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    はとこ

    エリよす専用垢。キスブラの4000字前後の短編を収納予定。

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    はとこ

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    キスブラ…未満。キの過去をあれこれ捏造しているので注意。5章前時空。呼べば迎えにくる、手を伸ばせば掴んでくれるって無条件に信じてる、少し傲慢なところがある…と思う…。

    行進目を開ける。
    ぼんやりとした視界の中に滲んで広がったのは、一面のオレンジと黄色だった。
    何度か目を瞬かせて、なんとなくはっきりとしてきた風景をアホみたいに口を開けたまま見回す。
    足元には黄色、そしてオレンジ。辺りは絵に描いたような青。そして白。白は雲じゃない。なんかよくわからない光の帯みたいなのが、こんなに明るいのによく見えて。空の端から端まで続いてる。それがなんなのかはよくわからなかったけど、別に悪いモンでもなさそうだし。なんなら、星みたいでキレイだなぁ、くらいの感想しかない。
    それより足元の色…目に突き刺さるような明るいそれは花だ。あんま詳しくねぇからそれがなんのなんていう名前の花なのかよくわからねぇけど。こういうの、ディノが好きそうだなって思った。

    「ここ、どこだ?」

    地面のそれは目の前に真っ直ぐ延びた道の向こうの向こうまでずっと続いてるらしい。色が途切れることはない。気になって後ろを振り向けば、やっぱり似たような道と色があるだけ。
    この、不思議で静かで鮮やかで眩しい場所にはオレしかいない。けど、嫌な気持ちはしなかった。しなかった、けど…寂しいとは思った。だから、オレは正直めんどくせぇけど、ゆっくり前に進むことにした。だって、後ろに戻るのはなんか嫌だと思ったから。
    煙草のひとつもねぇかと胸ポケットを探ったけど、こういう時に限ってないんだよな。スカスカのポケットから諦めて手を離して、とことこ、とことこと足を進める。
    そうしていると、なんだか声が聞こえてくる。聞いたことがあるような、でもよく覚えちゃいない声たち。高かったり低かったり。大人だったりガキだったり。笑ったり、怒ったり。それぞれが、オレの名前を呼ぶ。なんでか犬だか猫だかの鳴き声も混ざってたけど。

    (そういや、)

    犬。犬は心当たりがあるような気がする。
    むかしむかし、むかしの話。オレは家出というには物騒で、とにかくあそこにいたくなくて外に飛び出した。迫る手も、殴る手も。投げつけられる金も、暴力も、なにもかも嫌になって飛び出した。あそこから出れば出られれば、きっとなにかが変わる。なにかは終わる、なにかが始まるって信じてた馬鹿なガキの逃避行。
    現実は、あの家にいた頃と変わらない…なんならもっと命のキケンとやらで満ちた世界だった。そこで必死に息をするためにいろんなことをやった。それこそ、人をどうこうすること以外のいろんなことを、だ。
    追われることもあった。結局、家にいるか外にいるかの違いだけで、オレは、小さく細く隠れて息をするしかなかった。寒さに凍える心配があった分、前より酷くなった気がした。だから、寒さは嫌いだった。
    ごみ捨て場の陰…でかくて冷たい、けど高さがある分風避けにはなったゴミ箱の横で、拾ってきたボロボロの毛布…いや、そんな立派なモンじゃねぇか。布切れにくるまってガタガタ震えるオレの足元に潜り込むイキモノがいた。犬だ。オレと同じ、野良のイキモノ。

    「あいつ…どうしたっけ…」

    一緒に寒い夜を過ごすこともあった、灰色のそいつはいつの間にか姿を消してた。すごく寒い日の夜のことだ。オレもその時はちょっとした悪事を働いて追われてたから、構ってるヒマがなくて…それきりだ。
    その後も似たようなことがあった。みんな、同じだったのかもしれねぇな。熱があるから寄ってくる。少しでも体を暖めたくて。胸をぎゅっと握り潰すようななにかから目をそらしたくて、似たようなヤツにすり寄ってくるのかもしれない。集まって、固まって。いつかバラけてひとりになって。もう、固まることなんかねぇと思ってたのに。
    オレは運が良かった。それだけ。たまたまお節介なクソジジイがオレを拾い上げただけ。そいつが口煩く言うから、ひとりで生きれるだけの知識と術を盗み見ただけ。煩くてかなわねぇから…自分で金を稼いで立っていける場所を探してみただけ。そうして、また口うるせぇヤツに絡まれただけ。全部、全部、たまたまそこにそいつらがいた。だから、ここまで来られただけ。

