位置が良かったのか、今日は客が絶え間なく訪れ、目がまわるような忙しさだった。実際のところ、目が回るような感覚になったのは、暑さと疲労のせいだったのだが、そんな事を冷静に考えている暇もなかった。
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