    『   』

    呼ばれる。
    聞き覚えがあるようなないような声がオレを呼ぶ。怒ってるような、悲しんでるような。
    足を止めて振り返る。遠く、遠くに見えたのは家だ。あの場所。扉を開くのに何度も何度も深呼吸をしなきゃ開けることができない扉がある家。朧で、夢みたいな想い出が、暗くて狭いクローゼットにしまいこんである、家。
    息を飲んで、また前を向く。殺すように細い息を吐いて、また歩き出す。あそこには、たぶんもう帰らない、かな。わからない。まだ、その度胸も勇気もないまま、体と肩書きだけがデカくなっちまった。
    歩く。歩いて、歩いて。
    足元を埋め尽くす花を押し潰して進む。ふやけたような、ふわふわと浮いたような妙な感覚だけがある。
    進む。進む。そうしていると、はらりはらりと上から降るものがある。雨じゃない。雪でもねぇ。花だ。足元と同じ色の同じ花が、まるでシャワーみたいに降ってくる。その眩しさに頭がクラクラする。黄色とオレンジの点滅に脳ミソがやられちまいそうだった。
    それを鬱陶しく払いのけながら、やがてそれも意味がないほどたくさん降ってくるから。払うことも諦めてただ足だけを動かす。
    その間もずっと声は聞こえてて。他に言うことないの?ってくらい、オレの名前だけを呼んでる。いやいや、なんかあるだろ。

    「は…なんかって、なんだよ」

    例えば、おかえり。
    例えば、おはよう。
    例えば、おやすみ。
    例えば、ありがとう。

    たくさん言葉があるだろ。たくさん、そういう言葉があるだろ?なにひとつ、聞こえてくることはない。ないまま、オレは足を進めて、歩いて…そうして、辿り着いた。
    道は、途中で途切れてた。あれだけ鬱陶しかった花のシャワーも止んでて。足元を埋め尽くしてたやつもキレイさっぱりなくなってた。
    視界からあれだけの色が消えると、さっきまでは眩しいと感じてた風景もいきなり褪せて寂しさだけが残る。寂しい?誰が?

    「   」

    無意識だった。きっと、そのはずだ。
    この口から転がり出たある言葉に、名前に…オレは信じられなくて両手で口を塞ぐ。けど、このイカれた脳ミソは見慣れて、見慣れすぎて嫌になるくらいだって思ってるヤツのことを思い浮かべてる。音がなくてもわかる。脳ミソが生み出したそいつは、めちゃくちゃ眉間に深い縦皺刻んで、オレにお小言言ってる。飲み過ぎだとか煙草止めろとか報告書早く出せとか少し太ったんじゃないかとかうるせぇ余計なお世話だっつーの。
    こうやって簡単に想像して、脳内で音声付きで出てきちまうくらい、オレは、アイツの隣に、すぐ近くにいたんだな。
    なにもない空間に手を伸ばす。こうして、手を伸ばせば掴んでくれると知ってるから。嫌だ嫌だって文句垂れながらも、しょうがない奴だと困ったように笑う顔を知ってる。掴まれた手のひらの熱を知ってる。全部、知ってる、から――

    「キース」

    目を開ける。
    滲んだ視界の中に入ってきたのは、すっかり汗をかいて温くなったウイスキーのグラス。吸い慣れた煙草の紙箱。そして、両腕を組んで仁王立ちしてる、こわーいこわーい暴君さま。

    「起きたか。あまり世話を焼かせるな」

    これは勘定だ。短く告げて暴君さまはオレが突っ伏してるカウンターになにやら置いている。それをただ黙って見つめる。
    黙ってりゃキレイな横顔が、こっちを向く。目が一ミリも笑ってねぇしなんなら怒ってる時のギラつきを纏ったピジョンブラッドがオレをぶち抜く。

    「起きたらさっさと立て。帰るぞ、キース」

    ぼんやりとして、眠い眠いって駄々こねてるガキみたいなオレの体に回る腕がある。カウンターに投げ出されたままのオレの手を掴む暴君の、ブラッドの手がやっぱり暖かくて、怒られるって知ってたけど、笑わずにはいられなかった。
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    Replies from the creator

    はとこ

    DONE死神キと執事(南ハロ)ブさまの月見話と言いはる。シリアスめ。キスブラ。
    キはそのまま西ハロの死神ですが、ブさまは自動人形執事という設定になっています。それらを始め、ほのかな我設定が垣間見える感じのお話ですが、雰囲気で読んで頂ければと…。
    月だけが見ている頬に当たる空気はキンっと冷えきってる。いつもここは寒いけど、今日は一段と冷えてる。つっても、寒くて凍えるなんて弱い体とは昔々にオサラバしてるけど。
    冷えても焼いても切ってもオレは死なない。なんたって、その死を運ぶ死神さまなんだから。今日も今日とてお仕事お仕事~っと、懐から出した箱から煙草を一本咥える。あれ、火、火ぃどこに仕舞ったっけな…?別に魔力を使えば火のひとつ付けるなんざ造作もねぇけど…こんなことで力を使ったらお上がうるせぇし。
    ゴソゴソと重っ苦しいマントの中やら服を漁る…その、最中。

    「ひぇ!?」

    目深にかぶったフードを浅く裂いて、目の前を通りすぎたなにかに声を上げる。瞬きの間に通り抜けてったそれは、鈍色に光るカトラリーだった。いや、カトラリーってのは食事に使うもんで人様に投げるもんでもねぇし、こんな切れ味良かったら料理ごと皿が真っ二つになる。
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